5

 「それでもきっと幽霊のせい」



*名前は二回目以降初めの一文字で書いています。



第1幕



(とある高校の休み時間。ざわざわとしている中、舞台前方のグループが話を始める。)


練「なあ!面白い話、仕入れたぜ。」


侑希「どうせつまらない話なんでしょ?」


練「何言ってんだよ。なんとな、俺らの中学校で幽霊が出るらしいんだ。旧校舎に入った人は帰ってこれないそうだぜ。」


(一同、沈黙。)


京太郎「なんで今更。俺らがいたときはそんな噂無かったぞ。あと幽霊なんている訳ないし。」


(練以外頷く。ちなみにその場にいるのは五人である。)


練「俺らがいなくなってから住み着いたんじゃねーの?兎に角、取り敢えず行ってみよーぜ。実際確かめないと居ないとは言い切れないしさ。それに、良い思い出にもなるでしょ。」


朱梨「確かに。幽霊はいる訳ないけど、久しぶりに行ってみたいし。」


侑「じゃあ今週の土曜日にでも行きましょうよ。涼介も行くでしょ?」


(涼介は少し離れたところにいる。顔は見えないが、頷いたらしい。練は侑希の方を見ている。)


練「じゃあ決まりだな。また連絡するぜ。」


京「こないだみたいにぎりぎりに連絡してくるんじゃないぞ。皆も忙しいんだから。」


練「分かってるよ。」


(チャイムが鳴る。皆は去って行く。)



第2幕



(雨が降っている。舞台には練と京太郎。侑希が来るのを待っている。)


練「あいつ散々遅れてくるなって言ってたくせに自分が遅刻かよ。」


京「良いじゃないか。幽霊が出るだの言っといて、昼ごはん食べたらすぐ集合とか言う馬鹿のおかげで時間は十分にある。」


(京太郎は溜息をつく。)


練「良いじゃねえかよ。折角みんな揃って集まれるんだから。暗くなったら懐かしいのもよく見えないだろ?」


京「まぁ、それもそうだな。幽霊が寝てる間にいろいろ回っておこう。」


(敢えてまじめな口調で話す。雨の音で辺りは静かである。)


練「それ何読んでるんだ?」


(練、京太郎の持つ本をのぞき込む。京太郎は少し傾けて見せてやる。)


京「宮沢賢治だよ。ちょっと面白い話があってね。後で話そうと思ってたんだけど今聞きたい?」


練「長くなるなら後でいいや。どうせ小難しいはなしだろ?涼介とか気に入るんじゃないか?」


京「それがね、どうもお前が好きそうな話なんだ。短いから侑希が来るまでに話してあげよう・・・」


(遠くから侑希の声が聞こえてくる。二人は顔を上げる。侑希が近づいて来るのを無言で待っている。)


侑「ごめーん!遅刻しちゃった。怒ってる?」


京「そんなに待ってないから気にしないでよ。そこの練君はなんだか怒ってたみたいだけどね。」


(侑希は練の方を見る。練は一歩引く。)


練「そんなに怒ってねえよ。でもちゃんとした理由があるんだろうな?」


(練は一歩詰める。逆に侑希は一歩引く。)


侑「あるよあるよ、れっきとした理由がね!あんたが怖い映画なんて貸してくるから、怖くて寝れなかったんじゃない!」


(侑希はいたって真剣であるが、練と京太郎は顔を見合わせてほほ笑む。)


練「意外と可愛いとこあるんだな。見直したぜ。」


京「それは言えてる。」


侑「意外って何よ。普通にかわいいじゃないの私。」


練「まあ、そんなことは良いんだ。それよりも京太郎が面白い話をしてくれるってさ。取り敢えず聞こうぜ。」


(侑希は無視されて少し不満そうだが、周りを見渡す。)


侑「涼介たちは良いの?」


京「ほかのみんなはもう中だよ。折角だし二人には先に話しておこうか。どうせたっぷり時間はあるんだし。」


(三人は舞台端のベンチに腰掛ける。京太郎は勿体ぶって話し始める。)


京「座敷わらしの話なんだけどね・・・」


(十人の童子が登場。童子の声が聞こえてくる・・・)


