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 映画のエンドロールが流れ終えると、観客が一斉に拍手をした。いつ終わるのかわからないような長い拍手の後、司会者の男性が話し始める。


「今回はこの特別上映会にお越しいただきありがとうございます。それでは、今から皆様お待ちかね、主演ケイト・ミラーさんとの対談に写ります。まずは彼女に盛大な拍手を!」


 すると、スポットライトが一番前の観客席を照らした。そして、私は立ち上がると、観客の方に振り返って手を振る。すると、また観客たちが一斉に拍手を始めた。それに笑顔で答えながら、拍手が止むのを待つ。


「本日は本当にありがとうございました。この度、主演を務めさせていただいた、ケイト・ミラーです」


 そこでまた観客が拍手を送る。それが静まると、司会者はスクリーンの前のステージに私を誘導した。


 ステージの上には、二つの椅子が並んで用意されていた。司会者が私に右側の椅子に座るよう促す。私が座ると、司会者も左側の椅子に座った。


「それでは、まず初めに、どうして今回こうした特別上映をされたのですか?」


「私はこの街の、特にこの辺りで20年ほど女優になることを目指して生活してきました。この街があったから、今の私があります。なので今回はその恩返しがしたかったんです」


「そうだったんですか、ケイトさんの女優としての原点はこの街にあるわけですね」


「そうです。この街のお陰です。ですから、感謝してもしきれません。今回の上映が少しでも恩返しにつながれば幸いです」


 そう言って、私は観客の方に笑顔を向けた。私の話を聞いて、観客たちがまた拍手を始める。


「それでは、次に……」


 ・・・



 司会者との対談は30分ほど続いた。対談が終わると、私は控室に向かった。控室に入ると、たくさんの花束が贈られていた。私がその花々を見ながら、椅子に座って一息つこうとすると、ドアをノックする音が聞こえた。


「失礼します」


 と言って入ってきた女性は、私のマネージャーだった。


「これ、またお祝いの花束を渡されまして」


 と言ってマネージャーは私に花束を差し出した。私はそれを受け取ると、中にはたくさんのピンクのカーネーションが入っていた。遠い昔私は同じ花束を受け取ったことがある。


「そんな……まさか」


「どうかされました?」


 とマネージャーが不安そうに尋ねてくる。


「これを渡してきたのは誰? どこで渡されたの?」


「歳が40くらいのよれた緑色のコートを着た男性で、あとは覚えていません。すぐ近くの廊下で渡されました」


「その後、その人はどこに向かったの?」


「エントランスの方に向かわれましたよ」



 彼女の返答を聞くと、私はその花束を近くの机に置いて、控室を飛び出した。廊下を全力で走る。階段を急いで駆け下り、エントランスに着くと、周りを見渡した。だが、見つからない。急いで入り口に向かい、ドアを開ける。すると、ロータリーを一台のタクシーが走り去っていった。


「待って!」


 彼が乗っている確証はなかったが、思わず叫んだ。そして、タクシーに向かって走る。だが、タクシーとの距離は徐々に大きくなっていき、追いつくことはなかった。


 久しぶりに全力で走ったせいか、息が上がって、近くの壁にもたれかかった。その場で遠くに消えていくタクシーを見つめ続ける。


「ベン……あなたなの?」


 そうつぶやくと、私は目頭が熱くなるのを感じた。



 ・・・


「彼女、お知り合いじゃなかったんですか。止まらなくてよかったんですか?」


 そう運転手が尋ねてくる。


「いいんだ」


 と俺は返答すると、携帯を確認した。どうやら、メールが一通届いているようだった。送り元は不明だったが、中身を見て納得がいく。モローからだった。


 君との長い腐れ縁もどうやら今日で終わりのようだ。今回こうして組織を摘発することができたのは君のお陰だ。感謝している。幹部連中はこちらで押さえることができたが、ボスに逃げられたのだけは残念だ。もしかしたら、君は奴の居場所を知っているんじゃないのか? だが、ここまでしてもらった私が君に言うことは何もない。好きにしたまえ。これから君のすることを私たちは関知しないことにする。幸運を


 俺はそのメールを閉じると、ある男に電話した。


「もしもし、俺だ。例の件、協力してくれるんだよな。もちろん、恩をあだで返すようなことはしない。どうなんだ?」


『ああ、協力はするさ。ただあんたが信用できるか少し不安だったのさ。俺のすることは奴が俺の店に来たらすぐに知らせる。それだけでいいんだな。』


「ああ、そうだ。それだけでいい」


『わかった、引き受けるよ。じゃあ、また後でな』


 そう言うと、向こうから電話を切った。これで準備は万端だ。ちょうどそのタイミングでタクシーは駅に到着した。運転手に運賃を渡すと、タクシーを降りる。左足を引きずりながら、駅のロッカーに向かう。鍵を使って、ロッカーを開けると、中にあるアタッシュケースを取り出した。そして、中身を確認する。中には新聞と仕事道具が入っていた。確認を終えるとアタッシュケースを閉じて、改札口に向かう。切符を入れて通るとホームに降りた。数分もホームで待つと、電車がやってきたのでそれに乗り込み、空いていた座席に座った。電車がゆっくり走り出す。俺はこれからのことを考えながら、窓の外に広がるこの街の景色をしっかりと目に焼き付けた。

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