第27話ちゃみちゃんとオフコラボ1

それはある日の配信中に起きた出来事だった。


「そんなわけで、女体盛りは素晴らしいわけなんですよ……あれ?」


コメント

:聞き取れない

:シュワちゃんー?

:かなりノイズがひどいな

:ネット障害?

:原因マイクっぽくね?


いつも通り雑談配信をしていたのだが、どうもリスナーに声がうまく届いていないようだ。

色々マイクの設定をいじってみてもノイズの酷さが変わるだけ、試しにネット回線の方を確かめてみても問題なくつながっている。

最後に配信サイトの不調の可能性も考え他のライバーの配信を見てみたがこちらも異常なし。

うん、どうやらマイクが壊れてしまったようだ。

まぁ初配信からずっと毎日使い続けてたからなぁ、これも仕方ないのかもしれない、むしろよく頑張ってくれたよ。

流石にこのまま配信を続けるわけにもいかないので、この日はこれでお開きになってしまった。

予備のマイク買っておけばよかったなぁ……これはリスナーにも謝らないと。


@マイクが壊れちゃったみたい!

 続けたいけど無理そうだから今日は終わりにするね……

 本当にごめんなさい! すぐにマイク新調します!@


SNSの呟きで謝りを入れ、その日はおとなしく眠りについたのであった――


「んんっ……ふぁああ……あれ?」


翌日の朝、二日酔いもほとんどなかったのでどんなマイクを買おうかと考えながら朝食を作っていたのだが、スマホを見るとSNSにちゃみちゃんからDMが来ていた。


<柳瀬ちゃみ>・マイクだったらもしよかったらお古でいいならあげようか? 

<心音淡雪>・え、ほんと!? いいの!?


思わぬところからの助けの手が差し伸べられた。

正直収入が安定した今でも昔の経験から貧乏癖が抜けてない私からしたらすごくありがたい話だ。


<柳瀬ちゃみ>・実はasmr配信をしているうちにマイクに興味がでてしまって、使う頻度がすくないやつが結構余ってる。

       ・貰ってくれると助かるくらいだよ!


とのことだったので――


「こんにちはー!」

「いらっしゃい! 柳瀬ちゃみこと『藤田みちる』よ」

「心音淡雪こと田中雪です! 今日はお世話になります!」

「ふふっ、まぁ今日は私たち以外誰もいないしライバーとしての名前で呼んでも大丈夫ね」

「そうですね!」


なんとちゃみちゃんのお家に来てしまいましたー!

どうしてこうなったかというと、最初はマイク宅配で送ろうかという話になったのだが、どうやらちゃみちゃんも都内在住らしくどのマイクがいいか選んでほしいからもしよかったら家来る? と言われてしまったのだ!

ちなみに丁度いいからオフコラボで配信することも決まったよ!

それにしても、予想通りではあったけどちゃみちゃん私より年上だなー。なんというか優し気なお姉さんって感じだ。

自己紹介も済んだのでお家に上げてもらう。


「じゃあ適当にかけてて、私ちょっとお手洗い行ってくるね」

「あ、分かりました!」


ちょっと意外なのはすごく対応が落ち着いてるところだ。いつも通りコミュ障全開なのかなと思ってた。

でも喋り方は普段の配信の時と全然変わらないんだよなぁ……不思議だ。


「さてさて、マイクこれだけあるんだけどどれがいい?」

「え、なにこの数!? これだけの中から選んでいいの!?」


しばらく座って待っているとトイレから帰ってきたちゃみちゃんが箱いっぱいにマイクを詰めて帰ってきた。

いくらライバーとはいえあまり使ってないマイクだけでこれはすさまじい数だ。

しかも状態がかなり綺麗だ、新古品って言ってもいいくらい。

本当にこんないいもの貰ってもいいのだろうか……


「ええ勿論。欲しかったら普通のマイク以外にasmr用のもあげるわよ?」

「まじで言ってます?」

「数が増えすぎてもう使いきれないからコレクションみたいになってきちゃったの。せっかくのマイクなんだから誰かに使ってあげてほしいのよ」

「本当にありがたいです……」

「じゃあ好きなの選んでね! それじゃあ私はお手洗いに行くわ」

「へ? さっき行ったんじゃあ?」

「わ、私尿に関してはフルオートというより三点バーストって感じなの!」

「はい!? どういうことです!?」

「てなわけで行ってくるわ!」


そういうとバタバタと本当に再びトイレにこもってしまった。

……なんか色々予想がついてきたぞ。

その後はありがたいことにasmr用も合わせてマイクを2つも頂いてしまった。


「よしよし、じゃあ私はまたトイレに……」

「……ちなみになにしに行くんです?」

「もう、同性でもそんなこと聞くのはどうかと思うわよ淡雪ちゃん!」

「ジーーーッ」

「だからほら、三点バーストが」

「ジーーーーーーッ!」

「……く、クールタイムに行くのよ」

「クールタイム?」

「緊張しすぎて心拍数やばめだから度々トイレで落ち着けてるのよ」

「あぁ、やっぱりそんな感じですか……」


さっきは落ち着いてるとか言ったけど、やっぱりちゃみちゃんはちゃみちゃんだったようだ。

この感じだと話し方もわざとこうして少しでも話せるようにしてるっぽいな。


「いやマジで心臓バックバクよ? 私の心拍音……聴いてみる?」

「いや言葉だけ聞くと色っぽいですけど、状況が状況なので全然ときめかないですね」

「だってぇ……」

「でもこの後の配信中にもトイレ行きまくるのはまずいでしょう? 排泄物製造工場って渾名付いちゃいますよ?」

「……でもそんな渾名付けるの間違いなく淡雪ちゃんの方のリスナーだよね?」

「まじすいません」


そんな感じでとりあえず頑張って一緒の空間にずっといてくれるよう説得はできた。

目がちょっとでも合うと恥ずかしそうにすっと下を向いてしまうけど、これはこれで外見とのギャップもあって萌えるな。

コミュ障お姉さんはいいぞ。

その後は夜から配信を開始するのでなんと、夕食を作ってくれることになったのだ!

私も料理はまぁまぁできるので手伝いながら完成を楽しみにしていたのだが……


「はいどうぞ!」

「……」


なんで当たり前のようにストゼロが出てくるんですかねぇ!?


「あ、もしかしてちゃみちゃんもストゼロ飲むんです?」

「ううん、私は普段飲まないし飲んでもワインとかカクテルとかかな」

「……じゃあなんでこれが冷蔵庫から出てくるんです?」

「さっきマネージャーさんに淡雪ちゃんとお家でオフコラボしていい? って一応確認とったら『ちゃんとストゼロ用意しておくんだよ!』って言われたの」

「ライブオン屋上に行こうぜ…久しぶりに…切れちまったよ」

「プニキのとき切れてなかった?」


いや本当にライブオンの社員は理解がありすぎてたまにこっちが困惑するよ!


「えと……飲まないの?」

「飲みます(即答)」


そんな悲し気な目をされては飲まないわけにいかない。というより本音を言えば飲みたいしね。

今日の配信もカオスになりそうだ……

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