童子「大道めぐり。大道めぐり。」


(京太郎が話を続ける。)


 一生懸命、こう叫びながら、ちょうど十人の子供らが、両手をつないで丸くなり、ぐるぐるぐるぐる座敷の中をまわっていました。どの子もみんな、そのうちのお振舞に呼ばれて来たのです。

 ぐるぐるぐるぐる、まわってあそんでおりました。

 そしたらいつか、十一人になりました。


(童子たちは各々驚いて、顔を見合わせあったりしている。)


 ひとりも知らない顔がなく、ひとりもおんなじ顔がなく、それでもやっぱり、どう考えても十一人だけおりました。そのふえた一人がざしきぼっこなのだぞと、大人が出て来て言いました。


(大人登場。)


 けれどもたれがふえたのか、とにかくみんな、自分だけは、どうしてもざしきぼっこでないと、一生懸命目を張って、きちんとすわっておりました。


(童子は怯え、必死で訴えかけるが、大人は笑って受け流している。)


 こんなのがざしきぼっこです。



(三人を残して退場。大道めぐり、大道めぐりという童子たちの声がフェードアウトし、雨の音が戻ってくる。)



侑「何だか、不思議な話ね。でも作り話なんでしょ?」


(侑希がおそるおそる話しかける。京太郎は微笑んでいる。)


京「どうだろうね。必ずしもそうだとは言い切れないんじゃないかな?古くは柳田邦男の『遠野物語』にも書かれているし、民俗学者の佐々木喜善だって『遠野のザシキワラシとオシラサマ』で説明している。かといって創造じゃないとも言い切れないけど。」


練「そ、そんな非科学的なことがあるわけないじゃないか。また俺らを怖がらせようとしてるんだろ。」


侑「そうよ。そんなの詭弁だわ。」


京「詭弁なんかじゃないよ。それに非科学的でもないさ。さすがに十人が十一人になるってことはなかったかもしれないけど、どうにも説明がつかないようなことが発生した時に、それを解決する手段として作り出されたものが座敷わらしだったりするだけだよ。」


侑「古代の人が何でもかんでも、神様の仕業にしようとしたことと同じようなもの?」


京「そうだね。人は納得しないと気が済まないたちだからね。自分たちの常識で理解できないようなことを理解するために、座敷わらしなんかを作り出すんだ。それが人間の性なのかな・・・」


練「長くなりそうだなおい。」


(練と侑希は顔を合わせる。侑希が立ち上がって手を叩く。京太郎は夢から覚めたように驚く。)


侑「そろそろ入ろっか。みんな待ってるし。」


京「そうだな。まあ、旧校舎と言えば、そんな不条理なことがよく起きるようだしね。俄然楽しみになってきただろ?」


(京太郎、練立ち上がる。京太郎はいつになく嬉しそうである。)


侑「脅かさないでよ。」


練「も、もういいだろ。幽霊なんかぶっ飛ばしてやる。」


侑「何?練もビビってるんだ。」


京「安心しろ。僕が解決してやるから。」


(侑希が練の脇腹をつつきながら、三人は退場。雨は強くなってきている・・・)



第3幕



(舞台は一転して旧校舎の中。一階のロビーにて。六人が揃う。)


朱「随分遅かったじゃない。」


侑「ごめん!寝坊しちゃったの。寝坊したのはこいつのせいなんだけどね。」


(そういって練を指さす。)


練「なんでそうなるんだよ。何か怖くて眠れなかったらしいぜ。」


朱「あら。そうだったのね。可愛いわね。」


(朱梨敢えて意地悪そうに。)


練「あと、京太郎先生が特別授業をしてくれてたんだよ。なあ?」


京「最後の方付いてこれなかったからって、からかうなよ。」


(練、不満そうにそっぽを向く。)


涼介「へえ。京太郎の話はおもしろいからなあ。どんな話か聞かせてよ。」


京「別に構わないけど、先に見て回らなくて良いのかい?折角来たのに。」


涼「いいんだいいんだ。京太郎の話の方が面白いから。それにもう大体はみてまわってきたし。」


練「そうなのか。幽霊が出そうなところはあった?」


朱「そんなのは分からないけど、さすが旧校舎って感じね。結構傷んでたから雰囲気あるわよ。」


練「そうか、じゃあ早速見て回らないとな。」


(練、嬉しそうに辺りを見渡す。)


