第18話 ずっと一緒に
俺は心地よい風にゆっくりと目を覚ます。
「ん、ここはどこだ? 俺は一体何をしてる?」
様々な色の花が辺り一面に広がっている。
終わりが見えない花畑。赤、青、黄色、様々な色の花が咲き誇っている。
なぜだろう、とても懐かしい感じがする。
「そうだ、俺は海の街シャペルに来てたんだ。おーい。ゼクサスー、ハーツー、ヒナー、ローズー。どこにいるんだよーー!」
皆んながいないので、探すために歩き始める。
なんだろう、すごく落ち着く。そして、俺はここを覚えている。元の世界で子供の頃に見たことがある場所なのだろうか?
「にしても良いとこだな」
空は青く澄んでいる。雲は風に乗り、形を変えながら動いていく。
少し歩くと、目の前に小高い丘があった。丘の上には、小さな木がはえていた。辺りには、花しかなく、小さな木でも、とても目立っていた。
「ったく、目立つ割にはどこにでもある普通の木だな」
その木の影に入ると、
「私は、この木が好きなの。どこにでもあるのに木なのに。やっぱり変だね、私」
!
なんだ今の声は、誰の声だ!
頭の中に響いてくる。
「くっ・・・・・・」
頭に鋭い痛みが走る。
鈴のような、優しくて温かい声。
俺はこの声を覚えている。誰の声だ、誰の、誰の、誰の誰の誰の誰の、
「誰の声なんだよぉぉ!」
その声を聞くと、心の中から色んなものが溢れてくる。喜び、悲しみ、そしてどんな言葉も似合わない感情がどんどん溢れてしまう。この、懐かしくて温かい声に。
(やっぱり変だね、私)
その言葉を何度も何度も頭の中で再生する。
君は決して変じゃない!
会ったこともないのに分かる。変じゃないと断言出来る!
人と意見が少し違うだけで、他の人よりも、周りの命を大切にしてるだけで、自分の事がどこか許せない。そんな君が俺は大好きなんだ!
そうだ、この声は、
ずっと一緒にいたかった、ずっと一緒にいられると思ってたあの人の・・・・・・くそっ! 思い出せない。
大切な人なのに、顔も思い出せない!
「くっ!」
思い出せそうなのに、頭にノイズが走って邪魔をする。
「私のためにたくさん傷付いて、なんでそこまでしてくれるの? 分からないよ」
また聞こえてくる。
「綺麗な剣筋だから、―――はきっといい人だよ」
「私にくれるの? すっごく嬉しい」
「なんでかな? 涙が止まらないよ」
「世界と共に滅んでしまっても、私はまた―――に会いに行くよ。」
「ごめんね。先に天国にいくことになるけど、この世界を―――に任せたよ。・・・・・・任せるばっかでごめんね。ほんとにごめんね」
声だけがずっと響く。どんな状況で、どんな場所で言っているのかさえ分からない。
「なんなんだよ! 誰なんだよ!」
泣き叫ぶ俺に、最後にその声はこう言った。
「愛してるよ」
なんだ、この感情は。俺はずっとその言葉を待っていたのか? その言葉を聞くために。
たった一言、その一言の響きが、言葉が、俺の中の自己嫌悪の塊を溶かしていく。
涙がポロポロと零れていく。
俺は一体誰なんだ。この声の持ち主は俺にとって、どのくらい大切な存在なんだよ。
俺が泣き崩れていたその時、
「狂った世界なんかぶち壊して、今度こそずっとずっと一緒に暮らすんだ!」
自分と全く同じ声が響いた。そして、俺の声はこう言った。
「この木に誓うよ。俺は一生君の笑顔を守るよ。だから・・・・・・ずっと俺のそばにいてほしい」
と。
俺の声に君は、たくさんの涙を零して、嬉しそうに笑った。
なぜだろう、何も思い出せないのに確かに君が、さっきの声の主が笑ってくれたことがハッキリと分かる。
しばらくすると、声は聞こえなくなり、頭痛とノイズもおさまった。
俺は改めて、この一本の木を見つめる。
「やっぱ、何も思い出せねぇな」
俺はしばらくこの花畑を歩き回った。
爽やかな風が吹き抜け、花の香りを拾い上げる。
澄んだ空には、雲が千切れたりくっついたりを繰り返している。
ずっとこの場所にいたい。
俺は花畑に寝転び、眠りにつく。
君と話したい、君と目を合わせたい、君とずっと一緒にいたい。
俺の視界は段々と暗くなってゆく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます