第98話仁義なきホラゲ2
さぁ、そんなこと話しているうちにいよいよ一回目の紫鬼登場シーンが近づいてきた。
まずはこの部屋に入った瞬間、画面上部に一瞬だけチラッと顔見せがてら登場する。
「ひゃあ!? い、いまいた! 上の方! 絶対いた! ですよ!」
「お、落ち着けエーライちゃん。語尾の後付け感やばかったよ」
「だっていたんですよ!? しょうがないじゃないですかですよ!」
「OKOK、確かにいたかもしれないね」
かわいそうだと思いながらも、心のどこかではこの子がホラー要素にどんな反応するのか見てみたいという悪戯心が湧いてくる。これもいきもののサガか……
「もう帰りたいですよ……」
「まぁまぁ、閉じ込められてるし、あと消えた友達も探さないといけないしね」
「こんな危険なところになんて居られるかですよ! 私は一足先に帰らせてもらうのですよ!」
「そのセリフはホラー界隈では必中即死魔法(対象は自分以外選べない)の詠唱だからやめといた方がいいよ」
エーライちゃんもいつまでもぐずっていてもゲームは進まないと分かっているのだろう、ヒロキを部屋の机の上に輝くアイテムの下へと移動させる。
さぁここからがこのゲームの真骨頂! アイテムを取った瞬間どこからともなく一体の紫鬼が湧いてきて撒くまで死の鬼ごっこのスタートだ!
尚、エーライちゃんにはコメント欄を見るのも禁止しているので初見である以上予測は不可能です。
さぁどうなる?(わくわく)
今アイテムを…………取った!
「あああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?!? 来てる来てる!? こっちくんなあ゛あ゛あ゛!!」
ごめんエーライちゃん、正直吹き出しそうになった。
リングフィットしてる時の私みたいな声出てたけどこれ大丈夫? エーライちゃんが積み上げてきた常識人枠という壁が刻一刻と崩れつつある気がするんだけど……。
私は今ベルリンの壁崩壊と同じレベルの歴史的瞬間に立ち会っているのかもしれない。
コメント
:草
:園長の方が動物みたいな咆哮上げとるやん
:絶望の感情を声色だけで著す演技派
:演技じゃなくてガチなんだよなぁ
「ほら逃げて逃げて! しっかりしないと紫鬼に酷いことされちゃうよ! 薄い本が厚くなっちゃうよ! 貞操の危機なんだよ!!」
「精神攻撃をしてくるなですよ! 先輩はどっちの味方なのですよ!?」
見るからにおぼつかない操作で屋敷内を逃げ回っていたエーライちゃんだが、悪い逃げ道を選んでしまいとうとう屋敷の角まで追い込まれてしまった。
もう見げ道はない、後ろからは止まる気配など一切ない紫鬼が迫ってきている。
もうだめだ、ゲームオーバーは避けられないだろう。私ですらそう思ったときだった――
「はっ、はっ、はっ、はっ……こうなったら――ッ!」
「ん?」
なぜかエーライちゃんは紫鬼の方に振り向き、そのまま一直線に突撃していったのだ。
そして――
「てめぇをこのヤッパで八つ裂きにしてやるよ! ブルーベリーみたいな色しやがって、てめぇの血は何色だオラアアァ!!」
「んん!?」
「まぁそんなんどっちでもいいか、てめぇの体をヤッパで切り刻んで血が赤だったらイチゴ、紫だったらブルーベリーのジャムを作ってやるよ!!」
「んんん!?!?」
「死にさらせやゴラアアアァァァ!!!!」
ヒロキが寸分の狂いもなくまるで磁石のように迫りくる紫鬼と接触する。
ゲームシステム上紫鬼を倒す手段はない。包丁を持っていようが持っていまいがゲームオーバーだ。
「はぁ!? ゲームオーバー!? なんでじゃゴラアアア(ダンダンダンダン!)」
「…………」
問題はバスドラムのような鈍い音の台パンをヘビィメタルが如く連打しているかつて園長だったなにかだ。
コメント
:!?
:!?
:!?
:え
:ファ!?
私と同じく動揺を隠せないコメント欄。
「……あ、やべ」
「え」
まるで嵐のような一瞬だった。「え」の言葉しか口からでない私は吹き荒れた暴風で酔いどころか正常な思考すらどこかに飛んで行ってしまったのかもしれない。
「あ、えーと、しゅ、シュワちゃんせんぱーい? 聞こえてますかですよ~?」
「え」
「お、おーい? 聞こえてますかー? エーライ園長ですよ~?」
「え」
「……」
「え」
「よ、よーし分かったですよ! 一つだけ質問に答えてほしいのですよ! あのですね、もしかして……私も芸人行きですか?」
明らかに引きつった声で告げられた問い、その答えだけは私の混乱を極める今の脳内でも確信をもって導き出せた。
「ライブオンへようこそ、エーライちゃん!」
「いぃぃぃやあああああぁぁぁぁ!!!!」
コメント
:www
:この展開は予想できなかった
:遅れての開花、まさかの四期生のシュワちゃん枠だったか
:はえぇ、動物園の園長かと思ったら動物組の組長だったんですねぇ
:これからの渾名は組長で決まりやな
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます