3-4 明日香の異変
翔がPCに向かっていると、オフィスのドアがガチャリと開けられて琢磨が部屋へと入って来た。
「・・・戻りました・・・。」
琢磨は疲れ切った様子で、ドサリと自分の机に座った。
「どうした・・?琢磨。随分疲れ切っているように見えるが・・・?」
翔は声を掛けた。
「あ、ああ・・・。まあな、ちょっと色々あって・・・。今、少し話せるか?」
琢磨は翔を見ると尋ねた。
「大丈夫だ。・・・何があったんだ?」
「・・・お前と明日香ちゃんの部屋へ行ってきたんだ。お前の私物を少し朱莉さんの部屋へ移動させる為にな。」
「何だって?」
翔は眉をしかめた。
「どうしてそんな勝手な事をするんだ・・・とでも言いたいのか?」
「・・・。明日香の様子はどうだった?」
「ああ、ヒステリーを起こして大変だったよ。何だか以前より酷くなっていないか?精神安定剤飲んでるんだろう?」
「いや・・・実は今は飲んでいないんだ。」
「なんでだ?医者から辞めていいと言われたのか?」
「・・・言われていない。」
「おいおい・・・。もう一度医者に行くように言えよ。あれじゃあお前だってたまったもんじゃないだろう?家に帰ったって、あんなヒステリックな明日香ちゃんと一緒だと気が休まらないんじゃないか?」
「俺は・・・これは俺が受けるべき・・・罰だと思ってる。」
「はあ?何言ってるんだよ?それに・・・今まで聞かずにいたけど・・お前、明日香ちゃんからDV受けているだろう?」
「!」
翔の肩がピクリと動く。
「やっぱりな・・・。全く、鳴海グループの御曹司が恋人からDVを受けているなんて話・・・笑えないからな?」
「俺の事・・・・情けない男だと思っているだろう?」
翔は自嘲気味に笑った。
「おい!翔・・・。悪いことは言わない。一度・・・明日香ちゃんを入院させたらどうだ?あれはもう酷いなんてものじゃない。」
「そ、そんな事をして、世間にもしばれたらどうするんだ?!マスコミにかぎつけられて・・・最悪、俺と明日香の関係までばれたらこの会社はどうなる?!」
「都心ではない・・・どこか地方の療養施設に暫く明日香ちゃんを預けるんだよっ!な?悪いことは言わない。何も何カ月も入院させるわけじゃない。せめて長くても半年・・・短くても3カ月・・・。その間に明日香ちゃんは治療に専念する。お前はゆっくり休める。・・・悪い話じゃないと思うぞ?」
「そんな話、納得すると思うのか?明日香が・・・。」
「ああ、納得なんか絶対にするはずはないだろうな?だから一緒に旅行へ行こうとか何とか誘い出して入院させるんだよ!」
気付けば、2人はまるで口論をしているかのように互いに声を荒げて激しく言い合いをしていた。
「とにかく・・・駄目だっ!俺には明日香を騙すなんて事は出来ないっ!」
「朱莉さんの事は騙して面接を受けさせたのにか?!」
「・・・・。」
琢磨の言葉に、翔は青ざめて口を閉ざしてしまった。
「すまん、悪かった・・・。俺だってお前の事言えないしな・・・。彼女を大勢の中から選んだのは俺だ。お前の事責められる立場じゃないよな・・。」
「明日香が・・・。」
「何だ?」
「明日香が・・・すぐにでも・・子供を欲しがっているんだ・・・。」
「・・っ!おい、翔っ!その話・・・本当なのか?」
「・・・ああ・・・。」
「お前なあ・・・・。確か子供だって生まれたら朱莉さん一人に育てさせるつもりでいたよな?しかも、朱莉さん本人が生んだようにして・・・。一体明日香ちゃんは何を考えているんだよっ!」
「不安なんだって・・・言ってた・・。」
「え?自分は本来なら鳴海家にいていいはずの人間じゃないって・・・。鳴海家には血のつながってる家族がいないから・・本当の家族が欲しいって言ってるんだ。だから・・子供が欲しいって・・・。」
(そうか・・・自覚があったのか・・・。まずいことを言ってしまったな・・・。)
