やっと自殺できたのに異世界転生で防御力∞とか舐めてんのか?
えすた
第一部 異世界とか舐めてんのか?
プロローグ
「やっと自殺した俺に、今度は異世界に行けと?」
「はい。決定事項です」
目の前で正座する天使がずずっと茶を飲んだ。ぷはぁと一息ついてやがる。
「ふざけるな」
ちなみに俺はふざけてなどいない。
俺と彼女は和室にいて、正座で向かい合っているが、ここは天界である。
そして彼女は天使であり、俺という魂の担当なんだそうな。見た目は絶世の美女だが、頭上に自己主張の激しい蛍光灯みたいなものが浮いている。
彼女はもう一度息を吐く。見せつけるかのようなため息だ。
「それはこちらの台詞ですよ。私だって忙しいんです。テストも佳境だというのに、転生者なんか寄越しやがって……しかもバグを引き当てやがるし……」
「普通に聞こえてんだが。バグがなんだって?」
「いいえ? なんでもありませんよ?」
天使が作り笑いを浮かべる。お粗末な態度なのに破壊力が抜群だった。
美人は得をするというが、そうだろうなと思う。死ぬことしか頭になかった俺でも、くらっとしそうになる。まあコイツは人ですらないが。
一方で、聞き捨てならないワードも確かに聞こえた。
「まるで世界がゲームであるかのような言い方だな」
「そうですよ。わかりやすく言えば、世界とはゲームです」
「……」
「天界とは言わば天使というゲームプログラマーの世界なのです。世界というゲームをつくり、動かし、披露し合うことで競い合っています。あなたが元いた世界ですが、ビビル・ゲイルという神様がつくりました。その功績で、彼は神となったのです。私もそれに続きたい。彼に追いつきたい。ああ、ビビル様――」
天使は自らを抱き、正座したまま腰をくねくねとひねっている。湯飲みは宙に浮いていた。前いた世界の物理法則ではありえないことだ。
……だよな。わかってる。これが夢じゃないことはとうにわかってる。
かれこれ数時間以上粘っているが、足掻きにもなるまい。いいかげん現実と向き合うべきだ。
考えてみれば単純なことだしな。
「茶番は終わりだ。さっさと転生してくれ」
「やっとその気になっていただけましたか」
「ああ」
天界のことはよくわからないが、転生を開始するには俺自身の意志が必要らしい。だったら転生をやめたいんだが、やめる権利はないそうで。
なら、自らやめてしまえばいい。
「向こうでもすぐに死んでやるぜ」
あえて挑むように呟いてみせたが。
「……それでは、いってらっしゃいませ」
聞こえなかったのか、スルーされたのか。
その声を最後に、目映い光が辺りを満たした。
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