人間側 とある冒険者達と暗雲②終



「――これだけか? 逃げ延びることのできた連中は」


「少なくとも索敵範囲には。ふむ、随分と減ってしまったものだ」



ミミック達の前から退き、雲の隙間に隠れながら散り散りとなった仲間達を集め直してみたが……その数、私と仲間の魔法使いを含めてもたった数人。多めのパーティーひとつ分ぐらいにしかならないとは。あれだけ居たというのに。



「何が随分と減ってしまった、だ! お前達の指示ミスだろうが!」


「なにしてくれんのよ! 折角高い金払って来てるのに!」


「何も盗れず帰れないよ…。どうしよう……」


「そういやテメエらの傍に上位ミミックがいたのを見たが……」


「んなっ…! まさかアタシらを嵌めようとしたのかい!?」



そしてその連中も、私達に非難を浴びせてくる。まあ、それは仕方がないだろう。私のミスには違いない。だが――。



「すまない。しかし落ち着いてくれ。他に策があったか? 開幕から雲に潜まれていただけでなく、あの手この手で…バッグや弓矢、雲の道や雲のマシン?、果ては落雷を始めとした魔法攻撃をミミックがしかけてくる中、他にどう動けた?」



「それは……」

「まあ……」



「私達も上位ミミックに絡まれていたぐらいだ。いや……天使の気まぐれならぬミミックの気まぐれで生かされていた、と言っていいだろう。それが指示に影響していたのは確実だが、そんな指示でも無ければ、恐らくは早々に――」



「……全滅してかもなぁ」

「そもそも頼りすぎだったわねぇ……」



幸いこいつらも歴戦の冒険者、今の弁解で気を収めてくれたようだ。私達の関係はただ共に来ただけの同業者、音頭を取っていたとはいえ、私が指示を送る責務はない。



そもそもあんな異常まみれの前ではそれぞれで切り抜けるのが当然、それが出来なかったからこそ私の指示に頼ったのだろうしな。――その上で、だ。



「このまま帰れないのもわかっている。その辺りの光の花や清雨の泉水や雲の彫像でも高値はつくだろうが……負けて帰ってきたと笑われるかもしれない。覚悟があるのなら、一つ賭けてみないか?」



「え……! ど、どんなですか……!?」



食いつく残されたメンバー達。私は周囲の雲を一度見やりつつ、声を大きめに策を…もう策とは言えないそれを明かす。



「ミミックが雲に潜める以上、もはや見つかっている前提でいくしかない。正面突破で、大天使ガブリエラを狙う! どうせやるなら一獲千金、散るならガブリエラを相手取ってからだ!」



「「「「「ッ!!!」」」」」



「ガブリエラの性格からして、堂々と挑めば勝負は受けてくれるだろう。そこで上手くやって羽根を一枚でも毟れれば、今回の損害のお釣りが来る。どうだ、乗るか?」



「……乗った!」

「俺もだ!」

「同じく!」

「やってやんよ!」

「ビビッてたまるかっての!」



全員参加か、流石は冒険者だ。さあ、行こう。ガブリエラを探しに――……。



「いや、私は撤退を提言しよう。ダンジョンの主たるガブリエラの近辺に護衛のミミックがいないとは考えにくい。せめて対策を練ってから……話を聞いてくれないか? はあ、全く」



仲間の魔法使いのもっともな意見はこの際無視させて貰おう。進むべき道は私が選択する。待っていろ、ガブリエラ!









「――あそこだ、間違いない。ガブリエラのいる雲神殿だ」


「本当に一本だけ黒い柱があるとは。目立つな」


「雲神殿、ってことはあれも黒い雲ってこと…? 雷撃ってくるんじゃ……?」


「いやあれ、なんというか焦げてねえか? 雲が焦げるってのもよくわからねえが」


「……? なんか歌が? 癒される感じの……」


「あぁ、恐らくガブリエラが歌っているのだろうさ」


「へぇ、勝利の歌かい? それともラブソングだったりするのかねぇ」



雲に警戒しながらダンジョン内を移動し、ようやく目的の場所に着いた。歌も聞こえるし、ガブリエラは間違いなくこの中にいることだろう。



なら早速だ。神殿内へと侵入し、戦闘態勢を整え、いざ――!



「~~♪ あら? まあ……」


「ガブリエラ! その羽根を賭け、勝負を挑ませて貰おう!」



歌うガブリエラの前に身を曝し、真っ向から挑戦を叩きつけ……っと?



