第九転-コロコロールドラゴンVSハングリーグリズリー【前編】。

【コロコロールドラゴン】


 青属性 HP100 青ケシ。

 ①神化(次のターンから下のコマンドを使用できる)。

 ②ミス。

 ③ストーム(相手に20ダメージ)。

 ④ミス。

 ⑤ドラゴンラッシュ(相手に10ダメージ与えた後もう一度行動出来る)。

 ⑥ミス。





【ハングリーグリズリー】


 緑属性 HP100 黒ケシ。

 ①神化(次のターンから下のコマンドを使用できる)。

 ②ミス。

 ③グローアンドクロー(相手に20ダメージ与えた後、次のターンから与えるダメージが10ダメージ増える)。

 ④ミス。

 ⑤ 神化(次のターンから下のコマンドを使用できる)。

 ⑥グリズリーパージ(自分のHPを20減らし相手に60ダメージ)。



 ハングリーグリズリーは最新弾である戦国編に収録されているコロコロ鉛筆だ。


 そしてやはりというべきか基本性能はコロコロールドラゴンよりも上。


 だから一早く神化コマンドを引き当ててコロコロールドラゴンを神化させるしかない。

 

 とにかく"餓鬼がき武者むしゃ"の思い通りにだけは絶対させちゃならない。



「鉛筆を振る順番は公式ルール通りでいいな? 互いに鉛筆を振り出目の大きいプレイヤーが先攻となるんだ」



「公式ルール? なんで300年間御神木に封印されていた"魔妖芯おまえ"がそんなこと知ってんだ?」



「乗っ取った人間から記憶が流れ込んでくるのさ、コイツもこの鉛筆おもちゃで遊ぶのが趣味だった。最も一緒に遊んでくれる友人は一人もいなかったようだがな……いつも学校では学業についていけずに孤立し、10年間も片思いをしていた女にもその心の弱さが故に思いを伝えることも出来ず悲壮感に咽び泣くような哀れな男だ」



『そんな男子おのごの心の飢えがお主を呼び寄せ、その弱みに付け込み体ごと乗っ取ったのだな?』

  


「ククク……アッハハハハハハ! 実に素直な人間だったぞ? その女の命と引き換えと言ったら喜んで俺様に体を差し出したのさ。まぁその女もとっくに俺様が喰っちまったんだがな!」



『な……っ!?』



「それを知った時のコイツの絶望に満ちた顔と来たら……プックックック、今思い出しても笑いが止まらねぇ! ちっぽけな正義感から自己犠牲なんて選ぶからさ! 弱い癖に身の丈に合わねえことをやっちまうからこうなるんだってなぁ! アッハハハハハハ!」



「て、てめぇ……っ!」



「どんな顔の人間だったかなぁそいつら……あぁそうそう思い出した」   



 餓鬼がき武者むしゃがパチンと指を鳴らすと神化しんか結界けっかいの鏡面が盛り上がるようにして一組の男女が現れた。



 一人は整った顔立ちにショートカットのヘアスタイルをした活発な印象を受ける女子高生。


 そしてもう一方は今の餓鬼がき武者むしゃと瓜二つの見た目の男子高校生、つまりは今の餓鬼武者がきむしゃの体の元の持ち主らしい男の子だった。



「確かこんな人間だったかな? ククク……」



 再び指を鳴らすと、程なくして笑顔いっぱいだった女子高生の顔が涙と嗚咽にまみれた顔に変化した。



「痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い! やめてよコウくん! 一体どうしちゃったの!? どうしてこんな!? やめて殺さないで……嫌……嫌ァァァァァァァァ!」



「あーーーーぐッッッ! ぷはぁ……やっぱり絶望に満ちた人間の肉は格別に美味えなぁ!」



「……っ!」

  


 餓鬼がき武者むしゃは少女の頭からむしゃぶりつきペロリと平らげた。何も躊躇もなく、ただ愉悦に満ちた表情で。



 ほどなくして男子高校生の方も悲痛に満ちた顔に変化していく。



「何故だ! 約束が違うじゃないか! オレが体を差し出せば美香子みかこのことは見逃してくれるって! それなのにお前は……お前はァァァァァァァァ!」



「あーーーーぐッッッ! あぐあぐ……げっぷぅ……っ! 馬鹿か? 俺様が人間如きと交わした約束を守るわけねぇだろうが……っ!」



「クソォ……美香子みかこォ……僕のせいでこんな……こんなことに……許してくれ……」



 男子高校生の方は女子高生の方とは違い頭からではなく手足の指一本から順番に少しずつ食べていった。まるで男の子の絶望感を煽るようにギリギリまで意識を保てるように緩慢に……丁寧に平らげていく。



「げっぷぅ……食った食ったァ」



 無論食後の余韻に浸る餓鬼がき武者むしゃの顔には悪びれも罪悪感も微塵もない。

 餓鬼がき武者むしゃにとっては人間はただ自分を満たすだけの食材でしかないということが十分に伝わってくる。



『お主ィ……神聖な神の結界の中でなんと非道なことを……っ!』



「おっと……コイツらの体も魂も俺様が食ったもんだ……つまり俺様の物をどうしようが俺様の勝手! 暴力行為とも略奪行為とも呼ばれる言われは無えってこったな! アッハッハッハ!」



餓鬼がき武者むしゃァ……っ!」



「ククク……俺様プロデュースによる食材にんげん共の断末魔を再現したフルコース! 気に入って貰えたようで嬉しいぜ! これが弱肉強食ってやつさ! まったくこれだから人喰いはやめられねぇ! まぁ……俺様の腹の中で二人共一緒になれたんだ、むしろ感謝して欲しいくらいだな」



「……っ」



 この体の持ち主は想い人を想う純粋な気持ちを"餓鬼がき武者むしゃ"に利用されあまつさえ自分自身の命まで喰われちまったってのか。



 こんな奴に出会ってしまったばっかりに……こんな……っ!



