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 取り敢えず彼を家に入れて、わざわざこんなとこに来た理由を尋ねた。

「ちょっとご相談がありまして、ね。」

「勉強のことか?それなら兄さんの方が出来るだろうに。」

「違いますよう。それにあの人、東大いけ東大いけってうるさいんですよね。僕はこっちに来たいのに。」

 昔からそうだった。私が小説家になると言った時、一番反対したのは兄だった。まぁ、それなりに由緒ある家系の長男としては、仕方ないことなんだろう。反対された時、僅かに嫉妬のニュアンスを感じたのを思い出す。じゃなくて、ええと・・・

「ということは、京大志望かい?」

「そうなんですよ、叔父さんと同じミステリー研究会に入りたくて。」

 これは驚いた。甥が、自分と同じような道を進みたがっているなんて。お茶を入れて戻ってくると、彼は本棚を眺めていた。

「わぁ、凄い!有名なミステリーは殆どあるんじゃないですか?」

 それを言われて、少し悲しくなる。先人の本を読んで、憧れてこの世界に入ったものの、書けば書くほど追いつくことが出来ないのだと、そう思わされ続けてきた。受け手でなく、作り手側になりたいと、そう思い続けてきたのに、やはり一読者に過ぎないのだろうか。

 彼はキョロキョロ本棚を見てからこう呟く。

「ここ、叔父さんの本無いじゃないですか。僕、叔父さんの本が一番好きなのに。」

「いくらなんでも、それはないだろう。京大ミス研からだって、もっと有名な作家が出てるじゃないか。」

「違うんですよ。叔父さんの本は何というか、僕が書きたいことを全部書いてくれてるんですよ。叔父さんの一番のファンを自負してるくらいです。」

 彼は少し恥ずかしそうに言った。恥ずかしがらないでくれ、そんなんだからこっちまで・・・

 夕陽が差し込んでいるのを有り難く思った。

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