「このエンジェル達は……」



ガブリエラの周りには、沢山のエンジェルが。見たところ、羽がどこか欠けている連中が多い。私達の姿を見て怯えた顔を見せ、普通以上にふわふわフラフラしながらガブリエラの後ろへ逃げていった。



恐らく私達冒険者の誰かが以前に毟ったエンジェル達なのだろう。ようやく羽根が生え戻ってきた頃合いと見た。中には頭の輪を割られかけたらしく、保護カバーのようなものを装着している奴もいる。



そして……リラックスしていたからか、バッグを背負っている奴はいない。ふむ……いや、それよりガブリエラだ。



「あなた方の事はミミックの子から報告を受けておりますよ。一縷の望みをかけ、ここまでやってきたということも勿論知っておりますとも」



グランドハープを光に戻し、隠れたエンジェル達を守り隠すように大きな六枚羽を広げ降りてくるガブリエラ。やはり何処かの雲にミミックは潜んでいたのだろう。しかし。



「幾度も襲い来るあなた方の行動は許せないものではありますが、ええ。此度の意気は称賛に値します。それにもし拒否を示し、皆が危ない目に遭うのは避けたいところでしたし――」



彼女の命により、ミミックは監視役に留まっていたに違いない。道中私達が気変わりを起こし周辺のエンジェルを狙っていたらその限りではなかっただろうが、標的をガブリエラに絞っていたからここまで招かれたんだ。



さあ、私の策は、ガブリエラの情を利用する作戦はなんとか通った。あとは、光を周囲に集め、武具を象る彼女から――!



「私だけを狙うのであれば、受けて立ちましょう!」



「奪い取るぞッ!」

「「「「「オオオォオッ!」」」」」









「――光の刃!」

「くっ!?」


「光の盾!」

「おっと…!」


「煌めきの雨よ!」

「うぐっ…!」


「カウンター!」

「ぐへっ!?」

「なんでわざわざ宣言して……!?」


「えいっ!」

「キックぅっばっ!?」

「体術!? 大天使が!!?」



流石はガブリエラと言うべきか。神殿内の一切を傷つけず、数多の技で私達の攻勢を難なく抑え、それどころかこちらを慮るように、いや、まるで遊ぶように扱ってきて……!



「お、おいこのままじゃ…!」

「ただ負けるだけじゃないかい…!?」



だろうな…! ガブリエラを相手どるのは最初の人数が揃っていても厳しいんだ。イチかバチかで勝てる相手ではない。それでもと考え、羽根狙いで来たが……。



「なりませんよ!」


「ばふぅっぁん…」

「ちょっ!? なんで今羽に叩かれたのに…!」

「頑張って毟りなさいよアンタ!!」

「恍惚としてんじゃねえ!!」

「いやお前らもそうだったろ…?」



折角のチャンスもこの有様。間違いなくこのままではただ負けるだけだろう。……仕方ない、策を変えるとしよう。本来無かった、この場の状況を見て考え付いただけの破れかぶれのものだが。



「なら―――この方法はどうだ?」

「えっ! ……まあ、その方が」

「確実か。俺は乗ろう!」

「タイミングは任せたぞ!」

「いつでもいいよ!」

「誰がやられても恨みっこなしだかんね!」



これもまた、全員が参加を示した。ならば――。



「かかれッ!」

「「「「「うおおぉおおっ!」」」」」



「ふふっ♪ あなた方が飽きるまで、幾らでもお相手して差し上げ――あ、あらら? まあ!?」



総掛かりでガブリエラに突撃する……ように見せかけ、それぞれが別方向へ急旋回で回避! そして狙うはガブリエラの背後。そう…隠れていた、そして今やガブリエラの戦いぶりに油断し応援までしているエンジェル達だ!



なにせこの神殿内には流れる雲は入ってこず、エンジェル達にもバッグを背負っている奴はいない。つまり、本来の戦法通りに動ける! これを利用しない手はない!



無論ガブリエラが即座に動き、誰かしらは止められるだろう。だがそれでも、儲けこそかなり少なくなるものの、あの生え戻ったばかりのエンジェルの羽根を手にして逃げることが――ッ!?



「「「「「ぐへっ!!?」」」」」


「「なっ…! ミミッ……!?」」



私と仲間の魔法使いは急ブレーキをかけ間一髪…! ミミックだ…ミミックがいるっ!! 流れる雲も、あの変なバッグもないというのに、ミミックが現れ、あいつらを捕えた!!



だが……おい、その隠れ場所はおかしいだろう!!? 神殿の隙間に潜んでいた訳じゃあない! 物陰に宝箱やらが置かれていた訳でもない! そんなところに……いやいやいや!




使からって、どういうことなんだ!?!?」





あんなの驚いて然るべきだろう!!! エンジェルの頭の輪から、ミミックの触手やらが飛び出してきたんだから! それでも、それでも保護カバーのかかっている奴らからだけならばわかったさ…!



だがからも現れたんだぞ!? あの両側に穴の開いている、隠れ場所なんてない細輪から! 一体全体、どういうことなんだ!?!?



「最初から居りましたよ。ただあなた方が視認できないよう、立ち位置を変え続けてくださっていたのです。ふふっ、あの子のように凄腕の子達ばかりで♪」



しまっ…!? ガブリエラが背後にっうわっ!? 投げられて……ぐっ…! そんなミミックの潜み方があってたまるか――!



「「「「「うあっ……!」」」」」



っ!? ミミックに捕らわれていた連中も投げられ、同じ場へ戻されてきた…! そこへ、頬を膨らませ怒るガブリエラが立ちはだかり……!



「約束を反故にするとは、なんて悪い子達なのでしょう! ならば容赦は致しません、震え上がらせて差し上げます!」



ガブリエラの合図とともに、何処からともなく雲が……主にカバー付きのエンジェルの輪から、ミミックから大量に雲が! それがこちらの四方を囲むように分かれて集まり、形を……ッ!!?



