E 父
とにかく、走った。
遂に、来た。
昨日打ち上げてから、丸一日。
「太陽祖。要所はなんとか押さえました」
「よし。このまま温度が下がるまで誰も外に出ないか監視を続けろ。全員。いいな。焼かれるなよ。我々が倒れれば、誰も民が焼かれるのを止められない」
太陽に関する研究を始めて7年。太陽を教祖とする宗教集団を作って5年。
遂に来た。
太陽コロナの一部が、爆発して外に拡散していく現象。私はそれに、アフターコロナという名前をつけた。太陽コロナの後に発生するものという意味。
太陽風に乗ったアフターコロナは、凄まじい速度で地球に吹き付いていく。予想では、オゾン層の深いところまで食い込んで地球全体の温度分布が大きく変わるはずだった。
学会で説明などはしていない。
私にしか分からないから。
生まれつき、磁覚が異常に鋭かった。どこにいてもどういう姿勢でも、太陽の位置が分かるぐらい。
そして、太陽の違和感に気付いたのが8年前。それから研究を始め、学会を納得させる資料と情報が集まりきらないと判断したので宗教を作った。
幸運なことに、学会の権威が宗教に三人も参加してくれた。彼らは紙の資料よりも大事なものがあると分かっている。
彼らの研究も合わせて、そして、たどり着いた。局地的大規模コロナ爆発。その日取りと、規模。
アフターコロナを一時的にしのぐため、温室効果ガスを大量にオゾン層へ打ち込む。オゾン層に一部だけ穴を作り、コロナの吹き付けを一ヶ所だけに集める。
昨日の打ち上げは成功した。地震が起こるぐらい大量のガスを打ち込んでいる。
温度上昇はほとんど無人地帯だったが、今日になってコロナの吹き付け位置が微妙に変化していた。そこそこ大きな郊外が、その範囲内。
教団の全員で街に繰り出し、誰も外に出ないよう呼びかけ続けている。
連絡が来た。学会の権威。全員から同時に来ている。すべて画面に開いた。
「陽祖君。もうすぐ最高到達地点だ」
「教授。ありがとうございます」
「すまない。君だけに大変な仕事を」
「先生がたが倒れられては、困りますので。ここは若い私が焼かれるべきでしょう」
「いいかい。ひとつ約束してくれ。あぶなくなったら、君一人だけでも屋内の涼しいところに逃げなさい。一般市民のために君が命を落としては、次のアフターコロナ対策が大きく遅れる」
「しかし」
「これは全員の意見だ。いいかい。君の命は、他の一般市民を助けるためにも必要不可欠だ。なんとしても、生き残りなさい」
教授連中。こわばった顔。
「わかりました。善処します」
通信が切れた。
「うわっ」
端末。熱くて持てない。
「まいったな」
端末が使えなくなるとは思わなかった。ばかだな私は。端末が熱くなることなんて、簡単に想像できるじゃないか。こんな初歩的なことにすら気付かないなんて。
周りを見渡す。
熱心な教徒のおかげで、なんとか誰も外に出てはないらしい。
熱い。
いま、何度なのだろうか。
コンビニ。
誰かが、外に出ようとしている老人を引き留めようとしている。
コンビニに入った。
涼しい。
「あの、いま、そとに」
気温差が頭と足にきた。がくがくする。おちつけ。
「いま外に出るのは危険です。ここにいてください」
「あれ」
「あっ」
「おとう、さん?」
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