第339話ワルクラ配信4-8

 お祭り会場から少し離れたところにある静かな公園。

 一見賑やかなお祭りを締めくくるには似合わない場所に思えるが、そんな場所だからこそ夜空に咲く大輪は一層輝いて見えるものだ。

 そこら中から歓声や、た~まや~なんて声も聞こえてくる。

 このお祭り最後のレクリエーションは、ライブワールドが完成した喜びを空に咲かせる、打ち上げ花火だった。


「どりゃどりゃー!! 空を染めろー!! もっともっと打ち上げるぞー!!」

「ちょっと光ちゃん!? それは一気にやり過ぎじゃない!?」

「心配すんなシオン先輩! 玉が無くなったら光が飛ぶ!」

「ドM根性も程々にしなさーーい!!」


 次々に打ち上げられる花火の光が、完成した世界を祝福するように照らし上げる。


「エーライちゃんエーライちゃん! 花火始まったよ! 早く来て早く早く!」

「ああもう分かったから少しは落ち着くのですよ! ちゃみ先輩お座り!」

「ワン!」

「よし! 全く、手のかかるペットなのですよ~」


 あちらこちらから聞こえてきていた歓声はやがて、皆が空を見上げながら思い思いに過ごす声に変わっていく。


「有素ちゃん」

「はい? なんでありますか還殿」

「今度四期生でオフコラボでもしましょうか。還の家に来るのなんてどうです?」

「おお! いいでありますな! ……なんだか昔を思い出しますな。還殿がこんなお誘いしてくれるなんて、初期の頃は考えられなかったであります」

「そうですね。あんな還がなんだかんだ活動出来て、今は後輩だっているんですから、VTuberは不思議なものです」

「最ママも出来て人生大逆転でありますな!」

「貴方達同期とも会えてよかったです」

「ん? すみません、花火の音で聞こえなかったのであります!」

「ふふっ、なんでもありません」


 私はそんな皆から、あえて少し離れた場所に移動した。


「花火、綺麗であるな」

「匡ちゃんの方が綺麗だよ」

「え///!? ネコマ先輩……?」

「クソみたいに綺麗だ」

「キャッ! あえて汚い言葉を交ぜるワイルドな告白、これはこれで素敵なのである!」

「ほんと……クソみたいに芳しいぞ……」

「え? これ言葉通りの意味だったりしないであるよな?」


 皆が纏めて見える場所に腰を落ち着け、新しい缶を開ける。


「ねぇ晴さん」

「んー? どしたよチュリ先?」

「普通ってなんだと思うか、聞いてもいい?」

「うーん……一つの理想なんじゃないかな」

「理想……そうかも……しれないわね……」

「よってこの世界に普通は存在しない。だからこそ普通は素晴らしくて求められる。だからこそ普通じゃないものには魅力が生まれる。そんなもんじゃない?」

「――ありがとうございます」

「いえいえ」


 プシュ! ゴクッゴクッゴク……ふぅ。

 

「聖様! 花火すっげぇ! ワルクラってこんなことも出来るんだな!」

「すごいねぇダガー君」

「あ、ここからだとよく見える! 聖様も来て!」

「はいはい今行くからね」

「キャッキャキャッキャ!」

「まずいな、このままだと本格的にパパになってしまいそうだ、この聖様がここまで浄化されてしまうとはね。だけど聖様対処法を思いついた。ダガー君!」

「あー?」

「あー?(殺戮決定)。ほら、こう解釈すればもう惑わされない」

「あー↑(パチパチパチパチ)」

「あー↑(殺戮中の音)。これもこう解釈してしまえばもう大丈夫。なんて恐ろしい生き物なんだ、聖様この子が怖くて仕方がないよ」

「ぎゅー!!!!」

「ああもうダガー君はかわいいなぁむぎゅぎゅぎゅぎゅーーーー!!」


 聞こえてくる会話は過去、今、未来が混じり合っているようで、ストゼロを気持ちゆったりと楽しむのがやけに美味しく感じた。


「浸ってるねぇ」

「まぁねぇ」


 そんな私を心配したのか、それとも何か察するものがあったのか、ましろんが隣にやってきてくれた。


「完成したね」

「うん」

「この世界も一区切りだね」

「だねぇ」

「……寂しい?」

「ちょっとね」


 やっぱましろんは鋭いなぁ。

 寂しさ……この祭りが始まってからずっと私の中にくすぶっていた感情だった。


「めでたいって感情の方が勿論強いけどさ、何かが終わるのはちょっと寂しい」


 祭りの後の静けさ、それを想像してしまったからだろうか。この花火を見て、私は若干ナイーブな気持ちになってしまっていた。


「別に全てが終わるわけじゃないよ。これは僕達が立てた目標という終わりを達成したってだけ。この世界だってさ、誰かが続けようと思う限り、ずっとずっと続いていくよ」

「…………うん」


 ましろんの言う通りだと思う。

 何かが終わる時、新しい何かも始まる。それを忘れてはいけないよね。


「そうだよね、楽しまないとだよね!」

「そうそう。ほら、皆だって呼んでるよ」


 とうとう離れにいることがバレてしまったようで、揃ってこっちに視線を向けたライバー達の、私達を呼ぶ声や冷やかす声が次々に聞こえてきた。数秒でそれはごちゃごちゃし過ぎて、誰が何をしゃべっているのかもよく分からない状態になる。

 あまりに騒がしさにナイーブな気持ちも吹き飛び、思わず笑ってしまった。


「ほら、行こ!」

「――うん!」


 ましろんに手を引かれ、私も喧騒へと飛び込む。

 よっしゃ!! この世界をひたすらに楽しみまくってやるどー!!


コメント

:色々進展してる!

:てぇてぇなぁ 

:ほら面白過ぎる奴らが呼んでるぞ!

:ヤバヒロインが多すぎる!

:最後まで盛り上がっていこー! ¥21100


 やがて花火は終わり、祭りも終わり、今日が終わる。

 さぁ、明日が始まる。次の配信は淡雪が降るかストゼロが開くか、どちらだろうか――

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