「「「「「ひいっ!?」」」」」



!? な、なんだあれは……!!? その雲の塊が人の姿に…だが、おのおのが四つの顔を持ち、またそのおのおのに四つの翼があり、足は真っ直ぐで、足裏は子牛の足裏のようで、磨いた青銅のように光っている…!



その四つの顔は前方が人の顔、右方が獅子の顔、左方が牛の顔、後方が鷲の顔で……翼は高く伸ばされ、二つは互に連なり二つは身体部分を覆い、その隙間から見える下には人の手が…!



それでいてその翼は行く時は回らずに、おのおのの顔の向かうところにまっすぐに進んで……くっ! 説明が難しい! 全く伝わる気がしないんだが! なんなんだあの、恐ろしい何かは!?



って、待て……それだけじゃないのか!? その謎の四体の何かの傍や、私達の頭上といった逃げ道を塞ぐように、別の何かが……! あれは……うっ…!?



同じ形をした大きい輪が四つ、輪の中に輪があるような組み合わさり方をしていて……! それぞれが動き……! その四つの輪には輪縁へりがあり、その輪縁の周囲は目をもって満たされている……!



いやそれはもうびっしり隙間なくだ…! 四つの輪の外周周全てに、タコやイカのうねる吸盤以上の、虫が大量に湧いて並び張り付いているみたいな形で、瞬きをする目が、ぎっちぎちに……! その全部で私達の方をぎょろりと見て――!



「では皆さん♪ その方々を怖じ惑わせ、恐怖の念に襲わせてくださいな♪」



「来っ…!」

「逃っ…!」



「「「「「うわああああああッッ!!!!」」」」」













「――はぁ…はぁ……。ここは…何処なんだ……? まさかこの光景……死に際の……」


「大丈夫だとも。ここは変わらず天界ダンジョン内。どうやら逃げおおせられたようだ」



仲間の魔法使いに鎮められ、ようやく状況を理解できた。あぁそうだ…神殿から死に物狂いで脱出、記憶が一瞬飛ぶほど逃げ、なんとかここまで来れたのだったな。



あぁ、思い出してきた。あの雲の恐ろしい化物の他に、謎の正八面体の浮遊物まで追加で追って来たんだ。なんだったんだあれは。雲製なのだろうが……。



どんな攻撃をしかけても八角形のバリアが展開して全て弾くし、逆に向こうは光線を放ってくるし。その光線を放つとき、色々幾何学的に形が変化していたし……。



おかげで残されたのは私と仲間の魔法使いのみ。残っていたあの数人は、揃って雲の化物連中にやられて……くそっやってくれる…!



…………しかしだ。今だからこそできることだが、落ち着いて考えてみれば……もしかしてあの奇怪な生き物もどきは――。



「今度こそ撤退すべきだ。私の魔力残量も心許ない、これ以上長居は出来ないだろう」



考えていると、魔法使いがまたその提案を。だが、また聞かなかったことにするしかない。このままおめおめと帰れる訳がないんだ。



とはいえエンジェルを狙うのは難しく、イチかバチかのガブリエラ相手も失敗した。残された手は、ダンジョンにある素材やらを採取していくことぐらいで――ん?



「そういえばここは何だ? いや天界ダンジョンなのはわかっているが……なんだか随分と形が整っていないか?」



改めて周囲を確認してみると、ここにあるのは不定形の雲じゃない。どれもこれも何かを象ってあるようで……それこそ、木々や石畳、花壇やアーチや噴水と一目でわかるぐらいの……。



「庭園か、ここは?」



そういえば聞いたことがある。『存在し得ない空中庭園』の与太話を。まさか、ここがそうなのか? 本当にあったのか!?



いや、その詳細は今は良い。それよりも……この庭園にある雲像の質だ! 道中にある、子供の作ったかのような雲像とは訳が違う。ここのは精巧極まりない!



見ろ、この煉瓦は一つ一つがざらざらまで再現されているし、向こうの木は一枚ごとの葉の脈まで彫り込まれている。あのガーゴイルなんて、大理石製のと遜色ない。いや、それ以上かもしれない。



どれもこれも、色が白ばかりだということ、そして触れた感触でようやく雲だと気づけるレベルの代物だ。ここが伝説の空中庭園だと頷けるほどには凝っているじゃないか。



……このクオリティであれば、好事家にとんでもなく高値で売れることだろう。エンジェルが作った、雲製の、庭園造物。ガブリエラの羽根には遠く及ばないだろうが、少なくとも苦労してエンジェルの羽根を毟るよりかは…!



更に庭園を象っているだけあって、花壇には光の花、噴水には晴雨の泉水、彩りに虹の欠片……! 高値のつく素材ばかりだ! まさかここにきて天国を見つけられるとは! 



しかもまだ、搬送魔法を扱える魔法使いがいる! 目で合図してみると、まだそれぐらいの余裕はあるようだ。ハハッ、天は私達に味方してくれたようだ!



さあ善は急げだ、エンジェル達に見つかる前に出来る限り採取して――――ん?




