刑事訴訟法319条1項の規定の機能
1.刑事訴訟法319条1項とは
刑事訴訟法319条1項は、「強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。」として、任意性のない自白は排除すべきだという立場に立っている。拷問や脅迫による自白は、「人は自分に不利なことは言わない」という考えのもと、証拠能力があるととらえることができないからである。
任意性のない自白を排除すべきだという考え方を、自白法則という。
強制、拷問又は脅迫をおこなった公務員は、特別公務員暴行陵虐罪に問われる。そもそも、違法行為により罪に問われている者がいるとしても、公務員も国民なのだから、違法行為をおこなっていいということにはならない。
また、刑事訴訟法319条1項は、日本国憲法第38条2項「強制,拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は,これを証拠とすることができない。」という理念にもとづいている。黙秘権という考え方は、憲法第38条2項から発生している。
2.自白法則に関する学説
以下では、自白法則に関する三つの学説を見ていきたい。
まず、虚偽排除説は、任意性によらない自白は虚偽のおそれがあるとして排除しようとする。つまり、自白法則を伝聞証拠禁止の原則とおなじくあくまでも法律上の問題としてとらえている。
次に、違法排除説は、「強制、拷問又は脅迫による自白」を将来的になるべく減らそうとする見地に立ち、違法な取調べによって得られた自白を排除しようとする。法収集証拠排除法と同様の考え方である。
そして、人権擁護説は、容疑者・被告人の黙秘権を中心とする人権を侵害するものとして、その自白を排除しようとする。
以上三つの学説を見ていくと、虚偽排除説は法律上の問題として、違法排除説は今後の社会の問題として、人権擁護説は倫理上の問題として、刑事訴訟法319条1項をとらえているということがわかる。
3.刑事訴訟法319条1項の機能
刑事訴訟法319条1項は、現状、行為規範や操作上の規範はなくあくまでも裁判規範である。つまり、「強制、拷問又は脅迫による自白」を直接的に禁止しているのではなく、それを証拠とすることができない、としているのである。
ところで、自白は容疑者・被告人本人が罪を認めるという性質から、証明力の高いものだとされてきた。証拠の9割は、自白によるものである。なので、歴史上、拷問や脅迫によって自白を促す例は枚挙に暇がない。そのことは、そもそも刑事訴訟法319条1項が制定されているという事実を見てもあきらかである。
刑事訴訟法319条1項があることにより、捜査官にとっても自白を証拠とでいないことは避けたいということで、拷問や脅迫が減っているということは充分に考えられる。
「法の中には、実は制定当時は必ずしも一般国民に対して社会規範であることを要求しないが、いずれ定着することを期待して、そっと埋められたものがあるのだと。」という通り、法律というものには、現状の国民の社会規範や行為規範の一段階上を目指して制定されているものもある。刑事訴訟法319条1項も、そういった法の一つであると考えられる。こういった考えは、先ほど取り上げた違法排除説や人権擁護説にも見られる。
刑事訴訟法319条1項は、ひいては拷問や脅迫をしてはならない、あるいは拷問や脅迫を決してしないという行為規範に結びつくことを期待して制定された法律なのである。
刑事訴訟法319条1項が、行為規範として国民に定着していけば、拷問や脅迫そのものが減り、国民の倫理性がまた一段上がることと思われる。倫理性を促す効果を期待できる法律なので、国民に広く知られていくべき法律である。拷問をさせないという配慮は、憲法第38条2項に基づいた理念とも言えるのである。
また、違法な手続きによる自白を減らしていくことで、冤罪が減っていく効果も期待できる。
以上が刑事訴訟法319条1項の機能である。
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