侑「そういえばここ、中学生の時には入れてもらえなかったのによく入れたわね。」


涼「僕が頼んだんだ。先生と仲良かったし。入り口のドアは開けてもらえたけど、鍵がかかってるところは危ないから入るな、だって。」


練「さすが涼ちゃんだな。ていうか、鍵のかかったとこなんて入るわけないよな。」


京「いやお前に限ってそれはないだろ。破ってでも入りそう。」


朱「ほんとに。」


練「お、おい、その言いようはないだろ。さすがに怒られるような真似はしないぜ。」


涼「言ったな。絶対入んなよ。」


練「分かったよ。じゃあ、俺とこいつ意外は取り敢えず、ここに残るってことで良いのね?」


(練、侑希を指す。一同頷く。)


侑「私その前にトイレ行きたい。場所分かる?」


朱「確かこの突き当りまがって左よ。」


侑「ありがとう。起きてから一回も行けてないのよね。」


練「じゃあ、俺も行っとこうかな。」


涼「男子トイレは三階だぜ。」


練「えっ」


京「なんだよ。そんなことでビビってるのか?」


練「ビビってねーよ。侑希、三階で集合な。」


侑「りょーかーい」


(侑希一足早く舞台袖へ。練も続いて退場。舞台では京太郎の話が始まる。)


京「座敷わらしの話なんだが・・・」



第4幕



(舞台には練を除く全員が。侑希も戻ってきている。京太郎の周りを取り囲んでいる。)



京「他にもいろんなパターンがあるんだ。音が聞こえるけど探しても姿は見つからない、とかね。これとかはまさに、不条理なことが起きたときに、座敷わらしっていう存在を作り出すんだっていう僕の主張を裏付けてくれていて・・・」


?「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


(一同驚いて顔を見合わせる。)


朱「今の声って、練のじゃない?」


涼「と、取り敢えず三階に行かなきゃ!」


(一同駆け出す。)


(舞台は三階に切り替わる。三年五組の前で練がへたり込んでいる。)


京「練!どうした!何があったんだ!」


(一同急いで練のもとに駆け寄る。)


練「あぁ、幽霊が。」


侑「何言ってるの!気は確かなの!」


練「幽霊がそこに・・・」


(練、指をさす。皆がその方向を向く。)


朱「雨やんだねえ。じゃなくて。なにもいないわよ?やっぱり気がおかしくなったんじゃない!」


(朱梨、苛立っている。)


涼「いや、何かあるよ。」


(涼、教室の奥へ。練以外は続く。)


侑「えっ。何これ?」


(侑希後ずさる。京太郎が前へ出て屈む。)


京「血だな。窓のところまで続いてる。これは中学の制服だな。」


(京太郎、窓ぎわまでたどった後、制服を持ち上げる。)


皆「血!?」


(女子は悲鳴を。男子は悲痛な顔。)


朱「しかもそれここの制服よ!」


(沈黙。京太郎は何か考えている様子。)


京「足跡は・・・ないな」


(窓から外を見下ろして言う。)


京「おい、練。何があったか説明してくれ。」


(練はわずかに頷く。)



第5幕



(六組にて。練を囲むようにして各々座っている。)


練「トイレから出たら、変な音がしたんだ。何かを引きずる音みたいな。正直言って怖かったから、侑希が来るまで待っていようと思ったんだけど、あんまり遅いから覗いてみたんだ。」


(侑希、申し訳なさそうな顔をする。)


練「そしたら、小さい女の子が窓に向かって立ってて。振り向いたら血まみれなんだ。まさかほんとにいるなんて思わなかったから、それで、怖くて・・・」


(練、辛そうにする。)


京「それでその女の子はどこへ?」


練「窓から飛び降りたんだ。それでびっくりして・・・」


京「うん、大体わかった。少し休んでくれて構わないよ。」


(練以外は練から少し離れる。練は俯いている。)


