第325話ラスボス討伐3

 今日もポチポチと果物ゲームをプレイ。

 段々とゲームにも慣れてきて、そこそこのスコアは安定して出るようになった。だが、スイカ2つには届きそうで届かない。見た目はあと僅かに見えても、ここには絶対的な壁がある気がする。

 それでも簡単には諦めない、ここは根気との勝負だ。粘り強くいこう。

 還ちゃんも応援に来てくれているわけだしね。


「還ちゃんさー、最近どうよ?」

「最近ですか? あー……」


 ゲーム画面に目立った動きがない時は、こういった雑談が増えてきた。

 こうして駄弁るのもそれはそれでいいものだ。


「いい感じですよ。リスナーママも順調に増えていますし、還も活動を楽しめています」

「おーそかそか。最近何やってたっけ?」

「直近だとダガーちゃんとゲームしましたね。新作のマ〇オです」

「ダガーちゃんかー。記憶はどう?」

「相変わらずですね」

「あはははっ、そっかそっか、相変わらずか」


 …………ん?

 今の会話、一見すると何気ないものだったけど、微妙に変だったような……。

 ……あ。


「ダガーちゃんって呼ぶようになったんだね。前はダガーママって呼んでたのに」

「…………成り行きです」

「もしかしてー……先輩としての自覚、生まれてきちゃった?」

「うるさいですねぇ。還は赤ちゃんですよ、そんな責任の伴う役なんて引き受けるはずありません」

「そう? ねぇねぇリスナーさん、どんな感じだったのか教えて~」

「ちょ」


コメント

:ダガーちゃんがPON過ぎるから自然とめっちゃ先輩してた

:先輩って言うかもうママみたいだった

:赤ちゃんママという新たな概念を生み出してファン増えてたよ

:バブみがある方がバブバブしてるのか……

:本当にいつの間にかちゃん付けになってたよね

:ずっと少し後ろから見守ってたの完全に子守だった


「らしいけど?」

「あの子がそそっかしいのが悪いんです。還がママに望むのは全てを受け入れてくれる包容力ですから、これはあくまでママになってもらう為の教育なんです。それだけですよはい」