「…………なあ神様」



『なんじゃ?』



「"魔妖芯まようしん"てのはさ……こんなクズみたいな奴らばかりなのか?」



『"魔妖芯まようしん"は業を重ね狂い続けた人間の成れの果て。人の心などとうに忘れておるさ』



「……っ」



 負けられねぇ、絶対に。

 


 人の心も命も誇りも平気で踏みにじるような奴になんか絶対負けるわけにはいかねぇ!



 見てやがれこの野郎……っ!



「さっさと始めようぜ? 俺もお前と同じでさ、どうにも腹の虫が収まらねえんだ……今にも煮えくり返って爆発しそうでよ」



 鉛筆バトルにおいては先攻が絶対的に有利。ここは絶対に譲れない。



「ククク……コロコロール!」



「行け……っ!」


 


 コロコロコロコロ。

 


 コロコロールドラゴンの出目が⑥。



 ハングリーグリズリーの出目が④。



「よし! 先攻は取ったぞ!」



『でかしたぞアラ太!』



「チッ、まぁいい」















【TURN1】






「……」



 ***



「じゃあ次オレの番ね、コロコロール!」


 コロコロコロ。


「え? 何? コロコロールって?」



「一流のペンシリストは言わなきゃいけない決まりなんだよ!」




 ***



「……っ」



 今までは色々な事を投げ出してきた。



 目の前の現実が嫌でいつも逃げる事ばかり考えてきた。



 それが一番楽な道だったからだ。


 

 でもコイツは……コイツだけは俺の全てを懸けて……倒す!



 ましろの事ももう笑えねえな。



 今日から俺も一端のペンシリストだ。



「コロコロール!」



 コロコロコロコロ!



 ⑤ドラゴンラッシュ(相手に10ダメージ与えた後もう一度行動出来る)。



「なっ!?」



「よし! 行けドラゴンラッシュ!」



『ハァァァァァ!』




 コロコロールドラゴンは目にも止まらぬ文字通りの神速をもってハングリーグリズリーに突撃した。

 


『グッ……!』



 【ハングリーグリズリー】

 HP100−10HP90。



「まだだ! ドラゴンラッシュの効果でコロコロールドラゴンは更にもう一度行動することが出来る! もういっちょ行くぞ神様!」



『うむ!』



「コロコロール!」



 コロコロコロコロ!



 ③ストーム(相手に20ダメージ)。



「出目は③! よってストームを受けて貰うぜ!」



『ストォォォォム!』



 コロコロールドラゴンは長い尻尾を振り回して竜巻を発生させ、ハングリーグリズリーに攻撃を仕掛ける。



『グォォォォォォォォ!』


 ハングリーグリズリーはその竜巻に巻き込まれ大きく後方へ投げ出された。



 【ハングリーグリズリー】

 HP90−20HP70。



「ちぃ……っ! ただの人間が……調子に乗ってんじゃねぇぞ! コロコロール!」



 コロコロコロコロ!



 ⑥グリズリーパージ(自分のHPを20減らし相手に60ダメージ)。



「ククク……グリズリーパージは自らの血肉を糧として相手モンスターに大ダメージを与える大技だ! やれ! ハングリーグリズリー!」



『グォォォォォォォォ!』



 ハングリーグリズリーは自分の腕の肉を噛みちぎると雄叫びを上げコロコロールドラゴンに突進してくる。



『アラ太! あの攻撃を受けるとHPの優劣が逆転してしまうぞ!』



「あぁ分かってるさ! この数日間に俺はコロコロ鉛筆の戦術や種類の数々をましろから色々教わってきたんだ! ここで俺はコロコロールドラゴンに装着された青ケシに秘められた能力を解放する!」



「なっ!?」



【青ケシ】

 解放条件:相手モンスターの攻撃によりダメージを受ける時。

 特殊能力:鉛筆を振り2の倍数の出目が出た場合、受けるダメージを0にする。

 使用制限:一度のバトルで合計3回まで使用可能。



「青ケシの鉛筆を振り2の倍数の出目が出た時相手の攻撃によるダメージを0に出来る!」



「だが確率は1/2だ! 当たるとは限らんぞ!」



「引き当てるさ……何がなんでもな!」



 俺はもう迷わない……そう決めたんだ。



 これ以上魔妖芯コイツらによる犠牲者を増やさないためにも!



「コロコロール!」



コロコロコロコロ。



「で、出目は……②! ②だ! よって青ケシの能力が解放される!」



「な、なんだと……っ!」



【青ケシ使用制限】3−12。



「セーフティシールド!」



『ハァァァァァァァァ!』



コロコロールドラゴンの額に輝く青の宝玉が激しい光を放ち、その光により生成されたバリアがグリズリーパージの攻撃を受け止めた。



『グッ……!?』



『いいぞアラ太! 君の気持ちが鉛筆に伝わってくる! 絶対勝つという強い気持ちが!』



「グ、グリズリーパージが防がれただとォ……っ!?」



「それだけじゃないぜ! 青ケシの能力で無効になったのはダメージだけだ! よって攻撃のコストとして支払った20のHPは引かれたままバトルが続行される!」



「ク、クソがァァァァ!」



【ハングリーグリズリー】

HP70−2050。



「感謝しな、てめぇにはとびきりの絶望を腹一杯まで食わせてやるぜ」


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