侑「それにしても似てるわね。」


朱「何に?」


侑「座敷わらしよ。さっきの話が気味悪く思えてきたわ。」


京「確かに。中学一年生なら十二歳だし年齢的にもぴったりだ。」


朱「嘘。ほんとにいると思ってるわけ!?そんなの、ありえないわよ。」


涼「それなら練のひとり芝居って方がよっぽど信じられるぜ俺は。幽霊がいるって言いだしたのも練なんだからよ。」


(涼介は不満げにしている。)


京「それはないな。練が三階に上がるとき、荷物なんて持っていなかったし、こんな薄着だから隠しようもないよ。服も血のりも。」


朱「前もって隠しておけば良いじゃない!それこそトイレにでも。」


京「それもないよ。練は僕と一緒に来て、さっきまで一度もここに入らなかったんだから。涼、鍵はいつ開けたんだい?」


涼「僕が一番に来て、その時。因みにそれまでもここはずっと閉めてたらしいよ。」


京「ほら見ろ。その理屈なら君らの方が怪しいぐらいだぜ。それじゃあやることは決まっているじゃないか!」


(両手を広げる。周りは怪訝そうにする。)


京「座敷わらしを探すんだよ!ざしき童子は一度住み着いたら中々離れないからね。」


(京太郎以外、呆気にとられている。)



第6幕



涼「いや、まだ可能性があると思うな。」


(舞台には涼、朱梨、京太郎。他はそれまでに退場する。)


朱「ほんとに!」


涼「うん。あまり良い話じゃないけど、練が僕ら以外の誰かを殺したっていう可能性だよ。」


(他、驚く。)


朱「そんなことって・・・!」


(朱梨は言葉にならない様子。)


京「そのまま進めて。」


涼「うん。さすがに三階から忍び込んではいないだろうけど、誰かがここに忍び込んでいたか、あるいは練が呼び出しておいて、それを見つけた練が何らかの理由で殺した。幽霊の仕業にすれば、疑われないで済むし。あと練が何も持っていなくても、これなら出来るでしょ?」


朱「じゃあ、死体は?」


涼「この窓から投げたか、どこかに隠したりしたんだと思うよ。」


朱「練君はそんなことしないわ!それにロビーには常に誰かががいたから、侵入したらばれるはずよ。」


京「それはほんとか!?」


朱「うん、三人が入ってきた時、誰もいないと困るからって。」


京「そうか。それなら涼の説は無いと思うな。」


涼「どうして?」


京「まず、侵入しにくい。ロビーからは侵入できないし、それ以外のところから入るにも誰かに見つかる可能性がある。あと忍び込む理由が見当たらないよ。まぁ、それは何か理由があったのかもしれないけどね。それと、死体の処理。さっき下を見たけど、死体なんか無かったし、あの短時間でどこかへ隠したとも思えない。」


涼「そんなの、何の根拠もないよ!どこかの窓が開いてたかもだし、台車で移動させるならすぐだよ。」


京「それなら尚更、この校舎を調べないといけないね。侵入できるようなところと、死体が隠せるような場所があるか。」


(二人は頷く。暫くの沈黙。)


(他のメンバーが戻ってくる。)


侑「まだここにいたの?何か話は進んだ?」


朱「いや、進展なしよ。それより練はもう大丈夫なの?」


(皆、練に視線を移す。)


練「ああ。迷惑かけてごめん。今からどうするんだ?手伝えることがあるなら手伝うけど。」


京「やっぱり今から探索しようと思ってね。練と侑希と朱梨で一、二階を探索して欲しい。さすがに練がこのフロアを探索するのは気分が悪いだろうしね。」


練「分かった。で、何を探せばいいんだ?」


京「侵入できそうな窓や裏口があるかと、誰か隠れていないか、この二つだね。もし何かあったらすぐ電話してね。あと、詳しいことは朱梨に聞いて。」


侑「分かった。」


京「じゃあ、僕らは三階を探索するよ。あ、あと朱梨ちょっと来て。」


(京太郎は皆から少し離れて、手をこまねいて朱梨を呼ぶ。朱梨は京太郎のもとへ。)


京「練と侑希には言わなかったけど、台車とか何か怪しいものがあったら教えて。あと怪しい行動をしていないかも見張っててくれ。」


(声を潜める。)