琢磨は下唇を噛んだ。その様子に気が付いた翔が声を掛けてきた。
「どうした?琢磨・・・。何かあったのか?」
「実は・・・。本来、明日香ちゃんは鳴海家において貰っている立場だって事を忘れるんじゃないと、つい口が滑って言ってしまったんだ・・・。」
「そうか・・・・まあいい、気にするな。これは俺と明日香の問題だからな。」
「確かにお前と明日香ちゃんの問題ではあるが・・・子供を産みたいとなると、それはまた別問題だからな?明日香ちゃんが薬を辞めたのは・・子供が欲しいからなんだな?」
「そうだ。」
「俺は・・・医者じゃないから良く分からないが・・・あんな精神状態で妊娠生活を送れるのか?とても無理だとは思わないか?悪いことは言わない。今はまだ考え直してくれ。お前たちの為だけじゃない、俺は朱莉さんの事も考えて言ってるんだ。」
「朱莉さんの為・・・?そうだな、それは当然だな。」
「いいか。朱莉さんは今高校卒業の資格を取る為に通信教育を受けているんだろう?少なくとも・・・3年間は勉強を続けないといけない。それなのに、明日香ちゃんの子供が生まれたらどうするんだ?お前たちは朱莉さんに育てさせるつもりなんだろう?それとも・・朱莉さんを巻き込まずに、明日香ちゃんとお前の2人で生まれてきた子供の子育てをすると言うなら・・・もう勝手にするがいいさ。」
「明日香に・・・子供を育てるのは無理だ。」
「だったら、最初から子供の事は諦めろよっ!」
再び琢磨は声を荒げたが・・・ため息をつくと言った。
「すまなかった・・翔。後2時間もすれば大事な商談が始まるって言う時に・・・。出来るだけ・・・俺も協力するから、今は目先の仕事の事を考えよう。」
「ああ・・・、そうだな。」
翔は顔を上げて無理に笑みを作ると書類に目を通し始めた-。
琢磨の帰った後、再び朱莉はPCに向かって通信教育の授業を受けていたその時、突如朱莉のスマホが着信を知らせた。
「誰からかな?」
そして次の瞬間、朱莉は目を見開いた。何と着信先の相手は明日香からであった。
え?な・・・何故、明日香さんからメッセージが・・・?
ドクンドクン・・・・。
朱莉の心臓の音が激しくなってくる。怖いけど、メッセージの中身を確認しなければ・・・。
朱莉は震える手でスマホをタップした。
たすけて
え?何・・・たすけてって・・・?一体どういう事・・・?また何か騙されるのだろうか?だけど、朱莉にはたすけてと言われて、無視するような事は出来なかった。
明日香さん!
朱莉はスマホを握りしめると、玄関を出て戸締りをすると急いで明日香と翔の住む部屋へと向かった。
ゴクリ・・・。
朱莉は今、明日香たちの部屋の前に立っていた。意を決してインターホンを押す。
ピンポーン・・・・。
しかし、待てども明日香が出てくる気配は無い。留守なのだろうか・・・?
朱莉は再度インターホンを押すが、やはり明日香は出てこない。
「・・・・。」
朱莉はドアノブを掴み、試しに回してみると・・・
カチャリ・・・。
ドアが開いた。
え・・・?あ、開いてる・・・?
「お・・・・おじゃまします・・・。」
朱莉は靴を脱ぐと、ゆっくりと室内へ入っていく。しんと静まり返った室内は得も言われぬ恐怖を感じる。
明日香は一体何所に・・・?広々としたリビングを抜けた時、ベッドルームのドアが開いているのが目に入った。そしてそこには苦しそうに倒れている明日香の姿があった。
「あ、明日香さんっ?!」
朱莉は急いで明日香の傍へ駆け寄った。
明日香は返事をするこ事も出来ず、苦し気に荒い息を吐いている。
ど、どうしよう・・・!
良く見ると明日香はさらに小刻みに痙攣まで起こしていた。
もう一刻の猶予も出来ない!
そう判断した朱莉はスマホを手にすると電話を掛けた-
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