空が……急に暗く……? 雲でも……待て、ここは空の上だぞ!? 更に上に雲はかかれど、ここまで暗くなることはなかった! まるでこんな夜のように、いいや、何かが頭上を覆い隠すようには……!



「どうやら運命の時が迫っているようだ」



魔法使いの半ば諦めた声に、私もそいつの向いている方向、頭上に目をやる。そこには――なっ……。



「矮小なる人の子よ。懲りずに盗みを働こうとするとはのぅ」



「巨……竜……っ!?」






私達を……この庭園を陰らせ覗き見てくるのは……入道雲が眼前に現れたかと見紛うほどに超巨大な、一匹の竜! このサイズ、この浮遊庭園と同じく伝説の、千尋巨竜群の…!? いやあれは、何か超次元的な存在に鎮圧されたという……!



つまり滅された訳ではないのだから、ここに居たとしても……それかここにいるということは、もしやその戦いで死……いやここはただのダンジョン、ということはここの防衛をガブリエラ辺りから頼まれていたのか…!? 



ここは時折大型魔物も訪れる、ならばあんな雲肌の竜が棲み処としてもおかしくは――――ん?



雲肌の……雲製の……。それに、今聞こえた巨竜の声、聞き覚えのある声……。――ッ! 私としたことが! 目先の恐ろしさに負けてまた騙されるところだったか!



「さて、終いじゃ♪ ひとつぱっくりと食べてや……ほう?」



巨大な顔を近づけてくる巨竜に、私は怯むことなく剣を向ける。なにせ、もう種はわかったんだからな!



「さっき以来だな、上位ミミック!」






「なんじゃ、即バレか! む~、もっとビビッてくれないと良いんでないか?」



牙をちらつかせ、今にも私達を食わんとしていた巨竜の様子は一変。おどけた調子に。わかっていたが、これで確定したな。この巨竜の正体は、さっきまで私達を煽っていた、だ。



それがなんでこんな巨竜姿に? 魔法を使えると豪語していたのだから、それで変身を? いいや、そうじゃないだろう。まあ変身能力といえば変身能力だろうが、な。



「つい今しがたガブリエラの元で、恐ろしい姿に変じたお前の仲間を見た。そこから推測しただけのことだ」



「ははぁ、そういうことかの! うーむ、順番間違えたかのう?」



巨大な首をくねんくねんさせる巨竜ミミック。ふん、冷静にヒントを辿れば単純な事だった。こいつらがやっていたことを思い出してくれ。



最初、私達を殲滅しに来た時の事だ。ミミックの連中は雲を活用していた。雲の中に隠れ、自在に動かしていた。そして更には、自ら仕舞い込んでいたと思しき雲を吐き、それを操っていたんだ。



そして次、ガブリエラの元での事。彼女の合図で集まってきた雲は、その全てがミミックが潜んでいた場所から出て来ていた。そしてガブリエラの手により捏ねられ、その雲は生き物のように……。



もうわかっただろう。あの奇怪な生物も、この目の前の巨竜も、中にミミックが入っているだけのことだったのだと! あいつらは成型された雲像を操っているだけに過ぎないんだ!



そうとわかれば恐怖なぞ雲散霧消。今まで嘲笑ってくれた仕返しに、その無駄に立派な巨竜姿を散らしてやる!



「んむ? ほっほう、かかってくるか! そっちの魔法使いの提案に従っていればいいものをな♪」



巨竜ミミックの噛みつきを躱し、私達は空へと飛び上がる。どうせ噛まれたところでダメージはないだろうがな。さて、何処から切り崩してやろう。ここはやはり逆鱗からか! はぁっ!



「おおぅっ! 的確に弱点を狙ってくるとはやるのぅ。ま、弱点どころか痛くも痒くもないんじゃが☆」



燕の如き速度で逆鱗の位置を切りつけてやったが、巨竜ミミックはどこ吹く風。くっ…それはそうか。あれは雲、ミミックはその雲を操っているだけに過ぎないのだから。



だが、今のに対処しきれないのはわかった。ならば端の方から切り崩していってやろう! 逆に、逆鱗しか残らなくなるぐらいにな! まずは――おおっと!?



「尻尾あたっくーっての♪」



案外動かせるか! 巨竜の尾が勢いよくこちらへ曲がり、私達を打ってきた! 回避が遅れ少々掠ってしまったが、ふふ…やはりな。ダメージは皆無だ。それどころか寧ろ気持ち良かったぐらいだ。



なにせ頭から尾まで雲製の巨竜、向こうにもダメージは簡単に与えられないが、こっちにもダメージはないということなのだろう。これは良い、気にせず突っ込める!



「やるぞ!」

「そうするしかないか」



「むぅう……ちょこまかちょこまかとぉ。あまり壊されると面目が立たんと言うのに…!」



背、前脚、翼、爪先、逆鱗、胸部、尾先、角先――。二人がかりで動き回りながら削っていってやると、巨竜ミミックは翻弄されてくれる! ははっそうだ、これがやりたかったんだ。お前達ミミックに邪魔された分、ここで披露させて貰おう。




しかしなぁ、ミミックめ、これならばさっきの空翔ける宝箱状態の方が強かったんじゃないか? まさしくさっき当人が言っていた通りだろう。順番を間違えたという訳だ。最初に持ち出してくるべきだったな。最も、今更だが!