朱「じゃあやっぱり練を疑ってるのね。」


京「証拠が無い限り怪しいのは練だからな。かといって本気で疑ってる訳でもないけど。」


朱「そうだね。また分かったことがあったら教える。」


(二人は戻り、二手に分かれて退場。)



第7幕



(三階にて)


京「それじゃあまず全部のドアと窓を調べておこうか。」


(三人は廊下を歩く。)


涼「まず、教室の数は五つ。今の校舎より一つ多いな。三年五組は見たから次は三年四組か。」


(三年四組のドアの前へ。)


京「開くね。他の教室のドアも取り敢えず調べてみようか。」


(三人は廊下を進む。三組の前へ。)


京「三組は・・・開かないか。」


涼「鍵が掛かってるのか。」


京「どうやらそうみたいだね。二組はどうだろう。」


(京太郎、二組へ駆ける。二人は後を追う。)


京「二組は開くね。」


(涼が一組へ。)


涼「ねえ!これ見てみて。」


(一組の前に集まる。)


京「開かずの間って感じだね。ドアに板が打ち付けられていて開けられない。」


涼「ご丁寧に立ち入り禁止だなんて。何かあります、って言っているのも同然だな。壊して中、入っちゃおうぜ。」


京「何言ってんだよ。さっき自分が練に開けるなって言ったとこだろ。」


涼「そ、それはそうだが、状況が状況だろ!」


京「まだ誰かが死んだかすらはっきりしてないんだよ?誰かが死んでからでいいなんて訳じゃないけど、練たちと合流してからでも良いんじゃないか?まずは他の開いている部屋が優先だと思うな。」


涼「まぁ、それもそうだな。じゃあ俺は二組を調べるよ。」


京「じゃあ、二十分後にもう一度集合しよう。」


(各々退場。)


(舞台には侑希が登場。携帯を持っている。)


侑「どうしたの?」


京「ああ。探索の結果が知りたいんだ。」


侑「それがね、一階と二階の窓は全て開けられなかったんだ。それに裏口も無かった。」


京「窓が開けられないっていうのはどうして?開けられないって言うからには、ただ鍵が閉まってるわけではなさそうだね。」


侑「そうなの!板が打ち付けられていて絶対開けられないわ。不自然な跡は無いから侵入したってことは無いと思う。」


(侑希が退場し、京太郎が登場。)


京「そうか、ありがとう。こっちでも共有しておくよ。あ、あと一つ頼みたいんだけど。」


侑「何?」


京「朱梨を見張っておいて欲しい。」


侑「それって・・・」


京「怪しい行動をしないか、見ていて欲しいんだ。理由はまた後で話すから。よろしくね。」


侑「え、うん。・・・」


(通話を切る。)


京「涼介の案はなさそうだな。取り敢えず報告しておこう。」


(退場。)



第8幕



(京太郎が登場。)


京「涼介いるか?」


(三年二組と書かれたドアをのぞき込む。)


京「嘘だろ。涼介!」


京「みんな!涼介が・・・」


(ドアのところでごそごそしたのち、走って退場。)


(再び走ってくる。後ろに他の者も続く。)


京「急いで!三年二組で、涼介が血を流して、うつ伏せで倒れてたんだ。」


侑「そんな・・・」


(京太郎は三年二組と書かれたドアを指して、ドアの隙間を確認した後、勢いよくドアを開ける。)


京「え、嘘だろ。」


朱「どうなってるの!誰もいないじゃない!」


京「いや、確かにいたんだ。ほら、あそこに血が・・・」


(侑希がその場にへたり込む。)


侑「もう嫌よ、座敷わらしの仕業に決まってるわ!」


朱「そんな訳ないじゃない!気が付いてここから出て行ったかもしれないわ、きっとそうよ。」


京「いや、それはあり得ないんだ。僕が立ち去ってから、誰もこのドアで出入りしていないよ。」


朱「どうして!どうしてそんなことが言えるのよ!ただの勘だなんて言うんじゃないでしょうね?」


(朱梨が詰め寄る。京太郎はうなだれている。)


