Episode Ⅳ

第41話.開戦

 それから1か月が経った。


 最近は特に何事もなく日々が過ぎていく。


 今日もいつも通り学校から帰り、寮で着替えを済ませるとすぐに寮の自室を飛び出した。


 今はアジトに向かう道中だ。


 最近自分でも超能力のレベルが前とは格段に変わっているのが実感できる。


 それでもまだ6番隊の中で最弱なのが悲しいところだが。


 いや、今に見ていろ。


 俺は伸びしろならナンバーワンだと言われているんだ。


 すぐに追い抜いて俺が最強になってやる!


 そのためには今日も休むことなく訓練だ。


 俺は固い決意を秘めて、最近俺の貸し切り状態になっている訓練室へと向かう足取りを早める。


 そんないつもと変わらぬ水曜日の午後だった。


 ん?


『工事中』


 そう書かれた看板が俺の目の前に置かれていて、道が塞がれていた。


 え、昨日まで普通に通れたやん。


 なんで急に……。


 それにここらへんに工事するような場所もなかったと思うが……。


 まあだが超能力者の俺には関係ない。


 瞬間移動連打で通れば、見つかる可能性はほぼゼロ。


 工事中の場所に侵入したからっといって、俺の身が危険に巻き込まれる可能性はさらにあり得ない。


 俺は工事中の看板を嘲笑うようにアジトへ瞬間移動で移動した。




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 ふぅ、今日も疲れた。


 訓練に集中しすぎて、気が付けば日は完全に落ちてしまっている。


 俺はいつもの帰り道を早歩きで進んでいく。


 すると、前方からものすごい勢いで2つの人影が近づいてきているのが見えた。


 なんだ?


 俺は気になってその場で立ち尽くしてその人影を目で追う。


 するとその人影は突然俺の前で立ち止まり……。


「君、ここは工事中だよ。なんでこんなところを歩いているんだ?」


 突然話しかけられる。


 は? マジで何なんだよ。


「え? すみません、警察の方ですかね?」


 何気なく放った質問だった。


 中学生の頃までの俺なら、「すみません!」と慌てて頭を下げて逃げ出していただろう。


 そうならなくなったのは、ゾディアックで色々な経験を積んで度胸が付いたからだろうか?


 とにかく、俺はこの図らずも未来をいい方向に変えることとなる質問をしたのだ。


 それに対して……。


「いや、私はヒー――」


「おい、バカ」


「ッ! すいません、先輩。ッコホン。悪いがその質問に答えることは出来ない。とにかくここを出たまえ」


 そう言って彼らは踵を返す。


 しかし、俺はこの瞬間に雷に打たれたような衝撃を感じた。


 嫌な予感が体の内を巡る。


 最初に返ってきたあの言葉の続きは絶対に……!


 だとすると……。


 予感の正体が徐々にその姿を現していく。


 刹那。


 俺の体は勝手に動いた。


「パイロキネシス」


 ゴオォォッ、と右手から炎が噴き出す。


 と同時に、彼らのうち1人の背中を思いきり蹴りつけた。


「!?」


 相手が驚いたような反応をして首を僅かに回そうとするが、そんな暇は与えず……。


「あがぁぁぁぁぁ!」


 炎を纏った左手で髪の毛を掴む。


 当然そんなことをすれば、被害は髪の毛だけに収まらない。


 すぐに顔全体に炎が侵食していき、すぐに意識を保てなくなる。


 そして力失った体は、パタリと地面に伏した。


 よし、奇襲で1人った!


 しかし喜ぶ暇など無く……。


「パイロキネシス!」


 炎を纏った拳が俺に向かって飛んでくる。


 当然2人いるんだから、もう1人も攻撃してくるよな。


 んなことくらい分かってんだよ、舐めんな!


 俺はその拳を華麗に回避して、カウンターの一撃を逆に腹に入れる!


「ウグッ!」


 っしゃぁ、クリーンヒット。


 手応えあったからな。


 攻撃を受けた敵が俺の拳を受けて少し後方に転がる。


 そのまま追撃に入ろうと思ったが……。


 いや、迂闊に飛び込むのは危険か。


 ここは一旦待とう。


 しかし、ただ相手に手番を渡すだけでは癪だ。


 そう思った俺は……。


「おいおい、随分と弱いな。こいつも奇襲に成すすべなくあっさりやられてよ」


 俺はぐりぐりと伸びている男の腹を踏みつけながら煽る。


 しかし俺もこんなことを言うなんて、随分と悪の組織の構成員が板についてきたな。


 これも実力が付いてきたから為せることだな。


 実力があれば余裕が生まれる。


「クソが、高校生のなりしてゾディアックのクズ野郎かよ!」


 そして俺の挑発に乗った敵が再び俺に向かって肉薄してきて……。


「パイロキネシス!」


 再びパイロキネシスを発動。


 バカが。


 それは安直すぎる!


 この距離で自分の視界を少しでも塞げば……。


「テレポート!」


 やすやすと俺は敵の背後を取ることが出来て、逆に敵はテレポートで逃げることが出来ない。


 よって……。


「しまっ――」


 グサッ。


 背後から心臓を一突き。


 敵は悲鳴を上げることも出来ずにバタリとその場に崩れ落ちた。


「ふぅ、俺のこのゾディアック特注の切れ味抜群ナイフの初陣は最高の形になったな」


 俺は崩れ落ちた敵の姿を見下ろし、ナイフを掌の上でくるくると回しながら、そうつぶやいた。

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