閑話⑨

アストの奇妙な一日:偉大なりしや魔王様①



「ミミック族、『ミミン』。サキュバス族、『オルエ』。そして悪魔族、『アスト』。 これよりは魔王様の御前である。 この場で膝をつき、傅き給え」





「「「はっ!」」」





厳格なる兵の声に従い、私達は揃って敬服の姿勢をとる。それを取り巻く空気は、ピシリと張り詰め荘重なる風情。







……とうとう、この日がやってきてしまった。ここは『魔王城』。魔界に住む誰もが知る、荘重にして威風堂々たる魔王様の居城。



そう、本日は待ちに待った…魔王様との飲み会なのである。











…一応名目は飲み会なのだけど…。まさかまさかの正面拝謁。豪奢で広い謁見の間にて、床に顔を向けつつ魔王様の御成りを待っているのである。



まだ魔王様は姿をお見せにはなっておらず、奥が見通せない半透明なカーテンで仕切られた玉座の段には、人の影は見えない。でも…既にドキドキしてきた…。




てっきり、裏から通して貰えるものとばかり…。だって社長たち、いつもそうして貰っているって言ってたし…。



もしかしてこれ…飲み会ではなく、正式な会食だったの…? …いや、そんなはずは…。







…もし、そうだとするならば…。この状況は非常にマズい。



何故って…。私……いつも着ているスーツのままで来てしまったのだから…!










いや、この服がフォーマルな場でも通用するのは勿論知っている。それどころか、大体どんな場でもこれを着ていけば基本的に間違いはないってのも。



だからこそ、どんなダンジョンにもこのスーツで出向いているのだし。流石に海中とか専用の装束とかがある場所では、その場にあったものに合わせるけど。




例えば水着とか、ディアンドルとか、ダイビングスーツとか、バニースーツとか、海賊服とか、サンタ服とか、ビキニアーマーとか…



他にも…浴衣とか、振袖とか、モコモコ防寒具とか、エプロン姿とか、学園制服とか…。温泉入るために裸になったことも。あとは……。





…………あ、あれ…? 案外私…スーツ姿じゃなかったり…? え、嘘…?






これじゃあまるで、各所でコスプレを披露しているのと同じなのでは…? 会社での飲み会で時折発生する、ファッションショーコスプレ大会と同義なのでは…??




というか寧ろ…。そのおかげ(?)で色んな服を着るのに抵抗がなくなったのかも…。



それに社長の秘書になる前―、箱入り娘だった頃はやけに堅っ苦しいドレスか、悪魔族伝統の(何故か露出多めな)専用装束ぐらいしか着せてもらえなかったし。





…いや待って。 ということはつまり…。元より子供の時から『色んな服を着てみたい』という思いがあって、だから社長に促されるまま、色んな服をほいほいと着ている…?




