第257話愛の授業1
チュリリ先生が鮮烈なデビューを飾ってから早数日。私はスマホの前でなんとも言えない苦笑いを浮かべていた。
その原因は先ほど私に届いたこのチャットである。
<チュリリ先生>:心音淡雪さん。今送った日時に授業を予定していますので、忘れずに出席をお願いします(コラボどうですかってことです。ご都合が悪ければ出来る限り調整もします)。
なんだこのなんとも言えない誘い文は……先生らしく忘れずに出席しろって言ってるのに都合悪ければなんとかしてくれるのか……。上からなのか下からなのかよく分からんのよ、打ち上げ花火かよ。
まぁそれはいいんだよ。その日空いてるし他のライバーさんだったらなにも考えずにOKを出しているところだ。
だけど……チュリリ先生だからなぁ。
既存のあらゆる表現方法で今悩んでいるのに理由を挙げても、『チュリリ先生だから』に納得感で勝てる理由ってないと思うんだよね。空が蒼いように華が散るようにチュリリ先生はやばい、それがこの世の摂理なのだ。
デビュー配信の終わりに匡ちゃんとダガーちゃんが印象を和らげてくれたから危機感的のような感情はない。このコラボのお誘いも受けるつもりではあるのだ。
ただ、それでもなんの情報も無しでチュリリ先生と互角の戦いを演じることが出来る自信が無いんだよな……。
いくらチュリリ先生とは言っても、立場は新人で私は先輩だ、コラボに不慣れな新人ちゃんをうまく支えてあげなければいけない。だがチュリリ先生に翻弄されてばかりではそこが疎かになってしまう。
もうちょっと先生についての情報があれば立ち回りを考えることも出来ると思うんだけど……。
「あっ、それなら同じ五期生に聞いちゃえばいいのか、あの子達は先生とそこそこ付き合い長いはずだし」
そう思い立った私は、まずはダガーちゃんにチャットを送ってみた。
<心音淡雪>:突然すみません、先程チュリリ先生からコラボに誘われまして、傾向と対策を練る為に先生がどのような性格の方なのかを教えていただけませんか?
傾向と対策……奇しくも先生に対する話題としてらしい文面になったな……。
しばらくして返事がくる。
<†ダガー†>:先生はな、手遅れになった聖様だ!
<心音淡雪>:聖様に間に合っている手なんてないですよ
<†ダガー†>:じゃあ手遅れになった師匠!
<心音淡雪>:私に遅れている手なんてないですよ
<†ダガー†>:あはははは! 師匠のボケはいつも面白いから大好きだ!
<心音淡雪>:あれ? 私いつボケました? まさか遅れているのところなんて言いませんよね? お? お?
<†ダガー†>:ぅ……すまない師匠、記憶が……なにを考えてさっきのチャットを送ったのか思い出せない……
<心音淡雪>:政治家とか向いてると思いますよ
あぁいいなぁ、ダガーちゃんはやっぱり癒される……顔がいいのは勿論だけど、このちょい生意気だけどノリのいい後輩感がまたかわいくて笑顔になっちゃうんよ……。早速私に言われたこと守って名前に†付けてるのもいぃ……。
……ああ違う違う、癒されている場合じゃないんだった。このままたわいもない会話を続けたい欲が頭をよぎったけど、今は先生のことを聞かねば。
<心音淡雪>:話を戻しまして、手遅れになったってもう少し詳しくお願いできますか?
<†ダガー†>:先生はな、社会で長いこと生きてきて、社会がどういうものなのか知ってるんだよ。俺とか匡ちゃんみたいな子供じゃない。そんで変に真面目なもんだから社会の闇ばっかりに目がいって、結局その闇に呑まれちゃったんだな
<心音淡雪>:大人ってことですか?
<†ダガー†>:大人が自立できる人を指すならそれでもない。聖様とか師匠は先生と同じく傾向は違っても社会を生きてきて、同じく闇に目がいって、それでも呑まれる前にライブオンに来て今は自立してるだろ? でも先生は完全に限界を超えた後にライブオンに入ったから手遅れって言ったわけだ
<心音淡雪>:なんだか闇が深いですね……
<†ダガー†>:実際ひねくれてるしなー。でも悪い奴じゃない、社会の闇に呑まれるのはいつだっていい奴だろ? 光を持っているからこそいざ闇と相まみえるとその闇が濃く強大に見えてしまうんだよ
<心音淡雪>:ダガーちゃん、なんでこんな時に限って完璧な厨二が出来るんですか? それを普段からやりなさい、真面目な話の途中でやられると反応に困ります
<†ダガー†>:ええ!? 今の厨二やるつもりなかったけど!?
