第32話.暗雲

 早速ヒーロー横浜支部の諜報活動が始まった。


 基本的には、超能力者の俺と星川はクレヤボヤンスで遠距離から監視。


 そして超能力じゃない日向さんと戸塚は俺たち超能力者の護衛。


 実はクレヤボヤンスを使用していると、身体本体は完全に隙だらけになってしまう。


 これがこの能力の弱点だ。


 だから護衛が必要なのだ。


 とは言っても基本的にはこちらから手を出さない限りヒーローから攻撃を受ける可能性は、ヒーローに顔を覚えられるようなよっぽどの有名人極悪人でもない限りあり得ないから、護衛の必要性は疑問であるが。


 まあ、でもだからと言って完全に安全という訳じゃない。


 俺たちの様子から、俺たちが超能力者であることを見抜いた同業者に攻撃される可能性も、僅かではあるが無くはない。


 そういうことを考えると意味が無いことはないか。


 今は適当な店に入って、30分毎ぐらいに別の店へ移動してヒーロー横浜支部の監視を行っている。


 当然ヒーローの出入りはあるが、中々重要な情報を話しそうな場面には遭遇できない。


 そもそもあまり集団で行動していないから、雑談すら聞くことができないんだよな。


「どうする?」


 一旦監視を中断して作戦会議を行う。


「うーん、とは言っても他にいい方法もないからなぁ。まだ初めてそこまで時間がたってるわけでもないしもう少し続けた方がいいんじゃね?」


「だねー」


 確かにな。


 一理ある。


 星川も同じ意見のようだ。


 しかし、こんな暇な任務を戸塚が真面目にやってるとは驚きだ。


 やはり腐ってもゾディアック構成員という訳か。


 星川も、ヒーローの姿を見た途端にこの前みたいに暴挙に出ないかと冷や冷やしていたが、今日は全くそんな様子はなかった。


 いつも通りの明るい星川だ。


 やはりあの日の任務が終わった後に新田さんに呼び出されて何かあったのだろうか。


 俺には全く知り得ることがない話だが、悩みの種が一つ減ったことは素直に喜ばしい。


「じゃあ隣の本屋にでも移って続けるか」


「だな」




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「なぁ、しかしこの何の手掛かりも得ることが出来ていないこの状況でこんなところで悠長に飯なんて食ってていいのか? 俺は少しでも時間を節約するためにスーパーとかで菓子パンでも買ってきて食った方がいいと思うんだが……」


 あれから1時間ちょっとが経過して、今はちょうど昼飯時。


 そこで俺らも昼飯を食うことになったのだが、そこで戸塚が焼き肉を食いたいなどと言いだして焼き肉を食うことになったのだ。


 しかし、現状任務は全く進んでいない。


 だというのにこんなに呑気にしていることで、俺は焦燥感に駆られていた。


「いや、確かにここまで上手く行かないのは想定外かもしれないが、そこまで焦るような時間じゃないだろう。まだ始まって2時間ちょっとしか経ってないぞ」


「それはそうだが……」


 しかし、2時間しかと言われればそんな気もしてくるが、全体の時間が5時間ちょっとしかないことを考えると、「しか」とは言えない。


「確かに蓮君は焦りすぎかもしれないけど、流石に楽観視できる状況ではないよね」


 え、俺がおかしいの?


 でも星川は戸塚よりは呑気じゃなくて安心した。


「いや、俺だって楽観視はしてないよ。でも焦ったって状況は好転しないだろ? こればっかりは運にもよるしさ」


「いや、そんなことはないだろ。上手く機転を利かせて何とか……」


「でもその機転が思いつかないんだろ?」


 ぐっ……。


 戸塚の言い方は非常にむかつくが、事実である。


「確かにそうだけど! 運次第ってのはあまりに適当すぎるだろ」


「いや、運次第とは言ってないだろ。俺はあくまで運よるって言ったんだ」


 そういえば。


 でも……。


「じゃあお前はなんか作戦でもあるのかよ」


「いや、だからそれを美味いもんでも食いながら考えようぜってこと。イライラした気持ちで考えるよりもそっちの方がいいだろ?」


 なんか格好いい感じで言ってるけど結局ノープランなんじゃねぇか。


 ま、確かに間違ってはいないか。


 時間節約と言って、菓子パンを食べながら必死に考えようとしても焦りが募るばかりだ。


 それよりかはちゃんと気分転換をしてから考えた方が集中できるか。


 戸塚に上手く丸こまれたような気もしなくもないが……。


「悔しいが確かに一理あるな……。んじゃ、気分を変えておいしく食いますか!」


「おう、そうこなくっちゃ!」


 そして戸塚は嬉々として肉を注文し始める。


 ……やっぱりなんだかんだ自分のためじゃねぇのか?

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