「あぁもうブンブンと羽虫のように! これ以上好きにさせる訳にもいかん、そろそろこの姿が脅しではないこと、教えてやろうかの!」



「嫌な予感がする。そろそろ庭園の中に隠れて採取を……」


「いや、続行だ。いくぞ!」



怖気る魔法使いの話を却下し、再度攻撃の合図を。ずっと煽ってきたミミックに復讐できる好機を逃すわけにはいかないだろう! 今度はその翼を斬り落として――!



「ほれっ☆」


「うっっっおとぁっ!?!?」



「う~む、惜しい! ちょいと早かったのぅ。ほれほれほれっ!」



っと、っと、っとぁっ!? な、なんだあれは!?!?!? しょ、触手が……雲巨竜の翼から、翼の表面から、うにょうにょとぞ!!?!!? 



いや翼からだけじゃあない!? 逃げる私を追うように、翼の根元、胴体、脚、尾からも!? 続々と引っ込んでは出て来て、また引っ込んでは伸びてきている!! 白く柔らかい、雲製竜の鱗から……って!



いや気持ち悪すぎだろう!!! さっきガブリエラが作り出した恐ろしい雲像とは違う意味で怖ろしいんだが!? なんてことをしているんだあのミミックは!



ああそうだ、ミミックが触手を伸ばしているのか…! 原理はさっきまでの雲の中からの奇襲と一緒、巨竜の中を進み私を追って来たんだな。くっ、面倒な……!



しかしあれは、エンジェルなり他のミミックなり別動隊がいたから効いた技だろう。この状況ならばその技を活かせるのはこちら側だ! やってくれ!



「あぁ。行こう」



「今度はこっちかの。ほれほぅれ!」



私と交代するように、魔法使いが竜の頭付近で接近戦を仕掛ける! 無論、触手に絡めとられない距離でだが。あれは囮、別動隊だ。本命は私だ!



中に入っているミミックはあの一体だけで間違いないだろう。ならばこちらから奇襲をかけてやる。魔法使いに集中させている間に私は巨竜ミミックの視界から外れ、尾の方へと回り込み……今だ!



「斬り落として――」



「甘いわ☆」



「どぅわっ!?」



こ、こっちからも触手が!? 馬鹿な!? 魔法使いはまだ攪乱をしている、あいつの所からも触手が出ている! なのに、ここからも!? 竜の頭からここまでは相当な距離があるというのに、同時にだと!!?



「ふっふっふ~ミミックを舐めてはいかんなぁ~♪ こんなことも出来るんじゃからの☆」



ってうわっ!? 私の傍に、竜尾の付近に竜の首が生えてきた!?!? 今魔法使いを追い続けている竜の首と同じ大きさの、それでいて……んん…?



「なんだかクオリティが低くないか?」



「んなっ!? そこはツッコみ禁止じゃぞ! そりゃエンジェル達で時間かけて作った首と、ワシが即席で作った首なんて出来が違って当然じゃろうが! このっ……飲み下してやるわい!」



うおっと!? マズい、逆鱗に触れてしまったようだ! そのクオリティの低い首を伸ばし、私を呑み込もうと追ってくる!



「逃すかぁ!」



うわっ、もう一本生えてきたぞ!? もっとクオリティ下がって、もはや幼児の粘土細工レベ……待て待て待て! 明らかに曲がっちゃいけない首の向きで追いかけて来るな!! あっちの首なんてバネみたいなねじれ方しているじゃないか!



くっ、あの首に噛まれてもダメージはないだろうが、中にミミックが潜んでいるんだから危険なのに変わりはない! このままではどうしようもない、なんとかして首の動きを――そうだ!



「そのままこっちに来てくれ! それで――!」


「やってみるとしよう」



魔法使いに指示を出すと、理解してくれたようで私の方へと! そいつを追いかけ、本物の、高クオリティの竜首も! よし、このまま――!



「ほら、どうした! 私はここだ! おっと良いのか、向こうが御留守だぞ!」


「そんな追い方で大丈夫か? 上手く使いこなせよ? やあ、こちらだ」



二人で翻弄を! ただし、今いるところから大きくは動かず、竜の首を上手く手玉に取ってだ! こうすれば……よし……よぅし!



「んむっ!? やってしもうた!」



ハハハッ! ミミックめ、怒りで我を忘れ過ぎだ! 見てみるといい、あのぐちゃぐちゃに絡まり合って団子みたいになった三本の竜首を! もうどうしようもないだろう!



しかしこう見ると、本当ミミック製の竜首のクオリティ酷いな。道理でさっき、雲の揺り籠を時間かけて捏ねていた訳で――。



「フンッ!」



「あっ」

「あっ……」



「これが雲の良い所よ。いくらでも千切れて崩せて、新しく足せば元通り。自由に形を変えられる『箱』ってのう! 全くもう!」



あ、あいつ……! 絡まった竜首を、自分で作った竜首を千切り捨てたぞ……! バラバラになったものが風に乗って流れて……!