そんなことは…。 …うん、大いにある気がする。 毎回楽しんで着てるし。 










―って、今はそんなのどうでもいい! 問題なのは、服のセレクトを間違えてしまったということ。




先に言った通り、確かにこのスーツはフォーマルな場でも充分通用する。もし着ている人が私ではなく普通の方だったのならば、それで何も問題ないであろう。




……けど、忘れないでいただきたい…。 私、これでも一応大公爵の娘なのである…。







普段の色んなダンジョンの方々相手ならばいざ知らず、長年一族が仕えている相手へ…というか今も私の両親が仕えている魔王様へ、スーツって…。何か駄目な気がする。




せめて会食用に仕立てたドレスか、悪魔族の伝統衣装かどちらかを纏って拝謁すべきだった。それが貴族のマナーというもの。



…というかそうしないと、もし一族の誰かにバレた際、怒涛のお叱り食らいそうで…。








…いや、わかっている。今日私は『大公爵アスタロト一族の娘』として来たのではなく、『ミミック派遣会社の社長秘書』として来たのだ。




先程の兵の号令を思い返して欲しいのだが、『悪魔族のアスト』としか呼ばれていない。あれがその事実を雄弁に示している。



もし私が公爵の娘として拝謁しに来たのならば、あんな呼ばれ方はされない。フルネームで…少なくとも『アスタロト』性を省略されることなんて、絶対にないのである。





なんでも社長が取り計らってくれ、あくまで『一介の社長秘書』として通してくれたらしい。そのご配慮は本当にありがたい。



だから、スーツで拝謁したとしてもなんら問題はないのである。……ないの…だけど…。






「…なあ…。あの悪魔族の…」


「アストって…名前だったよな…」



「…もしかして…アスタロト様の御息女では…?」


「いや、まさかぁ…」



「けど…角とか翼とか尾とか、かなり立派ですし…」


「というか、あの魔力のオーラ的に…間違いないんじゃ… いやでも…」





…謁見の間にいる兵の方々から、そんなヒソヒソ声が聞こえてくる…。 






一応、魔王城に勤めているうちの一族の関係者は、既に帰宅しているか休暇中らしい。その辺も社長たちが気を回してくれた様子。


まあそもそも飲み会なんで、仕事終わりな時間ではあるし。




だから、面が割れることはないかもと思ってたけど…。 まあ…バレるよね…。








普段ならバレたところで特に気にもしないのだが…。今回ばかりは、魔王様相手。勝手が違う、違い過ぎる。



そして近衛隊とはいえ、兵の皆さんに気づかれるのだ。魔王様が私の正体に気づかないわけがない。というか社長、普通に私の正体伝えてそう。




そんな状況でもし怒りを買ったら、どんな仕置きが待っているかわからない。私自身にも、一族郎党にも。




……どうしよう…今度は心臓バクバク鳴ってきた…!














…というかそもそも! この格好に…スーツにしろって言ってきたのは、何を隠そう社長なのである!




事は会社出立前に遡る。私が自室でドレスを着ようとしていたところに、社長は突然乱入をかけてきたのだ。




そして…びっくりしてあわあわする私の、途中まで纏っていた服を無理やり剥ぎ取り、こう言い放ったのである。




『ラフな服か、それが嫌ならいつものスーツにしなさい! 無礼講の飲み会なんだから!』




―って…。










…だから、それを従ってスーツを着てきたのだ。いくら無礼講とはいえ、流石にラフな格好で魔王様の御前に出る訳にもいかないから。




……だから、てっきり裏から通して貰えると思ったのである。社長、すっごい気軽に言ってきたから…。





もしかして…私服でokと言っておいて、実は正装しなきゃいけないっていう暗黙のマナーだったりするの…?



いや、けど…。結局社長はドレスや装束を着るの許してくれなかったし、本人たちの服装も中々…。












―へ? 社長の服装? あぁうん…。私にそんなことを言うぐらいだから、当人もそれぐらい簡単な格好なんじゃないかって?




ご安心を。…その通り。 いつも着ている、白のワンピースである。 




勿論、特に凝った意匠はない、少女が良く着ているタイプの軽やかなやつ。 少なくとも、その格好で魔王様に拝謁しては失礼な感じがする…―。





当然、私は引き止めた。流石にその服はマズいんじゃないかって。そしたら…『いつもこの格好で飲んでるわよーだ!』って笑われてしまった。



…まあ社長は、魔王様と旧知の仲。私が気にするのは差し出がましいこと…多分。




あと一応フォローするならば、入っている宝箱はいつもの立派な宝箱だから…うん…。…うーん…。












そしてもうひと方。社長と同じく魔王様との旧知の仲な、サキュバス族のオルエさん。以前訪問した『サキュバスの淫魔ダンジョン』の主。



彼女の服装は……えっと……その……。 ま、まあ…その…いつも通りで……。



……うん……。間違いなくR指定入りそうな…サキュバス服…です…。






至る所に穴が開いていて、なぜかてらてらと艶めいている。しかも明らかにサイズが小さく…ただでさえ豊満な色んなところが、ポロリと零れだしそう…。



…どこかって? 絶対に言いません。





そんな明らかに露出過多な…。というかほぼ紐…というか糸…。着ているというか貼り付けてるというレベルでは…? の衣装で敬服の姿勢をしているから、もう完全に見えてもおかしくないレベル。




更にオルエさん自身の濃密なフェロモンも相まって…鎧で身を固めた気高き兵達が、全員鼻の下を伸ばしてしまっているのだ。男女問わず。












……まあそんな二人は全く参考にならないので、置いといて、と…。 本当にどうしよう…。




やっぱり、今からでも魔法でドレスを作って、それを着るべきなのかな…? でも、社長たちが良いって言っているんだから…。



それに下手に凝ったものを着ると、社長たちを立てられないし…。…けど…魔王様にこんな格好…。公爵の娘とあろう者が…。 



どうすれば…! うぅうう……!











