お狐さんたち大爆発!

5人揃って五色戦隊 コギツネンジャー

「――」



 私はため息を漏らし、憂鬱な道のりを車で進んでいく。

 それは今朝の話なのだが、ゴコちゃんが珍しく朝食の時間に起きており、期待を込めたキラキラな瞳を向けてきたために、昨日の約束のことだろうと思い用事が終わってからゲーム屋に行くことを伝えたのだが、他の数子ちゃんも一緒に行きたいと言い、そこからどこに行くかの話し合いが始まってしまった。



 それを横目で見ていたベリルさんに、ゴコちゃんに弱みを見せたなと指摘されてしまい、項垂れたのだが、茶目っ気のある顔で何を知られたと聞かれ、私が何も答えないでいると可愛らしく胸を張っており、すでにバレていることを理解した。



 そこまでは良かったのだが、ニコちゃんの一言で流れが変わってしまった。

 その一言は「村長ぅが働いてたところ見てみたいよぅ」である。



 私はあまり面白くないと言ったのだが、それでも数子ちゃんたちはその気になってしまい、数子ちゃんたち5人を連れて清水区役所へと車を進めている。



 正直な話、数子ちゃんたちが奇異の目に晒されてしまうのではないかと不安を覚えており、なんとか別のものに興味を惹かれないかと期待しているのだが、彼女たちは道中楽しんでおり、別の場所に行こうと言い出すことも出来ないでいた。



「村長さん村長さん、悩み事ですか?」



「ああいや、大したことじゃないんだよ。ああそうだ、ゴコちゃんの要望だけ聞くのも不平等だからね、イチコちゃんはどこか行きたいところある?」



 私は助手席に座るイチコちゃんに尋ねると彼女は思案顔を浮かべ首を傾げて「みんなと一緒ならどこでも楽しい」と花のような笑顔で言ってくれた。

 そんな彼女の期待に添える場所なのだろうかと改めて肩を竦める。



 すると運転席側の後ろの席に座っていたゴコちゃんが肩を叩いてきた。



「まあ村長さんはちょっと考え過ぎですよ〜、物事なんていっちゃんみたいなアホみたいに構えていてもどうにでもなりますから〜」



「もぅゴコったら、私のほうがお姉ちゃんなのに、どうしてそんなこと言うかなぁ」



「手間のかかる姉ばかりなので〜、妹がしっかりするんですよ〜」



「そういえば数が少ないほうがお姉さんなんだっけ?」



「そうなんです、だから私が一番のお姉ちゃんなんですよ」



 胸を張る際、扉に思い切り肘を打ち付けて涙目になったイチコちゃんを撫でていると、後ろから抗議の声が聞こえた。



「いえ、イチコはボケているのでお姉さんというタイプではありませんよ。お姉さんというのはこのヨンコのように責任感のある性格の狐がなるべきです」



「え〜、お菓子ですぐ釣られるお姉ちゃんなんてやだよぅ。それならニコが適任だよぅ。だって流行に敏感だもん」



「……お前らに任せるのならあたしがなる、なる。ヨンコは普通にうるさいし、ニコは自分のことだけ。纏められるのはあたしだけ」



「その呪いをかけられそうな目をどうにかしてから言ってください〜、ウチはベリル様にも不甲斐ない姉たちを任されていますし〜実質姉なのでは〜」



 やんややんやと言い争いを始めてしまった数子ちゃんたちに私はたじろぐ。

 本気の喧嘩ではないことは明白なのだけれど、如何せん子どもと接した期間が短い私にとってこの状況は困惑してしまう。

 するとため息を漏らしたイチコちゃんが大きく息を吸い込んだのが見える。



「車の中で騒がないの! 村長さんの気が散って事故起こしたらどうするの、そんな話の結論は後でみんなで話し合って今は大人しくしましょう! ね?」



 イチコちゃんの声によって騒いでいた数子ちゃんたちが静まり返った。

 そして口々にごめんなさいと言い、大人しくそれぞれの時間に戻っていく。

 なるほどこれが長女の力かと他の数子ちゃんたちには申し訳ないが、イチコちゃんがお姉さんに1票を入れたいと思う。

 私はそっとイチコちゃんの頭を撫で、運転に集中する。



 そんな時間を過ごしているとついに区役所が見えてきてしまい、どうしたものかと考え込むのだが、ゴコちゃんに言われた通りなるようになるだろうと車を停め、役所内へと数子ちゃんたちを案内する。



