奪われる幸福

 小銭でも、技術でも、何かを積み上げようとするたびに、それを失う怖さにおびえてしまう。いくら知識を得ても、金を稼いでも、死んでしまうことはもう受け入れた。しかし、突然の事には心の準備のしようがない。災害や病気、これもまたある程度覚悟している。人間である以上、地球に生きる以上、仕方のないことだからだ。

 だが、人間由来の恐怖については、未だになれることが出来ない。いつか強盗に有って、今までの貯えをすべて持っていかれるのではないか。特殊な技術によって、口座の金を全部抜かれるのではないか、通り魔に有って、すべて失うのではないか、政府の方針によって、未来が制限されるのではないか。といった具合だ。


 そのような世の中で、奪われないようにするにはもう、思い出を作るしかない。どんな悪党も、楽しかった記憶までは盗めない。また、天の国があるなら、金は持っていけないが、思い出は持って行けそうな気がする。

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