第87話.圧倒

 来る!


 それと同時に味方が少し前へ出る。


 強気で迎え撃つ気か。


 だったら、俺は逆に引き気味に周囲をケアしつつ味方のサポートに徹するか。


 味方と、敵の1人が正面から激突する。


 横から敵が1人来る。


 と、同時にもう1人の敵が反対側の側面へ。


 素早い連携。


 無駄がない。


 言葉を交わさずとも、このハイレベルな連携が出来るというのは、流石としか言いようがない。


 となると、まずは遠距離から先に側面を攻撃しようとしている敵を妨害だ。


 服をサイコキネシスで飛ばして視界を妨害。


 敵もこれには反応して、回避行動を取ろうとしたが、少し動いたくらいでは服は避けられない。


 結局回避行動も無駄になり、服を頭からかぶってしまう。


 よし、成功。


 攻撃したいが、もう1人も俺が妨害しないといけない。


 こっちの敵は少し時間を稼いだので、後は名も知らぬ味方に任せる。


 俺は1妨害を終えると同時に、テレポートを使う。


 普段なら戦闘中のテレポートはよっぽどのことが無い限りNGだが、今は乱戦。


 味方を壁にしてテレポートをすることで、相手からも追撃されにくくなる。


 壁にしたからといって、元々他の敵2人のヘイトは、味方に向いているわけだし、状況が変わることもないから迷惑も掛からないしな。


 それよりは、1秒――いや0.1秒でも早く敵の攻撃を妨害することが先決だ。


 と、テレポートを使った瞬間、味方が敵と戦いながら、俺が服を頭にかぶせた敵を攻撃したのが見えた。


 視界を塞がれて、後退しようとしていたその敵は、抵抗することも出来ずに倒れこむ。


 心臓部からは少しずれていたから、即死ではないと思うが、とても動くことはできないだろう。


 実質仕留めたと言える。


 すげーな。


 敵も中々の実力者ではあるが、この味方ひとも随分な実力者だ。


 っと、感心している場合じゃない。


 俺も自分の仕事をまっとうしないとな。


 味方の身体の影から抜け出して、俺は味方に迫りくる最後の敵に肉薄する。


 相手も、視野が狭まっていたのか、俺の突然の登場に僅かに動揺したかのような反応を見せた。


 しかし、流石にそれだけでやられるほど甘い相手でもない。


 ナイフでの斬りかかり程度は、完璧に躱して、カウンターまで狙ってくる。


 それに対して、俺も体を捻り躱し、パイロキネシスの攻撃。


 しばらく、避けてカウンターを狙っての応酬が続く。


 現在は俺も味方もそれぞれ1対1の状態。


 どちらも自身の相手との実力は互角で、戦況は均衡を保っている。


 この均衡が破れるのは、第三者の介入。


 もしくは、俺か味方のどちらかがタイマンに終止符を打つか打たれるかした時。


 第三者の介入も、しっかり頭の片隅には置いておきつつ、敵を倒すことに集中する!


 今度は先ほどと攻撃のパターンを変えて、再び仕掛ける。


 少しだけ近距離戦闘を繰り広げるも、やはり倒しきれず、どうした方がいいかと考え始めたところで、俺は視界にあるものを捉えた。


 あれは……!


 自然と笑みがこぼれる。


 ――俺が視界に捉えたもの。


 それは、星川の姿だった。


 星川も俺のことに気が付いたような反応を見せた。


 そして、こちらへ向かってくる。


 勝った!


 正直、本音を言えば、自分で格好良くタイマンでこの目の前の敵を倒して、この膠着状態にケリをつけたかったが、まあ形など関係ない。


 星川とタイミングを合わせて同時に攻撃をする。


 まずはあまり踏み込みすぎないように気を付けて、適当に相手をする。


 とは言っても、手を抜いていることがバレないようにしてだ。


 そして、相手にしている敵のヒーローの背後に星川が来たのと同時に、一気に敵の懐まで迫る。


「っ!」


 敵も気づいたようだ。


 後ろからも前からも敵が来ていることが分かったのか、咄嗟に横に移動しつつ、双方に牽制を入れてくる。


 やれやれ、本当に一筋縄では行かないって感じだよ。


 でも……。


 俺は一歩体を引くようなフェイントを入れる。


 その瞬間、俺がたたらを踏んだと勘違いしたのか、敵ヒーローの身体が星川の方へ向く。


 俺の方はあしらったから、一旦星川の相手をしようってことだろう。


 ただそれ、俺の掌の上なんですわ。


 体を引くのを途中で止め、地面を蹴る。


 この距離で回避は流石に不可能だとは思うが、最後まで緩めたりはしない。


 確実に仕留めるため、まずは左手にナイフを持ち替える。


 ナイフを持った左手は、そのまま心臓部を狙って突き出して、今度空いた右手はパイロキネシスの炎を纏う。


 これで、仮に前に倒れこんで攻撃を避ける、もしくは致命傷を避けるなどされても、炎で仕留めきることができる。


 完璧なプラン。


 今の俺に油断は無い。


「な……!」


 だが、敵が反応して、俺の刃を避けることは無く、驚きの声を上げた直後には、心臓部をあっさりと俺の振るったナイフが貫いたのである。


 均衡はこうして、すぐに崩れた。


 残った、名も知らぬ味方と戦う敵ヒーローを、3人で囲む。


 それに気が付いたヒーローは、おののいたように口元を引きつらせ、逃げようとしたが、時はすでに遅かった。


 また一つ、ヒーローの血が流れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る