 建物の中に入ると数子ちゃんたちが感嘆の声を上げており、辺りを見渡していた。

 ちなみに騒ぎになると困るということで、ベリルさんが数子ちゃんたちには尻尾と耳を隠すように言ってあるために、ゴコちゃんのよくわからない術によって尻尾と耳は隠れており、普通の可愛らしい女の子にしか見えない状態になっている。



「村長!」



「ああ若井くん、突然ごめんね」



「いえいえ、社会科見学みたいで俺は大歓迎っす。チビたち村長に我が儘ばかり言ってないか?」



「言ってないよぅ」



「言ってない、言ってない! 若井のほうが言ってそう、言ってそう」



「俺は良いんだよ、村長の後輩だからな」



 ニコちゃんとサンコちゃんにずるいと言われながら戯れる若井くんを横目に、ふとヨンコちゃんとゴコちゃんの姿が見えないことに気が付き私は首を傾げる。



 すると奥から、ここにいた時よりもさらに小さくなったように見える男性が歩んできた。彼は私がいた部署の部長で、困り顔で頭を下げてきた。

 私も彼に会釈をすると少なくなった頭髪が前より少なくなっていることに気が付き、気苦労をかけてしまっていると申し訳ない気持ちになる。



「ふふ、村長、今私の頭を見て苦労をかけていると思っただろう? でもこれね、若い女性と一緒にいるのを嫁に見られて髪を引きちぎられただけなんだよ。あとその女性は道がわからず困っていたから案内しただけなんだよ」



 本当なんだよと涙ながらに話す彼がひと月前とまったく変わっていなくて安心するべきかどうするべきかを考えてしまう。

 私はわかっていますと彼の無実を肯定し、カバンから弁当を取り出した。

 すると部長は私に引っ付いているイチコちゃんに目を向け、首を傾げていた。



「部長?」



「ああいや、もっとそれっぽいと思っていたんだけれど、実物は実に可愛らしいお嬢さんじゃないか。それで君を射止めたのはどの子だい?」



「部長、ここにはいませんよ。この子たちはその人と一緒に生活している子たちです」



「……ああなるほど、その人も随分苦労しているんだね。3人もお子さんが――うん、もし困ったことがあったらぜひこの区役所、そして私を頼ってくれ」



 何かとんでもない勘違いをしているが、彼女たちはベリルさんのお子さんではないと説明を受けた。

 なんでもベリルさんが力を与えた存在らしく、子どもではないが魂を分けた家族のようなものだと話していた。

 それを部長にどう説明しようかと思っていると、彼が人懐っこい顔でしゃがみ、イチコちゃんと視線を合わせた。



「こんにちはハゲのおじさんだよ〜、お名前はなんていうのかな?」



「い、イチコです」



 部長はそうかそうかと言ってポケットから酢昆布を取り出したのだが、私はイチコちゃんを抱き上げ、ミルクキャンディを彼女に手渡した。



「この子たちは甘いものが好きなんですよ」



「そうかそうか……」



 そっと酢昆布をポケットに忍ばせた部長がシュンとして顔を伏せた。

 昔からそうなのだが、部長はやたらと人に酢昆布を勧めたがる。悪い人ではないし、むしろいい人で優秀なのだが、そこだけが未だに理解できないでいる。



 そうして部長と話していると案内のテーブルの向こう側、つまり職員たちのデスクが並んでいる方から黄色い声が上がった。

 私は何事かとそちらに目を向けるのだが、そこではゴコちゃんが机に乗って可愛らしく鼻を鳴らし胸を張っている状況だった。



 しかし問題なのは隣にいる部長が口をあんぐりとしている状況であり、なんと彼女、尻尾と耳を外に出していた。



 私はすぐにゴコちゃんのそばに駆け寄ろうとしたのだが、ニコちゃんもサンコちゃんも尻尾と耳を出しており、頭を抱える。



 だが周囲の、特に若い職員とお年寄りには好評で、若い子たちからは可愛いと言われ、お年寄りからはお稲荷様だと崇められていた。



 周囲の意外な好感に私が目を白黒させていると、腕の中のイチコちゃんが笑顔を浮かべて袖を引っ張ってきて口を開いた。



「ね、大丈夫でしょう?」



 と、まるで私を見透かしているかのように言い放ったのだった。

 これが一番上の数子ちゃんかと感心しつつ、私は若井くんに弁当を渡してゴコちゃんを机から下ろすのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る