本当にこの子はポンコツなんだから……。
<†ダガー†>:あーまぁそんなわけで、傾向と対策だっけ? 下手に奇をてらったりせずにいつも通り真っすぐ! チュリリ先生が曲がったこと言ってもただただ真っすぐ! それでいいと思うぞ
<心音淡雪>:ぇぇ……なんか脳筋みたいですね……
<†ダガー†>:だって俺とか匡ちゃんとかそれで仲良くなったしな。大丈夫だ! チュリリ先生は押せばやれる!
……こ、この押せばやれるは狙っての下ネタと捉えていいのだろうか?
多分そうだよな、この前下ネタもいけるって言ってたしな、よし……。
なんだかさっきより気持ち動きが鈍くなった指で再び文字を打ち込む。
<心音淡雪>:教師系の薄い本でも定番の流れですもんね!
これでよし、ふふふっ、ダガーちゃんとのやりとりも段々様になってき
<†ダガー†>:あー? いきなりなんだ?
下ネタじゃなかったんかーい!!!!
机にズコーっと上半身を倒れこんだ私なのだった。この天然ちゃんが!
<†ダガー†>:ちなみに師匠に届いたコラボのお誘い文面を考える為だけに俺を呼び出したあげく5時間も悩んでたくらい先生は真面目だぞ
へ!? ええ!? あ、消えた!?
なんだかすごく面白そうな情報が書かれた文面が届いた気がしたのだが、ほんの数秒で取り消されたらしく消えてしまった。
<心音淡雪>:ちょっと! 今のもう一回送ってください!
<†ダガー†>:ぅ……すまない、また記憶が……
<心音淡雪>:もしかして隣に月島さんとかいない?
<†ダガー†>:あー? だれ?
<心音淡雪>:まだそこまでは読んでないのね……
これでダガーちゃんからは話を聞いたから、次は匡ちゃんにも聞いてみよう。
ダガーちゃんに送ったのとまったく同じ文面を匡ちゃんにも送る。
<宮内匡>:真面目な人である
しばらくするとそう返事が来た。
2人とも言うってことは本当に先生は真面目な人なんだろうな、ああ見えて……。
<宮内匡>:あとどうしようもない人である
一行での矛盾、むしろ最近では安心するまである。
<心音淡雪>:ダガーちゃんも手遅れになった聖様とか言ってましたよ
<宮内匡>:言い得て妙であるな。だが手遅れになるということはその道は向いてなかったというだけで、先生も腐らずに新しい道を進めばいいと宮内は思うがな
……なんだか匡ちゃんの発言には若い活力を感じるなぁ。私もまだ若輩者ではあるけど、それでもなんだか眩しく聞こえる。
<宮内匡>:また、傾向と対策の観点からだと、先生はライブオンの知識が殆どないことは知っておくといいかもしれんな
<心音淡雪>:え、そうなんですか?
<宮内匡>:先生はライブオンに興味があったわけではないからな。貴様のことを少し知っている程度だ
<心音淡雪>:一員になったんだし、調べたりしてはいないんですか?
<宮内匡>:運営さんから無知は魅力と言われて、めちゃくちゃ気になるらしいが律儀に今日までそれを守っているのだ
<心音淡雪>:な、なるほど……
<宮内匡>:真面目であろう?
<心音淡雪>:今ので初めて納得できました
合格が決まってから匡ちゃんダガーちゃんと順にデビューしていざ自分。この間に相当な期間があったと思うのにすごいな……。
というかそれなら一番最初にデビューさせてあげろよ運営と一瞬思ったが、あれが最初はそれはそれでだめだな。キャラが強すぎるのでフォローできる同期が先にデビューすべきだ。
でも……うん、2人から話を聞いて、どう挑めばいいのか分かった。
先生に授業への参加了解のチャットを送る。
まぁあれだよな、ようはあれよ。
ストゼロ飲んで行けばいいってことでしょ。
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