…と、そんな風に必死に悩んでいたら…。




「魔王様の、おなぁ~り~っ!!」




兵の、一際大きな宣言が…。 あぁ…もう間に合わない…。














覚悟を決め、不安に震える心臓を抑えつつ姿勢を整える。――と、その瞬間であった。




「――ッ…!?」




何かが…全身がゾっとするかのような、何かが…! 玉座の方面から、暴風の如く放たれた…!?




……いや…決して風ではない…! なんと言うべきだろうか…。…オーラ…。いや、波動というべき…。




そう…波動…! 凍てつくような波動が、突如として私達を襲ったのである…!!









すると直後、思わぬ出来事が。オルエさんに魅了されていた兵士達が、軒並み正気を取り戻し、慌てて敬礼のポーズをとりだしたのだ。



まるで先の波動で、魅了効果が打ち消されたかの如く…。 これが…魔王様の力の一端…!?





どのような方か、顔を少し動かして確認したい…! …けれども、恐ろしくて目すらまともに動かせない…! 



玉座の方へ、視線を向けられないのだ…! しかも…今しがた身を襲った感覚を思い出すだけで、全身に冷や汗が滲みだしてしまう…。





あの波動の一撃で…魔王様の恐ろしさがありありとわかってしまった…! なんという…!



…社長、魔王様のことを『恥ずかしがり屋』って称してたけど…! 絶対嘘でしょ…!!












『三名共、面を上げよ』




直後、謁見の間の端から端までをビリビリと震わせる御声が。



気迫漲る男声と、威圧感極まる女声が合わさったかのようなそれは、私の汗を引っ込ませ、身を竦ませて余りあるほどの威厳を備えていた。




すっと顔を上げる社長とオルエさん。私も息を呑み、恐る恐る顔を上げ―。









「……っあ……」




…思わず、小さく声を上げてしまっていた…。 玉座の前にひかれた半透明のカーテン。そこに映し出されていた黒影は…紛れもなく…魔王様の御姿…!!





