第252話五期生3-1

 2人目の五期生であるダガーちゃんがデビューしてからこれまた今日で一月が流れた。

 今のところダガーちゃんはうまくやれていると思う。相変わらずキャラ崩壊の心配はあるが、元ライブオンファンとしては箱の一員として過ごす日々が楽しくて仕方がないのだろう。なんというか、キラキラして見えるんだよね。それがキャラのかわいさにもマッチしていて順調にファンを増やしている印象だ。

 個人的にも私のことを師匠師匠と呼んで慕ってくれる為、どこか危なっかしいもののかわいい後輩である。これでこの師匠が厨二師匠を指していなければどれだけ良かったか……。

 まぁその点も慣れてくれば目を瞑れるものだ。なんと言ってもダガーちゃんはライブオンでありながら純粋なかわいさを持っている、それだけで十分なのだ、このライブオンにおいてはもうそれだけでもう天使なのだ。

 そんなわけで、改めてダガーちゃんのデビューから一ヵ月経ったわけである。つまりは今日は3人目、いよいよ最後の五期生のデビューの日ともなっているのだ。


「聖様はね、エーライ君の胸を揉むためならこの体を差し出してもいいと思っているんだ」

「なるほど、いくら聖様でも中身出せば良い金になりそうなのですよ~」

「あれ、もしかして聖様臓器売られそうになってる? そういう意味じゃなかったんだけどな……せめてペットとかにしない? 聖様多分希少な生き物だよ?」

「聖様は外見だけはいいので剥製の方が人気出そうだから、それは結構なのですよ!」

「中出しはやめてぇ! なんちゃって」

「どんな会話だよ」


 バイオレンスだかセンシティブだかよく分からない会話に思わずツッコミを入れてしまったが、今回デビュー配信を一緒に見学するのはこちらの聖様とエーライちゃんである。

 聖様に誘われたのがきっかけで参加したのだが、もうこの人達強者感が凄いわ。平常なテンションでいきなり今みたいな会話しだすからこっちはストゼロ無しの私はヤ〇チャ視点よ。


「というか、そんなセクハラばっかりしていいんですか聖様? シオン先輩が怒っちゃいますよ。今日も恋人同士2人で見学にした方が良かったのでは?」

「それはもう匡君とダガー君の時にやったからね。2人きりもいいが、同じ箱の皆をないがしろにするのも違うというのがシオンとの共通認識だよ。セクハラ云々も文句言われたことないな、きっと聖様の愛が向けられているのはシオンにだけって伝わっているからだね」

「それ以上ノロケたら追い出しますよ」

「聖様から誘ったのに!?」

「まぁシオン先輩も相変わらず皆のママになるって言い続けているので、このカップルは表面化している部分とは違うもっと深い部分で繋がっているということだと思うのですよ~」

「ふっ、よく分かっているじゃないかエーライ君」

「でも私もノロケにはイラついたので片方よこすのですよ~」

「おっと、聖様の腎臓はそう簡単には渡せないな」

「片方だけで腎臓って理解できるのおかしいだろ」


 息の合ったやり取りを見せる2人。

 エーライちゃんと聖様。一見変わった組み合わせに思えるけど、結構相性いいんだよね。聖様がエグイネタをサラッと投げて、それをエーライちゃんが毒舌を交えながらこれまたサラッと返すのが癖になるとリスナーさんからは評判だ。コラボしてるのもよく見る。

 これもエーライちゃんのトーク力が為せる業か。

 エーライちゃん……エーライちゃんねぇ……。


「うーん……」

「ん~? 淡雪先輩、突然唸ってどうしたのですよ~?」

「ぁー……今は配信外なので言える話なんですけど、この前オフで会ったじゃないですか? その時の印象がまだ頭に残っているせいで今のエーライちゃんに違和感を覚えるというか……」

「え~! なんでなのですよ~? 私はちゃんと苑風エーライなのですよ~!」

「そういえば聖様はエーライ君とオフで会ったことないな。どんなだったんだい?」

「それはもうとんでもないイケメンだったんですよ!」

「本当かい! はぇ~、エーライ君って聖様と同じだったんだなぁ」

「いやいや、全然そんなことないのですよ……あと聖様、次同じ扱いしたらしばくので覚悟するのですよ~! それは放送禁止用語なのですよ!」

「おっかないねぇ……え、聖様と同じって放送禁止用語なの?」

「まぁ出会ってしばらくはお互いの正体を知らずに会話していたせいで変なすれ違いもあったんですけどね」

「草吸える。エーライ君は面白いから聖様いつも草吸わされてばっかりだよ」

「それを言うなら草生えるなのですよ! 吸うだとなんかすっごい危ない響きになっちゃうのですよ!」

「失礼、噛みまみちんちんた」

「こいつの舌引っこ抜いてやりたいのですよ……」


 まぁエーライちゃんに関しては園長が組長だったというクレ〇んの組長先生現象(今名付けた)も経験しているし、この違和感もいずれエーライちゃんの一部として慣れるだろう。

 さて、そんなことを話している内に、デビュー配信が始まるまでもうあと数分だ。


「……やっぱり新人ちゃんのデビューって不思議と私たちまで緊張してきますよね」

「あははっ、確かに。そういえば今日はストゼロ飲んでないんだね。配信外ではあるけど今日くらい飲んだらどうだい? 共にカオスを楽しもうじゃないか」

「そうなのですよ~。ライブオン五期生のトリを飾るライバーとか絶対シラフでは耐え切れないのですよ~」

「うーん、それも一理ありますが……実は私は一縷の希望をこの最後の新人に見出しているんですよ」

「「?」」


 そう、ダガーちゃんのデビュー日、諦めから酔っ払っていたあの日の私と今日の私は一味違っていた――


「だってダガーちゃんはインパクトはあったものの間違いなくかわいかったんです! つまりライブオンはまだ箱を完全なる闇鍋にする気はない、純粋に美味しい具材を入れることを考えている可能性だって、私はあると思うんですよ! だから私は新人ちゃんを、ライブオンを信じる! そう決めたんです!」

「――なるほど、言われてみればそうだね」

「淡雪先輩……なんだかかっこいいのですよ!」

「ふふふっ、ストゼロを飲んでいないのは、一種の願掛けのようなものなのです。私はライブオンには良心が残っていると信じる、それを示したかったのですよ」


 私は信じる――私の愛するライブオンを――

 さぁ、配信が始まるぞ! 最後の五期生のお披露目だ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る