3-11 1人きりの時間
今日はクリスマス―
琢磨の部屋で目覚まし時計の音が部屋中に鳴り響いている。
ピピピピ・・・。
「う~ん・・・。」
ごそごそとベッドから腕を伸ばし、パチンとアラームを止める。そして欠伸をしながら大きく伸びをすると琢磨は起き上がった。
「ふう・・・・。昨夜は飲みすぎたな・・。」
昨夜琢磨は友人が経営するダーツバーにいた。
クリスマスイベントのパーティーが開催されたのだが、どうしても頭数が足りないから来てくれと友人に頼み込まれて、仕方なく出席したのであった。
琢磨自身はこのパーティーに長居するつもりは全く無かった。ほんの少しだけ顔を出して友人の顔を立てたら、早々に退散するつもりだったのだが数人の女性に取り囲まれて、帰るに帰れなくなってしまい、結局帰宅出来たのは深夜の2時を回っていた。
「・・・ったく・・・。もう二度と頼まれても出てやらないからな・・・。」
頭をかかえると、スマホが着信を知らせるランプが点滅している事に気が付いた。
「うん?誰からだ・・・?翔からなのか?」
スマホをタップすると着信相手は朱莉からであった。
「朱莉さん・・・?そういえば・・昨夜は翔がプレゼントしたホテル宿泊ギフトを利用したのか・・?」
何かあったのだろうか?
琢磨はすぐにメッセージを開いてみた。
『こんばんは。土曜の夜に申し訳ございません。翔さんのプレゼントしてくれたホテル宿泊を本日利用させて頂いております。エステに豪華なルームサービスをお陰様で堪能する事が出来ました。その旨を翔さんに伝えて頂けますか?後、1つお願いしたい事があります。今現在住まわせて頂いておりますお部屋ではペットを飼う事は出来るのでしょうか?もし出来るのであれば、小型犬を飼わせて頂きたいのですが、翔さんに尋ねて頂けますか?どうぞよろしくお願い致します。』
「ふ~ん・・・。そうか・・・ペットか・・・。」
琢磨はスマホのメッセージに目を落しながら呟いた。確かにあの広い部屋に1日中1人きりで過ごすのは・・・寂しいかもしれない。今朱莉は外で働いている訳でもない。家で通信教育の勉強と母親の面会の為に病院通いをしているだけの日々を過ごしている。
結婚当初、朱莉はパートでもいいから外で働きたいと琢磨を通して翔に希望を出していたのだが、書類上とはいえ鳴海グループの副社長の妻が働く事について世間体を考えた翔が許さなかったのである。
「まあ、確かにペットでも飼いたくなる環境ではあるよな・・・。」
琢磨の記憶では翔たちが住んでいる現在の住居はペットを飼う事は可能であった。
ペットと暮らす為にわざわざ室内の床や壁紙をペットの爪で傷がつかないように張り替えたり、バスルームにはペット専用の洗い場を作ったり、専用のペットスペースを設けている部屋も実際にはある。
「よし、それじゃ翔に相談してみるか・・・。と、その前に朱莉さんに返信しておかないとな・・・・。」
琢磨は早速朱莉にメッセージを打ち込んだ。
『おはようございます、昨夜はメッセージを頂いていたにも関わらず、返信が遅くなってしまい申し訳ございませんでした。ペットの件ですが、そちらのお部屋はペット可になっております。すぐに副社長にペットを飼育しても良いか確認を取り、またご連絡させて頂きます。それまで少々お待ちください。』
メッセージを送信すると、時計を見た。
時刻は7:30・・・。
翔・・・起きているだろうか?