そして私達が必死こいて削った場所も、内側から補充された雲で埋められてゆく。ただ埋めただけだが……。つっ、動けるようになった竜首でこちらをギロリと睨んで……!



「もう容赦はせぬからの! これでも食らうがいい!」



はっ!? 竜の口を開いて……おい待てまさかドラゴンブレスッ!?



「んばあーーーっっ!!!」



うわぷっ!? いや雲じゃないか! 炎でも冷気でも光線でもない、ただ視界を埋める雲のブレ……。



「ふふん、油断したのぅ☆ 捕らえたぞ♪」 



しまっ!!? 身体に、触手が!! まさかミミック、雲ブレスを伝って、私達のところに来て――!



「揃って寝とけぃ♪」



「あぁ、やっぱり駄目だったよ……」


「がふっ……」










「――――ハッ!?」



「んお? おぉ、起きたかの♪」



目を覚ますと、あの上位ミミックが顔を覗き込んできている…! ここは雲の上みたいだが……私達はこいつにやられたはずじゃ……?



「安心せい、まだ死んでおらぬ。まあもう秒読みじゃが☆」



困惑していると、上位ミミックがちょいちょいと私の手足を指さして……なっ!? エンジェル達が掴んで持ち上げている!? 何をする気なんだ、急ぎ振りほどいて逃げ……身体が動かない!?



「暴れられても困るしの、弱めのミミック毒でちょいと麻痺をな☆ あぁ、浮遊魔法も消失済みじゃからな?」



ということは、今浮いているのはエンジェルが持ち上げているからか…!? 魔法使いは!? 魔法使いはどうなって……いた!



いた、が……気を失ったまま、私と同じようにエンジェルに手足を掴まれ、空中へ引っ張り上げられている……! 何を……ああああぁっ!?



「くっふっふ~☆ エンジェル悪戯名物、昇天雲トランポリン(ただしトランポリン無しver.)じゃ! さて、次はお前さんの番じゃぞ~?」



魔法使いが、雲を突き抜け落下していく……! くっ……私が話を聞かなかったからか。最初からいう事を聞いていれば……!



それとも、一番良い装備を頼まなかったからか。もしミミックがいるとわかっていれば違う装備を……いや、それだと浮遊が上手く……あぁっ、くそっ! エンジェル達が私を引っ張り上げて……!



「覚えとくんだ…! 絶対にリベンジに来てやるぞ…!」



「コンテニューはいつでも受け付けておるぞ♪ 良~い遊び相手になるからのぅ!」



私の苦し紛れの恨み節を、ミミックはカラカラ笑いながらいなす…! 遊び相手扱いって……このっ

…!



「ともあれ、今日は真っ逆さまに堕天するが良い☆ 3、2、1、どーんっ♪」



「うわあああああああああああっっ!!!!?」



「じゃあの~う♪」



私も雲を貫き、瞬く間に落下していくぅ! くそっ…くそおっ! 何も手に入れられずに、復活魔法陣送りかぁ! 高い金を払ったのに、パーティー全員分の復活代金もかかるのにぃ!



どんどん遠ざかる雲の奥では、私を落としたエンジェル達が、楽しそうに何処かへ飛んで行く! 羽を羽ばたかせて……! 金の元が、金が飛んで行く!



あぁ、ミミックも! 宝箱が羽を広げて離れていく! 宝箱が…一獲千金が、私から離れていくううぅぅぅ…………――!






――――――――――――――――――――




――かの冒険者が手でくうを切り、そらを落とされていった同時刻。天界ダンジョンのとある一角にて、未だ生き残っていた冒険者がいた。



「あれ…? 何か悲鳴が聞こえた気が…? 気のせいかな…?」



風の悪戯か、あるいは本当に運んできたのか。ほんの微かに耳に入った音に首を傾げる一人の冒険者。と、それを仲間が叱責した。



「ちょっと!? 集中してよ!」


「よそ見してちゃ勝てないって!」


「全員で力合わせないと!」



そんな非難をそばだてていた耳に受け、その冒険者は慌てて正面を向き、得物を構え直す。そして現状を再確認するようにごくりと息を呑んだ。



「けど……こんなの有りなの…!?」


「ホント…! エンジェルと――つぅっ!」

 

「おわっ危なっ!? よく捌いた!」


「くぅっ……! 強い……!」



どうやら闘っているのだろう。間一髪の連続を凌ぎながら、冒険者パーティーは目の前のエンジェル達へ唇を噛む。そしてどうやら、体力の限界も迫っているようだ。



「はぁっ…! なんとか……! けど、このままじゃ…!」


「てかだからあのバッグ、ズルでしょ! いやこっちも人の事言えないけどさ!」


「それどころじゃないって! ほらまた来た!」


「そろそろ決めないとマズイかも……!」



苦戦を顔に滲ませながら、抵抗を見せる冒険者パーティー。それでも、持ち前の連携を活かし、身に付与した魔法を駆使し――。



「そっちいった!」


「届かなっ……!」


「任せて! そーーーりゃあっ!」


「おおっすごっ!? これなら!」



一人が放った重い一撃は、他のメンバーを驚嘆せしめる。放たれたそれは、エンジェル達の―――、手の届かぬ位置へと!



