【Ⅵ】友達は大切にしたい

 無事に街まで戻ってきたユウとゼノ、そしてミザリーは冒険者の仕事の達成報酬を受け取った。



「お疲れ様でした」



 受付嬢に見送られて冒険者ギルドから出た三人の手には、それぞれ同じ金額のガルド硬貨が握られていた。

 簡単な仕事の内容だったので、報酬は思っていたよりも少ない。だが、きちんと報酬が受け取れることが重要だった。


 ユウは手のひらの上に乗せられた一五枚のガルド硬貨を眺めて、青い瞳をキラキラと輝かせる。



「おかね!!」

「そうだな、ユウ坊。落とすなよ」

「うん!!」



 元気よく返事をしたユウは、ゼノの言葉に従って長衣のポケットにガルド硬貨を入れる。



「あの、今日はありがとうございました」

「うん! ぼくもせんせーと一緒にお仕事できて楽しかった!!」



 ミザリーが丁寧に頭を下げてお礼を言ってきたので、ユウも「ありがとーございます」とお礼し返す。



「こっちこそ、色々と世話になったな。また分からないことがあれば聞いてもいいか?」

「あ、はい。それはもちろん。私も、難しいお仕事の際は頼らせてください」

「レベル0の実力でよけりゃ、いつでも貸してやるさ」



 からからと笑いながら言うゼノに、ミザリーは「あの、だからお二人はカンストだと思いますが……」と言うが聞いていない様子である。


 すると、ミザリーはやや瞳を伏せて、



「あ、あの、シュラちゃんなんですが」

「あー、あのお嬢ちゃんな。大丈夫だったか?」

「は、はい。ただ、大ゴブリンに出会った恐怖と、パッシヴスキルを永遠に封印された上にパーティの仲間から見捨てられてしまったことがショックみたいで……放心状態と言いますか……」



 あの軽鎧の少女が放心状態になるのも無理はない。

 絶対の自信を持っていたパッシヴスキルを封じられ、あの巨大なゴブリンに出くわして、組んでいたパーティから見放されてしまったのだ。これで絶望しなければ、よほど強靭な精神力を持っている。


 ミザリーは自分の長杖ロッドを握りしめて、翡翠色の瞳でユウを真っ直ぐに見つめて「あの」と口を開く。



「ユウさん、お願いです。シュラちゃんにかけた封印魔法を解いてあげてください」

「んー? どうして?」



 ユウが首を傾げると、



「シュラちゃんは悪い女の子じゃないんです。現に、ユウさんとゼノさんに教えた冒険者の知識は、私もシュラちゃんから教わったものですから。だから、お願いします」

「うーん、ぼくが直してあげてもいいけど、せんせーが直してあげたらいいんじゃないかな?」



 ミザリーが「え? 私が……?」と翡翠色の瞳を瞬かせる。それから即座に首を横に振った。



「そ、そんな、私には無理です!! だって、その、私はあんまり強い魔法が使えないですし、封印魔法の解呪なんて上級魔法になりますし」

「大丈夫だよ。あの魔法ね、本当は《とんでけー》で直るよ」

「と、え、な、何ですか?」



 ユウが変な魔法の説明をしてくるので、ミザリーには伝わらなかった。


 すると、ゼノが横から「あー、あのな」と割り込んでくる。



「ユウ坊の言う《とんでけー》はな、初級の回復魔法だ。先生でも使えるものだよ」

「え……」

「だから、先生が解いてやればいいってユウ坊は言ってんだよ」



 ゼノの翻訳はまさにその通りで、ユウは「うん、そうなの!」と頷いた。



「直してあげるのも、直してあげないのも、せんせーが決めればいいよ。あのおねーさんは、ぼくには意地悪に見えたけれど、せんせーにはそう見えないもんね」



 にこやかな笑みでユウが言うと、ミザリーも「はい」と笑顔で返してきた。



「シュラちゃんは、とっても優しいですから」



 ☆


「ユウ坊、オマエは優しいな」

「んー? どうしたの、ゼノ」



 昨日も泊まった宿屋に戻ってきたユウはベッドの上で跳ねて遊んでいたが、ゼノにそんなことを言われて動きを止める。


 ゼノはユウの頭を撫でてやりつつ、



「実は封印魔法なんて使ってねェんだろ。ただの隠匿魔法でスキル名を見えなくして、解呪の方法を先生の回復魔法にしてやるなんてな」

「せんせー、あのおねーさんのことを怒ってなかったもん」



 ユウはゼノの隣に腰かけると、



「せんせーね、自分が悪いって言うような感じだったの。だからね、ぼく、ケンカしちゃったのかなって思ったの。あの魔法が仲直りになればいいなぁ」

「なるだろうよ。きっと、明日には先生もあのお嬢ちゃんもお友達に戻ってるさ」

「えへへ、そうだよねッ」



 ユウはベッドに転がると、枕元に投げ出したガルド硬貨の枚数を数える。


 生まれて初めて、自分の力で稼いだお金だ。


 お金が大切なことは何となく理解しているが、稼ぐことがこんなに大変だとは思わなかった。もしかしたら、ミザリーもこのお金を稼ぐのに苦労しているのかもしれない。


 ガルド硬貨の表面に描かれた祈りを捧げる少女をじっと観察しながら、



「ゼノ」

「どうした?」

「ぼく、また明日もお仕事貰えるかなぁ」

「どうだろうなァ。聞けばアタシらは、めちゃくちゃ強いみたいだしな」

「レベル0なのに?」

「レベル0なのにだ」



 自分の強さに自覚を持っていないユウとゼノは、



「明日、貰えなかったら考えるかァ」

「うん。明日、ダメだったら考えよっか」



 能天気に明日のことを見据え始めるのだった。

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