第323話ラスボス討伐1

 最近、最強議論であったり体力バトルであったり、誰かと何かを競うことが多かった。

 そのせいだろうか――ここに来て私の中に、一つの大きな野望が生まれていた。


 そろそろライブオンのラスボス、晴先輩に勝ちたい――


 というわけで果たし状を酔った勢いのまま晴先輩に送ると、快く受け入れてくれた。


「シュワッチ――覚悟は――出来ているんだろうね?」

「ぷひゃー! ねぇねぇリスナーさんリスナーさん! ほんとに果たし状おくっちった! やべー! あはははは! 未来の私がんばえー!」

「送り主に果たすつもりがない。この晴の目をもってしても読めなかった……」


 こうして決まった世紀の対決だが、当然生身の格闘ではなく、VTuberらしくお題を使っての戦いだ。

 何で勝敗を決めるか、なるべく公正を意識して話し合った結果、決まったのはこれだ。


 『果物ゲーム』


 最近になって大流行した落ちものパズルゲームで、かごの中に様々な果物が落ちてきて、同じ種類の果物を2つ組み合わせると新たな果物が1つ誕生。この時ポイントが得られる。

 果物は、チェリー、イチゴ、ブドウ、デコポン、カキ、リンゴ、ナシ、モモ、パイン、メロン、スイカの順で変化していき、順にサイズが大きくなる。落ちてくる果物に絞ればカキが最大だ。

 これらを限られたスペースである籠の中でどんどん組み合わせていき、籠を溢れた時点での累計ポイントを競うという、シンプルながら奥深い中毒性抜群の素晴らしいゲームだ。

 ただし! 今回私達の勝負で競うのはポイントではない! 果物の中で最大であるスイカ、そのスイカの先はないが、じゃあそれを2つ組み合わせると……? そう! 完全に消滅してしまうのだ!

 今回競うのはこれ! スイカ2つの合体を実現できた速さ! それをクリアと呼んで競うのだ!

 スイカは籠の半分近くを覆う大きさを誇っている。籠の中のスペースが小さくなればなるほど、当然果物を組み合わせるのが難しくなり、籠からこぼれやすくなる。その中で2つもスイカを作るのは至難の業だ。

 長丁場を覚悟する必要があるだろう……。

 だが! これは私にとって分が悪い勝負ではない! なぜかと言うとこれはさっきも言った通り落ちものパズル! つまり落ちてくる果物には運が大きく絡む! 確かに純粋な頭脳が試されるパズルゲームで私が晴先輩に勝つのは厳しいだろう。しかし晴先輩は運に限ってはクソザコナメクジ! 運と根気なら負けているつもりはない! この勝負、十分な勝算アリ!

 という訳でエナジードリンク(ストロングアルコールシュワシュワレモン味)飲んで気合を入れまして! 配信で初回のプレイ行ってみましょー!


「動画とかで見る限りだと簡単そうなんだけど……あれー? なんか合成の行き場を失った果物がめっちゃ溜まってく……」


 初回の結果は……口に出したくもない惨敗っぷりだった。スイカ2つなんて夢のまた夢で、1つも作れていない。

 その時、別々でプレイしていたはずの晴先輩から着信が来た。どうしたんだろ?


「あ、もしもしシュワッチー? 初回でクリア出来ちゃった!」

「あーゲロゲロ。まじゲロ。やってらんねー。あーもう尺余ったしなんか踊るわ。パイパイパイパイパパイノパーイ。チンチンチンチンチチンノチーン。マ」

「ごめん、今の冗談」

「もう! 晴先輩ったらお茶目さんなんだからー♪ 勝負はここからだぞー! シュワちゃん負けないんだからー!」

「いや、さっきの全てを諦めた人にしか出来ない終焉の音頭は……」

「は、れ、る、先輩?」

「心音さんは裏表のない清楚な人です!」


コメント

:この人が例の床オナVTuberかー

:企画倒れ未遂でよかったね

:企画は倒れなかったけどタレントのキャラが完全倒壊してんのよ

:毎日が引退配信だと勘違いしてるんじゃねーのこの女

:投げやり具合が草過ぎる

:シュワちゃん音頭

:音源化期待 ¥200

:1時間ループ動画絶対作られそう

:あわゆきは ふしぎなおどりをおどった! あわゆきのせいそが999さがった!

:ビビったけど一瞬ハレルンならありえると思ったから納得しかけた

:こんなことも言い合える仲になっててぇてぇと思うはずなんだけど謎音頭が全てを打ち消してくる

:使用者の人生(ライフ)も減るしで実質神の宣告

:神「パイパイパイパイパパイノパーイ。チンチンチンチンチチンノチーン。マ」


 勝敗は冗談ではあったが、初回で普通にスイカ1つ以上は作れたようだったのは流石だ。

 こうして互いに度々精神攻撃を交えながらの戦い。

 流石の晴先輩でも初日にクリアは無理だったようで、夜の闇も深くなったころ、晴先輩は配信を終了した(練習はありだが、クリアの有効性は配信中での実現に限る)。

 私も少し眠気があるので普段ならここで終わりにしていただろうが、ここでやめていては晴先輩に勝てる気がしない。根気で勝ちをつかみに行く。というかストゼロ飲んでる時点でゲーム攻略での勝負は捨てている。

 そこで! 実は今日、ゲストに来てもらっています!


「リスナーママの皆こんに乳首。ママに呼ばれたので来ました、おっぱい大好き還です」

「はい! 還ちゃんに来てもらったどー! いやぁ~こんな時間に来てもらっちゃって悪いね」

「いえ、ご心配なさらず。昼夜逆転していたので今目バッキバキです」

「昼夜逆転赤ちゃん……」


コメント

:あれ、ウチの子じゃん

:ほんとだ、ワイの子だ

:娘がお世話になります ¥10000

:コメント欄が親でいっぱいになるというホラー

:シュワちゃんは悟った。この女に安易に手を出すべきではなかったと

:赤ちゃんを深夜のゲームに付き合わせてる時点でこの酒も大概だろ


「てなわけで、還ちゃんには話し相手になってもらおうと思います! これで耐久も楽勝ってわけよ!」

「ママに呼んでいただけるなんて光栄です。これからも度々お手伝いしますね。でもこれ、よかったんですか?」

「ん? よかったって何がー?」

「これって対決なんですよね? 還が助っ人として参加してしまったら、公平な戦いにはならないのではないですか?」

「あーそれね、ダイジョブ! 晴先輩にも許可貰ってるから!」

「そうなんですか? あ、あちらの方でも助っ人がいるとか?」

「いや、還ちゃんなら戦力になるはずないからいいでしょって言ったら即OK貰えた」


コメント

:草

:これは天才の発想

:我が子をよく理解していらっしゃる


「はいはい、またこういう扱いですか。ママが相手とはいえ、いよいよ還も出るとこ出ますよ」

「なぬ!? ま、まさか、児童相談所にでも持ち掛けるつもりか!?」

「いえ、労基です」

「たとえ自称とはいえ、赤ちゃんの口から労基なんて単語聞きたくなかったど……」


 まぁあんなことを言ったが、当然私にとって必要だと思ったから還ちゃんを呼んだのだ。

 話し相手がいる、それだけで人は助けられる。

 ふははは! 晴先輩、貴方は既に私の策に溺れていることを、負けたその時に知るがいい!

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