京「それがね、練のことがあったから僕も警戒していてね。ここを去る直前にドアの間に髪の毛を挟んでおいたんだ。それがここへきても挟まれたままだった・・・」


朱「嘘でしょ・・・」


侑「やっぱり座敷わらしの仕業じゃないの!」


京「こんなことがあるなんて。これじゃあまるで、座敷わらしの仕業だって証拠を、わざわざ僕が作ってしまったみたいじゃないか!」


(京太郎、座り込む。暫く沈黙。)



第9幕



京「ところで、僕たち以外はどこに?」


朱「練は私たちと一緒に・・・え、いないわ。」


侑「嫌よ嫌よ!私、死にたくなんてない!」


(侑希、駆け出す。退場。)


京「待って!今一人になるのは危ない!」


(京太郎も侑希を追いかけて退場。)


(朱梨は腰が抜けたまま立ち上がれないでいる。)


朱「うそ、一人にしないでよ。」


(やっとの思いで立ち上がり、ふらふらと歩きだす。)


(大道めぐり、大道めぐりとかすかに聞こえてくる。)


朱「な、何よ。そんなことあるわけないのに・・・」


(大道めぐり、という声は次第に大きさを増す。)


(突然、電話が鳴る。)


朱「きゃあ!電話か。え?練からだ。」


(通話を始める。)


朱「どこにいるのよ!みんなどんどんいなくなっちゃって!でも、無事でよかったわ。侑希?精神的にかなりやられてるわよ。」


(歩いて階段へ向かう。)


朱「いったいどこにいるのよ。ん?誰?え、涼君どうしてこんなところに・・・」


(朱梨はスマホを落とし、舞台から消える。)



第10幕



(一階ロビーにて、京太郎、侑希)


京「少しは落ち着いた?」


侑「うん、ありがと。でも、練たちはいったい・・・」


(京太郎は沈黙している。)


侑「ねえ。朱梨は?まだ戻ってこないの?」


(京太郎、考え込んでいる様子。話に応じない。)

侑「やっぱり、座敷わらしの仕業なんじゃ・・・」


京「いや!それだけは絶対にないんだ。今まで見てきた事実の中に、答えがあるはずで・・・あ!分かったぞ。でも、まだあの可能性だってあるし・・・」


侑「分かったの!?分かったのね!」


京「確信はないけどおそらくね。いずれにせよ、三階に行けばはっきりするよ。」


(二人が二階へ上がろうとするとき、練が入ってくる。)


侑「練!」


(侑希は練に抱きつく。練はバツが悪そうに京太郎を見る。)


侑「どこ行ってたの!?心配したんだからぁ。」


(侑希がへたり込むのを練が支える。)


練「京太郎、ごめん。」


京「話は後だ。取り敢えず三階に行くぞ。全部明らかにしてやる。」


練「そうか。分かったのか。やっぱりさすがだな。」


(京太郎は速足で退場。二人もそれを追って退場。)



第11幕



(三階廊下。)


京「練、取り敢えず一組のドアを壊して中を見てきてくれないか。」


練「壊してって、どうしたら良いんだ?それに壊さないって約束だったのに大丈夫なのかよ。」


京「蹴ったりすれば壊れるでしょ。そういうのはお前の方が得意だろ?もうここまで来たら連帯責任さ。みんなで頭下げて謝ろう。」


練「分かった。」


(練が走っていく。暫くすると、ドアを蹴破る音が響いてくる。)


侑「もしかしてあの部屋に何かあるの?ねえ!分かってるんなら教えてよ。」


(侑希が詰め寄るが京太郎は意に介していない様子。)


京「そう焦らないでよ。物事には順番がある。それに、僕の予想が正しいなら・・・」


(練が戻ってくる。)


練「京太郎、何もなかったぞ。何もない部屋を壊す必要は無かったんじゃないのか?」


京「何を言ってるんだ!必要大有りだよ。これで座敷わらしがいないことがはっきりしたじゃないか。僕らは座敷わらしを見せられていたに過ぎないんだよ。」


侑「さっきから一人で何言ってるのよ!そろそろ教えてくれたって良いじゃない!」


京「そうだね。それじゃあ解決編といこうか。」

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