幾度も映像で目にした、荘厳にして畏怖を抱かせる恐るべき威容。椅子に腰かける大いなる全姿は、まさに巨躯と言うべき代物。




そしてその御頭みぐしには、魔王軍シンボル通りの巨大な悪魔角を携えておられ、まるでそれは壮麗なる王冠の如し。




纏っておられる御衣ぎょいは、燻る闇のように揺れ動き、魔王様の御身を宵闇のように包み隠している。だというのに、なお一層穎脱えいだつさを際立たせてもいる。




…しかも、カーテンに映し出されている影だというのに、周囲全てを睥睨するかのような烈なる視線すら感じさせる。



もし無作法を働けば、指の動き一つで消し炭にされそうな雰囲気すら醸し出しているのだ。



――この御姿を目にした者ならば、誰でも口を揃えるだろう。




【嗚呼、偉大なりしや魔王様】



と―。













『楽にせよ。 此度の来訪、大儀である』



「「「はっ…!」」」




再度響き渡る、おどろおどろしいまでの御声に、私達三人は頭を深々と下げる。 …すると、魔王様は私の名を口にされた。




『アストよ』


「っ!? は…はいっ!?」




声が裏返り気味になりながらも、なんとか返事を…。 ―と、魔王様は少し優しさを感じる声調となり…。




『グリモア様の件、そこなるミミンより聞いている。 魔王として、彼の友人の1人として、心より感謝しよう』



「…―!! も…勿体なきお言葉…!!」





まさかのお褒めの言葉に、平伏するかのように身を縮める。一方の魔王様は影を動かすことなく、私を宥めてくださった。





『そう畏まることはない。 誇るがよい。 さて、差し当たり何か褒美を―』



「い…いえ! 褒美などそんな…! グリモアお爺…グリモア様は、私にとっても大切な御方。 寧ろ、日頃の恩をようやく返すことができたのが嬉しいぐらいで…!」




貴族の言葉遣いなぞ、緊張でどっかに吹っ飛んでしまった。おたおたしながら言葉を紡いでいると、魔王様は嬉しそうに語調を上げられた。




『ふむ…! そなたは素晴らしく清き心の持ち主であるな。気に入ったぞ…!』



「は、ははぁ…! 身に余る光栄に存じます…!」




およそ私に向けられたとは思えない幸甚の御言葉の数々。私は再度膝をつき、敬服を。それを目にした魔王様は、微笑むように―。




『ふふふ…。 ところで聞くところによると…そなたはグリモア様から魔法を教わったとな。 我もでな。 つまりそなたは、我の妹弟子と言っても…』








「あーあー! 御歓談のところ悪いのですが!」




……魔王様を遮るように、突如口を挟んだ者が。それは…なんと社長であった。




「積もる話は、楽しいお酒の席でたぁっぷりと♡ ―で、如何でしょうか魔王様♡」



更に続いて、オルエさんまで。 俄かにざわつき出す近衛兵達。…だが、一方の魔王様は―。





『ふむ…。そのほうが良い、か…』



一切怒ることなく、頷いているご様子。そして、軽く手を動かした。




『皆、外せ。これより先は我らのみの宴席。何人たりとも干渉すること、罷り成らぬ』









その御言葉に、控えていた人々は総じて敬礼を行い、次々と謁見の間を後にしていく。残されたのは、魔王様と、社長、オルエさん、そして私のみ。





幾らご友人とはいえ…魔王様にそんな口の利き方は許されるのだろうか…? そう怯え気味の私だったが…。直後、あ然とするべきことが。





「ったく、私達言ったわよ? 下手にやり過ぎると、バレた時に寧ろ恥ずかしくなるって」


「ねー♡ んもう、恥ずかしがり屋なんだから♡ こういう時は、ぜぇんぶさらけ出さなきゃあ♡」





なんと、ぐいんと伸びをしつつ、更に砕けた口調となる社長たち。くらっと眩暈がする私だったが…魔王様はどこ吹く風。



『フン…。聞く耳持たんわ。 既に部屋に用意はさせている。早速宴を始めると―』



そう軽く流し、玉座から立ち上がろうとされた…その瞬間だった。








「はいストップ魔王様!」



『…なんだ?』



またも社長の物言い。怪訝そうな魔王様に対し、社長はふっふーとにやついた。




「アストにご褒美あげるって言ってたでしょ? なら、しっかりくださいな!」


「えっ! いや社長…! 私はいいですから…! いただけませ―むぐっ…!?」




慌てて止めようとするが…。社長はそんな私の口を触手で塞いできた。そして、まさかの煽るような一言を。




「仮にも魔王様とあろう御方が、『要らない』と言われて『そうかわかった』で済ませるわけないわよねぇ?」



「そうそう♡ ゴホウビっていうのはぁ…♡ いっぱいいぃっぱい、拒むポーズを無視しちゃって、ぱんぱんになるまで注いであげなきゃ♡ じゃないと、蕩けて忠誠を誓ってくれないわぁ♡」




お…オルエさんまで…。 魔王様の逆鱗に触れてもなんらおかしくはない2人の焚きつけに、私はもう戦々恐々とするしか…。 出来ることなら、気を失いたい…。




そして魔王様も、露骨に警戒した様子で―。



『……何が望みだ?』



―と。 それに対し、社長とオルエさんはにっこり顔を見合わせてから、魔王様へ答えた。




「「勿論…あなたの本当の姿!」」











『ッ! おのれ貴様らッ!』



社長達の宣戦布告を受け、憤った様子の魔王様。カーテン越しでもわかるほどに膨大な魔力を噴出させ―。



『不敬である!』



刹那、カーテンの前に多重のバリア魔法陣を形成。私がパッと見ただけでもわかるぐらいにそれは緻密にして堅牢。たとえ巨大竜であっても、易々とは砕けないだろう。




こんな瞬きする程度の時間で、これだけの魔法を…! 魔王様…凄い…!  私は口をあんぐりと開け、見惚れるばかり。




……だが。そんな開いた口が、さらにがくんと開いてしまう…いや寧ろ、泡を吹きそうなとんでも事態が、起きてしまった…!









「やれやれ…! あくまでその路線、貫く気ね!」


「な・ぁ・ら♡ いつも通り私達が、身も心もくぱぁ♡って、ご開帳させてあげちゃう♡」




ファランクスよりも厚く、城壁のように広がるそのバリア魔法を見ても、社長達は一切意に介していない様子。



それどころか、次の瞬間…!





「オルエ! 頼んだわよ!」



「はぁい、ミミン♡ せーのっ…イッちゃえ~♡」




社長の合図で、オルエさんは社長を持ち上げる。そして独特な掛け声で、その社長入り宝箱を…バリアに向け、ぶん投げた!?






「そりゃそりゃそりゃぁ!」


バリバリバリバリバリンッ!




更に空中で回転を加え、勢いを増す社長。あの鉄壁なバリア陣をまるで薄ガラスのように貫いていく……!





「とうちゃーくっ!」


ボスンッ!




