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 晴々とした青空に反して、私は物憂げな午後を過ごした。暑さもあるが、アイデアが浮かんでこないことが大きな理由だった。

 そこそこ一流の大学を出て、そこそこ一流の企業に就職したものの、卑劣な出世争いとか、周りに合わせて自分を無くすような退屈な日々に辟易して、小説を書き始めるようになってから十年。ミステリーで大きな賞を取ってからは仕事も辞めて、こうして静かに本を読み、本を書く日々。出世争いも無く、周りに合わせる必要も無く、自分の書きたいこと(やはりこれも仕事だから全部自由、とまではいかないが)を書ける。何も不満は無いはずなのに、やはり人間は欲張りな生き物で。贅沢な悩みを持ってしまうのである。

 書きたいことが無い。

 書き始めた頃には沢山あったはずの理想や妄想、伝えたい事も底をついたか、あるいはすっかり忘れてしまったのである。だからこうして筆を持ったまま、外を眺めるという時間が随分と増えた。〆切が二週間後に迫って、焦れば焦るほどに何も思い付かない、そうして物憂げな午後を過ごしているのだった。

 兎角しているうちに日は傾き始め、蝉の音も聞こえなくなった。当たりが急に静かになったかと思うと、チリン、とあるはずも無い風鈴の音が聞こえた———のでは無くインターホンが鳴ったのだった。

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