「「よし!」」


「「決まれっ!」」



冒険者パーティーは祈り、エンジェル達は慌てて飛び越えた一撃を追いかけ。そして、それは無情にもエンジェルの手をすり抜け雲へと落ち――いや。



「あぁっ!?」


「また!?」


「もう!」


「惜しかったのにぃ!」



次に起こった事態に、悔しがる冒険者パーティー。それもそのはず、打ち返したそれが、雲に突き刺さり埋まるはずのそれが……。



が、跳ね返って来たのだから。



エンジェルの背のバッグから出た、、ミミックの触手によって。







「――くうぅっ! 負けたぁ!」


「一点差だったのにぃ!」


「あーもう! いい勝負だった!」


「はあ、雲気持ちいい…!」



その後も闘い…もとい、試合は続き、ゲームセット。結果は僅差で冒険者パーティーの敗北。疲労困憊となった四人は揃ってボフンっと雲へと寝転び、大の字に。



「……そういや、どうする?」


「え? 何が?」


「……今日来た目的?」


「あっ……」



と、そこでようやく現状に気づいたらしい。なにせ既にやられた冒険者達と同じように、この四人もエンジェルから奪いにこのダンジョンへやってきたのだ。



ただし些細なミスから囮として他の冒険者達から追い出され、エンジェルの遊び相手として連れていかれ。目論見がバレないように従って付き合っている内に熱中し……今に至るのである。



「あの人、事を起こしてからやれ、って言ってたけど……」


「なんか戦う音とか聞こえた?」


「さあ…集中してたから……あふぁ……」


「まだ始まってないのかな……ふぁう……」



とうに争いは決着していることなぞ露知らず。心地よい疲労感と雲に包まれあくびをする四人。そのまま夢見心地のように話し合いを続けるが……。



「戦って勝てるかなぁ?」


「ね。何故かミミック一緒にいるし」


「というかもう……」


「戦いたくないね……」



奇妙なバッグに恐れをなしたか、疲労による戦意の低下か、あるいは共に遊んだエンジェルへの情か。恐らくはその全てなのだろう。リーダー格がボソリと提案を。



「……帰ろっか」


「「「さんせーい」」」


「でもその前に……もうちょっとゆっくり」


「「「超さんせーい」」」



エンジェルの加護を受け、至上の雲ベッドに身を任せ。吹き抜ける清らかな風を身に受け。更には。



「わ、見てあの雲。すんごいこんがらがってる」


「ホントだ蛇みたい。…竜の首っぽくも? な訳ないか」


「ちょっ!? なになになに……ぴゃっぶはぁっ!?」


「あははっ! やられてるやられてる! トランポリンみたい!」



流れゆく雲を指さし眺め、エンジェルの悪戯にしてやられ。楽園とはまさにこのこと。四人はそれを暫し享受し、その後にはたと思い至った。



「あ。でもこのまま帰るとお金が……」


「それもそっか。んー、なんか貰えないかな?」


「光花とか虹の欠片とか清雨水とかならワンチャン?」


「貰えないか聞いてみよっか」



大金を払ってここまで来たのだから、少しぐらいは補填をしたい。それは当然の願いであり、平和的に交渉をしようと決めた――その時だった。



「へっ!?」

「あっ……」

「いや……」

「その……」



共に遊んでいたエンジェル達が、そんな四人の顔を覗き込んできたのである。この状況で交渉をするのは気まずく、本来の目論見の罪悪感もあり言葉に詰まってしまう一同。しかし――。



「え、えっ? これくれるの?」


「これってさっきまで使ってたシャトル…」


「んっ!? このシャトルの羽根!」


「エンジェルの羽根じゃん!?」



エンジェルが笑顔で差し出してきたそれに、四人共驚愕を。なにせそれは今回の目的、エンジェルの背から毟り取ろうとしていた素材なのだから。



「「「「え、えっと……」」」」



突然のことに目を白黒させる四人、するとエンジェル達はきょとんと顔を見合わせ、触手ミミックと共にバッグを漁りだし――。



「えっ、えっ!? えぇっ!? ちょ、ちょ!?」


「こ、こんなに沢山!? どれだけ出てくるの!?」


「なんでこんなにシャトルを……このラケットも!?」


「くれるの!? 本当に!? ど、どういうこと!?」



エンジェルによってミミックによって、四人の手に次から次へと置かれるはエンジェルの羽根製シャトルや他色々。何が何だか困惑する一同の背に、今度は別の気配が。



「安心せい、遊んでくれたお礼ってやつじゃからのぅ♪」



「「「「へっ!? わぁっ!? 上位ミミック!?!?」」」」





突如現れた彼女に、跳ね上がるほど驚く四人。その様子をケラケラ笑い、上位ミミックは寛ぐように雲の上に落ち着く。宝箱の隙間に入り込むふわふわの雲をクッションにしつつ。



