再会

 五稜郭公園すぐ近くのハイツ五稜郭だ。ありそうな名前にありそうな間取りで、家賃敷金礼金と全てありそうな感じだった。単身者用賃貸なら何でもよかった榎本は、特になんにも考えずに内見することにした。

それが確か一週間ほど前のこと。

「……なんであんたがここに」

 アパートの前に、なんともどこかで見たことがあるような――土方の顔をした男が立っていた。

 榎本は何も言えずに絶句した。大家から現地集合と連絡があり、指定された時間ぴったりに来た。それだけだった。

「えと、ひさしぶり?」

 ひさしぶりもなにも、今生では初めましてだ。だいたい土方の顔をしているだけで、人違いかもしれない。いや、さっきの向こうの反応を見るに、そんな事もないような気がするが。

「榎本さん、だよな?」

「土方くん、だよね?」

 そんな事は無く、本人だった。土方の顔をした土方は、コクリと頷いた。

「ここ、君んち? 俺内見しに来たんだけど」

「いや、俺もだ。大家にここ集合って言われた」

 二人は目を見合わせた。ダブルブッキング? というか、こんな間抜けな再会があるだろうか。もっとこう、駅のホームとか職場とか、それっぽいシチュエーションがあっただろうに。内見て。いや、会えないと思っていたから全然嬉しいんだけど。喜ぶテンションになれないというか。だいたいこんな事を、互いに頭の中で呟いた。

「何だあんたたち、もう着いたのか」

 突然、アパート一階右端の扉がギギッと開いた。築三十年は経っていそうな音だ。榎本と土方はそちらを見た。そうしてまた絶句した。

「元気そうだな」

「よう! おふたりさん変わっとらんなあ」

 出てきたのは、松平の顔をした男と、大鳥の顔をした男だった。

 仲良くあんぐり口を開けた二人に、大鳥っぽい小男がトコトコと駆け寄る。

「覚えてるやろ? 榎本さん、土方くん」

 松平っぽい大男も、ゆっくりとこちらへ歩み寄る。

「覚えていなかったら、ただの怖い質問だな」

 二人とも、二人で合っているようだ。

「えっと、もしかして大家って君たち?」

 榎本はこめかみに人差し指を当てて状況を整理する。ともすると感動的(?)な再会がこうもさらっと流れていくのがどうしても不可解だ。

「ちゃうちゃう、大家は松平くん。ワシはただの住人」

「大鳥さんも住んではいるんだな?」

 土方のほうもどうにか整理しようとしているらしい。整った眉間に大量のフォッサマグナを生み出している。

「俺のほうで、ダブルブッキングにさせてもらったんだ」

 松平の顔をした大家がポケットから鍵を取り出した。土方は「は?」と考えるのをやめてフォッサマグナを解放している。榎本の方はというと、松平の意図をなんとなく察して、どんな反応をすればいいか途方に暮れていた。

「カマさんと土方さんから同時に内見の申し込みが来たんだ。会わせない訳にはいかないだろ」

「あのよぉタロさん。その気持ちは嬉しいけど、ここ空き部屋一つだろ? どっちが住むんだよ」

 単身者用賃貸なら何でもよかった榎本は、割とここに住むつもりだった。また部屋を探すのはちょっと面倒くさい。じと、と大家の顔をした松平を見るが、どこにも風は吹かないよう。しれっとした顔で、松平は口を開いた。

「二人で住めばいいだろう」

「はぁ!?」

 横で土方が大層驚いている。単身者用賃貸だろとか、駐車場どうすんだよとか口々に松平に詰め寄っているけれど、榎本はなんとなく察していたし、「大家が言うからいっかなあ」とぼんやり考えていた。

 こうして榎本と土方は、一五〇年ぶりに再会して、突然同居することになったのだった。

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