「『あの子』ねぇ」

「あーまたそうやって揚げ足とる。もう還拗ねましたから。何言われてもいやって言いますから」

「えーそんなこと言わないでよー」

「いや!」

「もっとお話ししよ?」

「いや!」

「アラサー女のイヤイヤ期きっついな……」

「いや!」

「おっぱい吸う?」

「Yeah!」

「グローバルな赤ちゃんだな……はいはい10000日後ね」


コメント

:普段赤ちゃんの人が唐突に見せる母性は卑怯だろ

:「もう、しょうがない子ですねぇ」って微笑しながら言った時は正直グッと来た

:イヤイヤ期じゃなくて更年期障害でしょ

:ちょっとやり返してて草

:英語圏から見たらJapanese Babyは全肯定赤ちゃんに見えるのかな

:YeahYeah期

:愉快な赤ちゃんだな

:ダガーちゃんはライブオン屈指の闇まで浄化したのか、もう聖女じゃん


「少なくともママの前では一生還は赤ちゃんですよ。そこはご安心ください」

「安心どころか不安で仕方ないんだが? ほんとなんで私に母性なんて感じてんの……」

「自覚無いんですか? 現在ママは傍からみても恐らくライブオンで一番母性ありますよ」

「ないない」

「……まぁ無自覚の天然さは希少なものですからね。ママはそのままでいいですよ」

「あーはいはい、もうこの話はいいですー」


 なんか私の方が変な流れに持ち込まれそうになったので、強引に話の流れを切る。


「同期の間とかはどうよ? 仲良くやれてる?」

「三期生の皆さん程のイチャイチャは無いですが、うまくやれてますよ。この前とか姐さんと収録が一緒になったので食事に行きましたし」

「エーライちゃんかー。やっぱフグ刺し?」

「はい。還がフグを食べたいと言ったら、ものすごく何か言いたそうな顔しながらも、御贔屓のお店に連れて行ってもらいました」

「いいねー。あ、エーライちゃんさ、あの子こそ母性あるんじゃね?」

「まぁヤンママもありっちゃありですね」

「しっかりしていればヤングだろうがヤンキーだろうがヤーさんだろうがね、アリだよね」

「でもなぜか還に厳しいんですよね」

「あははっ、還ちゃんだから厳しいんでしょ」


コメント

:はいここまで園長としての話題0

:ほのぼの会話の裏に潜む狂気 ¥3000

:姐さん呼びですぐ動物園の園長が出てくるのじわじわくる

:動物のどの字も無い……

:フグがあっただろ

:刺された後なんよ

:当然のようにフグの店贔屓してるの草

:10枚くらい一気にずざーって箸でとって食ってそう


「エーライちゃんはもう仕方ないでしょ。あの子おっとりした女性になりたかったとかって、配信とか前にオフでも私に言ったことあるけど、デビュー配信から割と暴れてたじゃん」

「考えてみてください。ただのおっとりした園長がライブオンに入れると思いますか?」

「それもそうか。でもあれだよね、そこらの人が解説をためらうようなことでも、動物を知ってもらう為なら躊躇なく言うのは尊敬できるよね」

「動物が好きなのは凄く伝わりますよ。還だって動物なんですからもうちょっとかわいがって欲しいものですけど」

「かわいがりしてほしいのか、今度エーライちゃんに私から伝えておくよ」

「その言い方は誤解を招きかねないので勘弁願いたいですね」


 ふむふむ。同期の間も問題は無しと。


「先輩とはどうよ」

「ママをはじめとして、仲いい人多いですよ」

「歳も近い人多いだろうし、話合うのかもね」

「歳の話を出すのは失礼ですよ」

「赤ちゃんには歳聞くだろ! かえるちゃんはー、いくつになったのかなー?」

「えっとね、グーつくってー、おはしもたないほうから1ぽん2ほん3ぼん!」

「二進数で表記して誤魔化そうとするな!」

「バーチャルの世界では常識です」

「VTuberらしさを最大限活用してすることがこれかよ。まぁいいや、じゃあ今回の企画にも関わってる晴先輩とはどう?」

「晴先輩ですか? まだ少し恐れ多い部分はありますが、フランクに接してくださるので、とてもよくしてくれていますよ」

「すっごく繊細なところまで気にかけてくれる人だからね。でも変なところで気にし過ぎて遠慮しちゃう人でもあるから、結構グイグイ行っちゃっていいよ」

「仲良しのママが言うんならそうなんでしょうね。次会った時は攻めてみます」

「おうおう! 一期生だろうがママにしちゃえ!」


コメント

:合格したのがよりにもよってライブオンの時点で園長も若干諦めてそう

:かわいいやかっこいいだけが動物の魅力じゃないのを知ってほしいとは言ってたな

:組長は幼児プレイはしてくれないけどチャイルド・プレイならしてくれるんじゃね?

:二進数よく分かったなwww

:解読。片手で握り拳を作り、左から三本指を立てると11100

:てことは還ちゃん右利きか

:これは模範的V、間違いない

:2〇歳ですか

:前もその年言ってたからそろそろ上がりそう

:永遠に上がらなそうでもある

:11100と書いて山谷還と読む

:ハレルンをママにするのか

:晴ママ……全く想像つかない……


「……あれですね。ママはやっぱり母性がありますよ」

「はぁ、また言ってる……」

「だって――今もこうやって、自然に還の交友関係を気にしてくれてる」

「……………………」

「ね?」

「うるせ」


コメント

:は? ¥50000

:!?!?

:つ、ツンデレママ!!

:こんなのもうマママーマ・マーママじゃん

:これだからお前を推さずにはいられないんだよ!!


 結局この日も、成長は実感しながらもクリアは出来ず。後日に持ち越しとなった。

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