第50話 仲人⑨

…僕も菅ちゃんも、大きく吸い込んだ息を、そのまま吐き出せずにいた。二人とも真奈美という人物を知っていた気でいたが、これ程の人物であったとは、よもや予測もできなかった。

 「そのせいでしょうか…。」

真奈美はソファーから立ちあがると、スカートをひらりと翻して、顔色が失せた僕達の横を通りすぎ、大きく窓を開けた。

「ほら、見て下さい。今日はピッカピカの晴天です。会長もきっと大喜びでいらっしゃいますわ!。」

 

 「…よくわかったよ。君はデスクに戻りなさい。」

 かろうじて声を出した菅ちゃんに、真奈美は二コリとほほ笑むと、一礼をして部屋を後にした。


「…真奈美の責任ではありません。全ては、真奈美を二次会に参加させた僕の責任です。」

 振り返って僕を見て、菅ちゃんが言った。

 「とにかく、お詫びに行かないと…。」

 そういうと受話器を取り上げ、短縮番号を押した。静かな部屋にコール音が鳴り響く。

 会長は忙しい人なので、いつもは一回の電話でつかまる事はまずない。会長から折り返しの電話がかかってくるまでに、お詫びの言葉を考えなければ…。僕は頭を抱えながら、黙って受話器から漏れる音に耳を澄ませていた。

 「エイトナインの菅原と申しますが、会長はおいででしょうか?」

 「お待ち下さいませ。」

 そして電話は、あっさりと会長につながった。

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