「くふっ☆ それも安心せい、お前さんらを取って食う気はないわ。他の連中と違ってな♪」



「……へっ!?」

「ほ、他の連中って…」

「もしかして……」

「あの……」



「んっふふ~? なんじゃ~? お仲間の末路が気になるのかの~?」



含み微笑みを浮かべる上位ミミックの顔で、四人は事を察したのだろう。少しの間揃って沈黙してしまう。それを打ち破ったのはやはり上位ミミックの…悪戯をするかのような声。



「心悪しきは罰せられ、心優しきは歓待される。そんな簡単なことなのに、のう? 何故皆できないのかの~う?」



「……え、えっと……」

「その……」

「わ、私達も……」

「実は……」



「安心せい、と言うたじゃろ♪ 元の考えはどうあれ、心優しくあるからこそワシらは手を出さなかったんじゃ。……とはいえ、もしさっき改心しなければ他と同じを辿らせたがの☆」



「「「「ヒッ…!?」」」」



「くっふっふ~! ま、悪戯はこの辺りにしておかんとな☆ じゃないと今度はワシが罰せられてしまう。なにせこちらの御方が出向くほどだからのぅ」



ふと、上位ミミックは妙な行動を。不意に身体を起こし、開いてある蓋の方へと。そして雲クッションを宝箱から掻きだすと……。



「「「「わっ眩し!?」」」」



宝箱の中から噴き出したのは、煌めく聖光。直後、その輝きと共にふわりと出てきたのは――。



「うふふっ。皆様初めまして、ですね」



「「「「が、ガブリエラ!?!?!?」」」」



そう、このダンジョンの主である大天使ガブリエラ。怯える四人に対し、彼女は深々とした一礼を。



「此度はこの子達の遊び相手を務めてくださり、心からの感謝を。心優しき皆様方に格別の敬意を」


「そ、そんな!」

「だって私達…!」

「畏れ多い…!」

「お礼なんて……!」


「ふふふっ♪」



慌てて返そうとする四人を、ガブリエラは優しく制する。そしてとある申し出を口にした。



「厚かましい願いとなりますが…もし宜しければ、今後もまた遊んでやってくださいませんでしょうか? 良い子である貴方様がたであれば、皆喜びましょう♪」



「えっ!? ぜ、是非!」

「わ、私達でよければ!」

「あっ、でも……」

「此処に来るのにはお金が……」



直ぐに承諾しようとするものの、前提条件に気づき躊躇いを見せる冒険者四人。するとガブリエラは微笑みと共に自らの背から羽根を一枚抜き取り、力を注ぎ四人へと。



「では、こちらを。このダンジョンの近くで祈りを籠めれば、エンジェルが迎えに赴きます。えぇ勿論、用いるか否かはお好きのままに♪」



「なっ…!?」

「だ、大天使…!」

「ガブリエラの…!」

「羽根…!?」



一枚でもあれば長く遊んで暮らせるそれを受け取り、震える四人。と、それに気づいてかは定かではないが、上位ミミックが思い出したように手を叩いた。



「あぁ、そうじゃ! さっき、ちょいと巨竜像を壊してしもうてな。折角だから直すの手伝ってくれんか? 冒険者なら竜の鱗に覚えがあるだろうしの☆」



「「「「は、はあ……」」」」



「そうと決まれば雲のマシンまた作るとするか! よいせっと…お、手伝ってくれるのか?」



傍の雲を千切り集めて捏ね、乗り物を作り始める上位ミミック。それを手伝うエンジェル達。にこにこと見守るガブリエラ。一方、冒険者四人はヒソヒソ話を。



「……一応聞くけど、これ、どうする?」

「ガブリエラの羽根って売れば……」

「あの魔法陣レンタル料より高いよね…?」



三人はリーダー格へそう問う。しかし、そのリーダー格は一つ深呼吸をして……。



「皆、もう内心は決まっているんでしょ?」


「「「…っ! うん!」」」



確固たる想いを胸に、揃って顔を見合わせる四人。そして、宣言を。



「勿論、売る訳ない! そんなことしたら裏切るも同然だもん! 大切にして、皆で遊びに来よう!」


「「「さんせーいっ!!!」」」



「くふふっ♪ ほれ、出来たぞ。乗り込むと良い♪」



「「「「はーいっ!」」」」



皆乗り込んだ雲製乗り物は、ミミックの操縦で空を翔ける。それが受ける風は、綺麗で涼しくてどこから柔らかくて、まるで、四人の心の内のようで――。



「――そういえば上位ミミックさん、ずっとこのダンジョンにいるんですか?」


「いんや? 比較的最近派遣されてのぅ。なんでじゃ?」


「えっとなんというか……」

「話し方的とか振舞いとか的に……」

「熟練な感じが……」


「んなっ!? 失敬な、ただこういう喋り方なだけじゃ! 社長よか大分若いわい! 肌ピチピチじゃろ!?」


「「「「そ、そういう意味じゃ!?」」」」


「なんで冒険者連中はそうワシの気にしとるところばかり…! もう怒った、落としてやるわ!」


「「「「ごめんなさいごめんなさい!!」」」」


「もう、喧嘩はダメですよ。ふふっ♪」




こうして、優しき時は雲のように緩やかに流れてゆく。天使に祝福されしこの一日は、冒険者四人にとっても忘れられない記憶となることだろう――。



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