私、初めて救急車を呼んじゃった!
次の日の朝、私はご飯を食べるためにテーブルのいつもの席に着いた。
今朝はおじちゃんお得意の目玉焼きトーストだ。
トーストにバターを塗り、マヨネーズを重ねて塗る。
最後に焼いた目玉焼きを載せたら完成だ!
簡単な料理だけど、コレがまた美味しい!
(昨日の頑固なお爺さん、気になるなぁ...)
私はトーストを頬張りながら、ぼんやりとそう思った。
その姿を見ていたおじちゃんが、
「どうした?恋の悩みか??」
「違う!!」
と、私は即答。
「じゃあ、アレだ!あの影ってヤツ?」
と、おじちゃんは聞き返した。
本当は知っていたくせに!
わざと私をからかったんだ!
「そうだよ!昨日気になるお爺ちゃんがいたんだ。初めて赤い影が見えたんだ」と、気にしていることを話した。
「ふうん。赤ねえ。あまり縁起のいい色じゃないなぁ」
おじちゃんの話では、赤は「血の色」を表し、戦争をイメージしたり、戦時中の赤紙や死刑執行のサインが赤だったりするそうで、高齢の方々からは縁起が悪いイメージがあるそう。
名前を赤で書くのはNGとされていることは、知っている人も多いと思う。
あっ、赤紙とは召集令状のこと。
戦時中に軍隊が一般の人を召集するために個人宛に発布する令状のこと。
これは、噂だけど赤紙を受け取りたくなくてタバコを食べて体調不良を起こし、召集を逃れた人もいたとか。
ちなみに、話は変わるが、高齢者の方々に対して、ズボンの「ジーンズ」もNGとのこと。
ジーンズ=アメリカをイメージさせるきっかけとなり、戦時中の悪い思い出に繋がってしまうそうだ。
福祉現場で仕事をしている人は、基本ジーンズを履いて業務をしないそうだ。
チノパンやジャージなどを利用するそう。
出勤、退勤時は、ジーンズを履いている人もいるようだけど、仕事中は履き替えているらしい。
ジーンズがNGなことは、施設でもルールとして決まっていることが多いと、おじちゃんが言っていた。
あっ、話を戻すけど、赤い影はやっぱり何か気をつけないといけない気がする。
「そこまで悩んでいるなら、今日行ってきたらいいじゃないか。昨日も勢いで行っちゃったんだろ。1度も2度も、たいして変わらないだろ」とおじちゃんはサラッと言った。
簡単に言うよね...。
簡単なら、こんなに悩まないのに...。
「さて、俺は仕事に行くぞ!香純も行った行った」と、背中を押されてしまった。
(えっと...何か...行くしかないのかも...)
やや、渋々だったけど、確かに家でモヤモヤしていても始まらない。
(行くだけ、行ってみよう!)
まだ、寝起きだった私は寝癖も残っていた。
頑固なお爺さんの様子を見に行くために
急いで支度に取りかかった。
******************
今日も暑い。
(頑固なお爺さん、大丈夫かな?)
この暑さは心配になるくらいのものだった。
(念のため、余分に水を持って行こう)と自動販売機でペットボトルの水を2本購入した。
ペットボトルは冷たくて気持ち良かった。
一口、みずを飲んだ。
何か一瞬、私の周りが涼しくなった気がした。
なるべく日陰を通るようにして、お爺さんの家を目指した。
(暑くない方がいいもんね)
お爺さんの家が近づいてくる。
(ドキン、ドキン)と心臓の鼓動が強くなってくる。
(やっぱり、お爺さんのことが怖いよぉ)
玄関に近づくと、猫が2匹
「ニャーニャー」と鳴いていた。
(あれっ?どうしたんだろう?)
昨日、お爺さんが餌をあげていた猫たちだ。
餌を待っているのかな?
お爺さんはいるのかな?
ちょっと不思議に思ったので、チャイムを鳴らした。
ピンポーン。
反応がない。
(あれっ?留守かな?)
ピンポーン。
もう一度鳴らしたが反応が無かった。
でも、猫が泣き続ける。
(やっぱり変だ)
私は玄関を開けて、お爺さんを呼んでみることにした。
玄関に手をかけると、鍵はかかっておらず、ドアが開いた。
そこには...
お爺さんが倒れていたのだ。
「お爺さん!?大丈夫?」と私はお爺さんに駆け寄った。
声をかけても反応がない。
意識を失っているのだ。
でも、息をしている。
生きているのだ。
ちょっと体が熱い。
もしかしたら熱中症なのかもしれない。
(私1人では...)と、近所の方に協力してもらうことにした。
急いで、隣のチャイムを鳴らした。
おばさんが出てくれたので、事情を説明した。
おばさんは
「あら、大変。熱中症は体を冷やす必要があるから、準備して行くわね。お嬢ちゃんは、救急車を呼んで...お爺さんの側にいてあげて」と、指示をくれた。
私はお爺さんがいる玄関に向かった。
そして、携帯で「119番」に電話した。
電話が繋がり状況を聞かれた。
お爺さんの様子をわかる範囲で伝えた。
次に
「住所はどちらですか?」と聞かれたのだけど、ちょっとテンパっている私には分からない。
あたふたしていると、隣に住むおばさんがやって来た。
「おばさん、住所わかる?」
と聞くと、
「私の家の隣だから...ちょっと電話貸して」と電話に出てくれた。
「ちょっと!住所は〇〇〇〇の隣の家よ!くれば分かるわ!兎に角急ぎなさい!早く救急車をよこしなさい!」と凄い勢いで話した。
「はい。急いで救急車が来るみたいよ」と、携帯を返してくれた。
その後おばさんは濡らしたタオルを首に巻いた。
次に、お爺さんの着ているシャツをめくり、脇の下に濡れたタオルを挟み、胸元に濡れタオルを置いた。
「これでいいわ。お嬢ちゃん、うちわでお爺さんに風を送ってあげてね」とうちわを渡してくれた。
パタパタとうちわであおぐ。
「おばさん、ありがとう」
私は素直に感謝してお礼を伝えた。
「いいのよ。困った時はお互い様よ!」とおばさんはニッコリと笑った。
(ああっ...本当に良かった)
安心したら、腰が抜けてしまった。
お爺さんの側に私は座り込んだ。
その時
「う...う~ん」
と、お爺さんが意識を取り戻したようだった。
「な...なんだ...何があった...」
お爺さんはまだ意識はハッキリしていないようだ。
おばさんが優しく
「お爺さん、玄関で倒れていたのよ。このお嬢さんが助けてくれたのよ」と話をしてくれた。
「そうか...悪かったな...ありがとう」と力弱くお爺さんが一言私に言った。
遠くから、救急車の音が聞こえる。
私はお爺さんに余分に買ったペットボトルを渡した。
「水はあった方が、いいと思うから」
そう伝えた。
お爺さんは(ニコッ)としてくれた。
その後、お爺さんは救急車に乗り病院に向かった。
救急隊員の話だと、あと少し遅かったらお爺さんの命は危なかったそうだ。
(赤い影の色。やっぱり命の危険が迫る色なのかもしれない)
今日、お爺さんの家を訪ねて良かった。
それにお爺さんは「ありがとう」とも言ってくれた。
嬉しかったなぁ。
(お爺さんが退院するころ、もう一度来させてもらおう)
お爺さんは、4日後、無事退院する。
私は日を改めて、お爺さんに逢いに行った。
それは、次回の話になるケドね。
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