第3話

 あれから数ヶ月経ち、季節は春である。

 僕はミヨ子と花見に来ている。


 「初めて此処の桜を見に来たが、噂通りとても綺麗だな。」

 「そうですね。私、桜大好きなんです。実家の近所の河岸にも、この様によく咲いていましたわ。」

 僕は彼女が今朝作った弁当を頬張る。

 こんな美味しい料理、上京して以来初めてだ。

 「この弁当は本当に美味しいなあ。特にこの蓮根の煮付けは東京の何の料亭を探してもこんなに旨いものは見つからないよ。君の母親に教えて貰ったのかい。」

 何故かミヨは少し青ざめた。何か悪いことでも云ったのだろうか。

 「ええ、そうですよ。私の母は料理の手が素晴らしいのです。蓮根の煮付けは母の得意料理でしたのよ。」

 「君は母親のことが好きなのだね。」

 「私は母を誇りに思っていますわ。ただ....。」

 ミヨの眼が曇る。

 「いいえ、何でもありませんわ。さあ、この金平如何ですか。味付けには自信がありますのよ。」

 「そうだな。聞いてしまってすまない。」

 僕は金平へ箸を伸ばす。

 口に優しい味が広がる。

 其れと同時に、僕は思い出す。

 彼女は家族に捨てられことを。

 ただ、何故自分を捨てた母親を慕っているのだろう。

 ミヨは家族のことを愛しているのだろうか。

 ならば、彼女は家族と離れている今、とても寂しいに違いない。 

 ミヨを喜ばせることができたらいいのだが。

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