昨夜は明日香とベイエリアのホテルに泊まっている事は琢磨も承知している。
ルームサービスは8時なので、恐らくもう2人は起きているだろう。翔に電話を入れようとして・・・琢磨は手を止めた。
(明日香ちゃんとホテルに泊まったから、当然翔の近くにいるはずだな・・・・。そうなると電話の内容を当然聞かれてしまうだろうし・・・・。まずはメッセージを送信してみるか。)
『お早う、翔。実は朱莉さんがペットを飼いたいと言っている。お前に尋ねて欲しいと頼まれたから返事をくれ。』
要点だけ書きこむとすぐにメッセージを送信した。
その後着替えを済ませて、コーヒーを淹れていると電話が鳴った。
「もしもし。」
『お早う、琢磨。今メッセージ読んだよ。』
「そうか。で、ペットの件はどうだ?俺は・・・幾ら何でもあんな広い部屋に1日中1人で過ごす朱莉さんが気の毒だと思うからペットを飼うのは賛成だ。翔、お前はどうなんだ?」
『ああ。俺も別に構わない。朱莉さんが自分から要望を言って来るのは今回が初めてだしな・・・。琢磨から朱莉さんに連絡を入れておいてくれないか?あ、それで伝えておいてくれ。もしペットを飼ったら、画像を送って見せて欲しいって。』
「分かったよ。それじゃ、今一度電話切るぞ。多分朱莉さんメッセージを待ってるともうからな。」
『分かった。朱莉さんによろしくな。』
琢磨は電話を切るとすぐにメッセージを書いた。
『副社長の許可を頂く事が出来ました。どうぞ朱莉さんの御好きなペットを選んでください。後、社長がもしペットを購入した際は写真を送って見せて貰いたいと話しておられました。それではまた何かございましたら連絡を下さい。』
ルームサービスのコーヒーを飲んでいると朱莉のスマホに着信を知らせる音楽が鳴った。
ひょっとして・・・九条さん?
直ぐにスマホを開くと朱莉の顔が笑顔になった。
「良かった・・。ペット、飼ってもいいんだ・・・。」
朱莉はすぐにコーヒーを飲み終えると、荷物を片付けていつでもチェックアウト出来る準備を始めた。
(フフ・・・早速今日ホテルを出たらペットショップへ行ってみよう。そうだ!どんなペットがいいか、今から検索しておこうかな?)
朱莉は早速スマホの検索画面を表示させ、どんなペットがいいか調べ始めた。
(う~ん・・・。飼うのなら犬がいいかな?それとも猫がいいかな?あ・・・でも、猫はひっかいて壁紙とか傷つけちゃったらまずいし・・うん。やっぱり小型犬にしてみようかな・・・?)
それから朱莉はホテルをチェックアウトするまでの時間を、ペット検索に費やすのだった―。
「明日香、そろそろチェックアウトの時間だ。行こう。」
翔は未だにベッドの上に寝転がっている明日香に声を掛けた。
「あ~あ・・・。もう帰らなくちゃいけないなんて・・・。もっとこの部屋にいたかったわ。」
ベッドから身体を起こすと明日香は言った。
「ねえ、もう1日泊まらない?」
「無理言うなよ、明日香。俺は明日は仕事があるんだ。明日の朝、ここから会社なんて遠すぎだ。」
翔は荷物を整理しながら言った。
「そう、つまんないの・・・。あ、ねえねえ!年末は何処へ行くんだっけ?」
明日香はベッドから飛び降りると翔に首に腕を巻き付けた。
「ああ、例年通りに2人でハワイの別荘に泊るんだろう?」
翔は笑顔で明日香に言う。
「良かった・・・・。」
それを聞いた明日香がしんみりした口調で言う。
「何が?」
「だって・・・今年からもう無理だと思っていたのよ。だ、だって・・・翔は結婚しちゃったから・・・。」
明日香は目に涙を浮かべながら翔を見た。
「明日香・・・。」
翔は明日香を抱き寄せると言った。
「馬鹿だな。何度も言ってるだろう?彼女とは只の書類上だけの結婚だって。俺が愛するのは明日香、お前だけだよ・・・。」
「本当、嬉しいっ・・・!」
明日香は笑顔で翔の頬にキスをした。
そんな明日香の背中を撫でながら翔は思うのだった。
やはり・・祖父には早めに引退をするように促すしか無いか・・・。
朱莉さんと明日香の為に早く離婚を成立させた方がいいんだろうな・・。
しかし、当の朱莉は翔がそんな事を考えているとは露ほども思いはしていなかったのである―。
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