そのまま、魔王様を覆うカーテンへとぶつかり停止。すると社長、そのまま端の方へすいいっと。



「こんなカーテン、剥がしちゃえ!」



そして自分を核にするように、カーテンをぐるぐる巻きとり始めたではないか…! さしもの魔王様も焦ったご様子で…。



『ま、待てミミン! 止めろ…! 許さんぞ…!』



立ち上がり、何かを詠唱しようとする。…しかし、それは…阻止されてしまった。





「あら♡ 許されないのはどっちかしらぁ♡ ありのままなあなたでアストちゃんを迎えるって約束、破ったのは♡」




妖艶な影が、魔王様の御影の傍に…!? いつの間にか、オルエさんがカーテンの裏…というか魔王様の真横に移動していたのだ…!




『オ…オルエ…! 貴様…!』



「んもう…。たのしーいお酒の席で、そんな厚ぼったい闇の衣は似合わないわよ♡ そーれ♡ 脱ぎ脱ぎしましょ♡」



『このっ…離せ…! 衣の袖を掴むな!』



「だぁめ♡ 良い子でちゅからね~♡ ついでに…ぱふ♡ぱふ♡」



『ひぃっん…♡ う、腕を胸で…しごくなァ…!! だからといって角を扱こうとするなァ!』










……私は何を見せられているのだろうか…。魔王様へ拝謁に来たら、気づけば影映り式のストリップショーに…。



何を言っているかわからないと思うけど…。そうとしか言いようがない…。 色んな意味で、頭がおかしくなりそう……。






――? …あれ? というか…オルエさん、大きくない? いや胸とかお尻とかじゃなく…。

 


影が、明らかに魔王様の同じ…いや、普通に超えている…。 ど、どういうこと…!? オルエさんが巨大化した…? それとも魔王様が小さく……?






「あとはここをぷちりと外しちゃえば…するするする~♡ んふ♡相変わらずすべすべお肌♡」



『ふやっ…! 貴様の撫で方はどうしていっつも官能的なのだ!? あっ止め…耳に息は…! やぁっ…♡」




しかも…魔王様の声が…明らかに変わってきた…。先程の気迫ある男声は完全に消滅し、威圧感のある女声も、全く違うものに…。



なんか…すっごく可愛い声になった…。オルエさんに喘がされているけども…。







「オルエ、もう良ーい?」



と、カーテンを捲るのを途中で止めていた社長が、巻き取ったカーテンの塊からひょっこり顔を出す。




「良いわよぉ♡ ヤッちゃって♡」



そして御衣が剥ぎ取られたせいなのか、明らかに小っちゃくなった魔王様を抱きつつ、そう返すオルエさん。




「じゃ、アスト! 魔王様と~念願のご対めーん!」




それを聞いた社長は、残ったカーテンを勢いよくガラガラガラと回収していく。



とうとうお目見えになった玉座。そこにいたのは……。











「……え……え…え……え…?」



私の頭の上には、今まで最多数の?マークが…。 



だって…巨躯の、恐ろしき魔王様…では全くない。 オルエさんに抱きしめられるように取り押さえられていたは―。




「お…女の子……」




そう。社長とおんなじぐらいの…可愛らしい少女が…。っっって…もしかして…も…しか…して…





「魔王様…で…あらせられますか…?」












…信じられない…けど…。角の形は、魔王様のものと一致している…。 



おずおずと私がそう問いかけると…その少女はオルエさんを振り払い、玉座の前で仁王立ちをした。




「如何にも…! 我はマオ・ルシフース・バアンゾウマ・ラスタボス・サタノイア85世! 現魔王で…あるぞ…! …一応…」




―が、次の瞬間、もじもじと更に小さくなり始めた魔王様。 そして、小さくぽつりと。




「あ…アストよ…」



「は、はいっ!?」



「我のこの姿…秘密にしてくれまいか…。そなたの一族は、皆黙ってくれておるのだし…」



「えっ あっ は、はい…」





思わず反射的に返事をしてしまった…。 いや、別に口外する気なぞないんだけども…。




あっ…。もしかして…私の両親も魔王様と顔を合わせたことがあるけど…。黙っておけって言われていたということ…!?








矢継ぎ早に出てくる衝撃の事実に、もはや私はほぼ放心状態。魔王様も両手の指をツンツンさせて、恥ずかしそうに俯いている。




ただ、カーテンだるまから脱出してきた社長と、魔王様から脱がした御衣を畳みだしたオルエさんの二人だけが、ニヤニヤと満面の笑みを浮かべていた―。




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