第108話ライブオン常識人組5
「ね、声って素晴らしいものなの、分かってもらえた? うーんでもこれだけじゃ足らないか、もう少し語っていい? 人の声ってマジでいい!」
呆気にとられている私とシオン先輩には目もくれず、同期の私すら今まで聞いたことがない饒舌が止まらないちゃみちゃん。最後は謎の韻まで踏んでいる。
これはまずい、なにがまずいのか正確には分からないけど、このまま放置したら色んな意味で大変なことになると私の第六感が激しく警報を鳴らしている!
シオン先輩も似たような気配を感じ取ったのだろう、困った様子の相槌を打ちながらちゃみちゃんを止められる良い言葉はないか探している。
任せてくださいシオン先輩! 同期の危機はこの私が止めて見せる! 私は怯まんぞ! 言葉を濁すような真似はせん、真正面から止めに行く!
「だめです」
「いやです。それでね、まずはね!」
「ウボァーーーー!!」
「あ、淡雪ちゃーーーん!!」
コメント
:ちゃ、ちゃみちゃま?
:あっ(察し)
:やばい進化演出入ったぞ! bbbbbbbb!
:残念だったな、拒否権などない!
:救いはないんですか!?
:抑圧された自分を曝け出してしまうこの現象、人はマヨナカハイシンと呼んだ
だめだ、今のちゃみちゃんは暴走機関車、一度動き出してしまった以上止まるという概念を失ってしまっている!
「えっとね、それじゃあ分かりやすく説明してあげる! そうだ! 淡雪ちゃんよく実質SEX理論ってやつやってるじゃない? あれに例えてみましょう!」
「キャー!! ちゃみちゃん! SEXなんてエッチな言葉女の子が言ったらだめですよー!!」
「は?」
なんか一瞬シオン先輩から恐ろしいほど冷たい声が聞こえた気がしたけどそんな場合じゃないんだよー!
「私から言わせてもらえばね、人は声でSEXしているのよ、性器なんて二の次。よく考えてみて? 性的興奮というものは多くが声からもたらされていると思わない? 喘ぎ声は勿論淫靡な言葉や声色で性は呼び起こされる、これはdl〇iteの18禁ボイスが文字通り声が主役なのにも関わらず飛ぶように売れていることが証明しているわ、つまりはそういうことなのよ」
ああ、なるほどちゃみちゃん、君の言っていることが段々と理解できてきたよ。なぜかって? だって私は今こんなにもちゃみちゃんの声で感情をかき乱されているのだから。声の持つ凄まじい力に翻弄されているのだから。
「今の話をね、日常の生活に置き換えて考えてみて? 人が何かを感じるにあたって、声からもたらさせているものが数え切れないくらいあることに気づいてもらえると思うの。それこそが人と人とのつながり、つまりSEXなのよ! 私たちの配信だってそう! リスナーを楽しませるのも感動させるのもびっくりさせるのも全て声から始まっている、それで生活している私たちライバーは声のイリュージョニストなのよ! 声のすばらしさ、分かってもらえたかしら? 分かりやすいようにもう一度実質SEX理論で説明するわね。短く言うと私たちライバーはリスナーと声でSEXしてるってこと、そしてこれが意味することは!!」
「「い、意味することは?」」
「ライバーとは【ボイスSEXイリュージョニスト】なのよ!!」
あぁ――――終わった――――
コメント
:大草原
:パワーワード爆誕
:すまん、俺声で童貞卒業したけどまだ童貞のやつおりゅ?
:どうも! ライブオン所属ボイスSEXイリュージョニストの柳瀬ちゃみですってことですね分かりません
:前に配信で声関連の機材の話でやけに熱っぽく語っていたことあったけどここまでの声オタクだったとは……
私の目から光が失われていくのを感じる。
降り注ぐ豪雨のような勢いで書き込まれていくコメント欄、もう歯止が利かない。配信後のかたったートレンド入りは確定だろう。
というかなんかこれデジャブを感じるぞ、前の園長は組長だった騒動の時もこんな感じだったじゃないか。
なに? これもしかして私のせい? 私には人の性癖を暴き出す能力でもあるの?
ま、まぁ奇しくも最終的にちゃみちゃんの強い個性が欲しいという悩みを本人の隠れざる個性を引き出すことで解決したな、うん、そう思おう、思わないと明るい明日がやってこない。
ほら、シオン先輩なんかさっきから「なるほどなぁ」っていって現実逃避してるもん、あのシオン先輩が進行投げ出すとか超激レアだからね?
「えっと、なんか話が広がりすぎてしまったわね、本題に戻りましょう。淡雪ちゃんが自分の声に個性がないって言ったのが始まりだったわね? さっきも言ったけど淡雪ちゃんの声には魅力がたっぷり詰まっているわ。個人的に推してるのはシュワちゃんになった時の声色の変化ね。普段が落ち着いている感じなのにストゼロを飲むとキーが少し上がってふにゃふにゃしている感じになるギャップがまぁたまらないわ。シュワちゃんお得意の下ネタの嵐があの落ち着いた普段の淡雪ちゃんと同じ声帯から発声されていると思うと私なんてもう股間が――」
その後もこの暴走機関車は一切速度を落とさぬまま進行を続け、残り少なくなっていた配信時間の終わりまでそれは続いたのだった。
尚、後日論文か何かかと初見時に錯覚してしまった程の文量が丁寧に書かれた謝罪文がちゃみちゃんから私とシオン先輩に送られてきた。私たちは別に被害を被ってないから問題ないんだけどね。
そして肝心のちゃみちゃんはというと、後の配信でもこの件を触れられまくり、無事声オタいじられキャラの立ち位置を確立したのだった。
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