195.勝利も敗戦も、分かち合うのがチームってもんだよ

 <試合結果>


 ムーンズ 001 021 210┃7

 スピリッツ 120 310 03×┃10


 スピリッツ:本間、佐藤、森崎、真野、平木、高良-森野

 ムーンズ:松本、石垣、木原、中居、高橋、青原-儀間、横田


(勝)平木1勝 (敗)中居1敗 (S)高良4S

(本)山城6号3ラン(=4回、松本)、高村3号ソロ(=5回、石垣)、赤村4号ラン(=7回、真野)


<寸評>

 乱打戦を制したスピリッツが連敗を3で止めた。初回に小野崎の犠牲フライで先制すると、その後も2本のホームランなどで加点。追いつかれた直後の8回には、鍵山、権田の連続タイムリーツーベースですぐさま勝ち越し。最後はここまで無失点の新守護神・高良が締めた。敗れたムーンズは、打線の奮闘に投手陣が応えられなかった。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※




「高橋、この後メシでも行かね? 中居と、あと青原さんも来るんだけど」


 試合後、支度を終えて宿舎に向かうバスに乗り込むと、割と前の方に座っていた儀間が高橋に声を掛けてきた。


「せっかくだから行こうぜ高橋。お前、まだ遠征先でどっか行ったことってほとんど無いっしょ?」

「行こうぜ、高橋」


「は、はあ……」


 すぐ後ろの席に座っていた青原と中居にも押されて、高橋は首を縦に振った。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ——どうしよ、気まずい……


 ベンチで儀間はああ言ってくれたけれど、今日の試合の戦犯であるということは明白である。ワンポイントリリーフとして登板して、そしてあっさり打たれて前のピッチャーが残したランナーを全員ホームに帰して、しかも得点圏にランナーを残してたった一つのアウトを取ることさえ出来ずにマウンドを降りた。おまけに勝ち越しのホームを踏んだランナーは前のピッチャーが残したランナーになるから、敗戦は高橋の前に投げた中居に記録される。こんなにチームに迷惑を掛けたというのに記録上それが残らないというのも何となく申し訳なく感じてしまう。


「どうした高橋? 食欲無いのか?」

「食わないと夏場に体重落ちて、息切れするぜ」

「ほれ、これなんか良い感じに焼けてっから食いな」


 焼き肉の網を一緒に囲む3人は、敗戦後ということもあっていつもよりテンションは低いけれど、いつもとあんまり変わらない雰囲気のままである。


「まあ打たれたの初めてだから気にすんなってのも難しいんだろうけど、引きずるんじゃねぇぞ? 相手もプロだし、打たれる時は打たれるもんなんだから」


 気付けば大盛りのご飯を平らげ、二杯目に手を付け始めた中居がさらっと高橋に向かって言う。


「は、はい……」


 ——こういう時、どうしたら……、謝った方が良いのか……?


 自分のせいで、中居には負けがついた。自分のせいで、チームを負かせた。自分のせいで……


「おい、何考えてやがんだ高橋」


 中居が、箸を止める。


「まさか『俺のせいで負けた』とか思ってるんじゃねぇだろうな?」


 その一言に、思わず高橋が背筋を伸ばす。


「馬鹿か、お前は。いつからお前は一人で野球やってるんだよ」

「あ、いや……」


 高橋は思わず言葉に詰まる。


「確かに、敗戦の責任の一部はそりゃ高橋にだってあるだろうよ。でも、1イニングを投げきれなかった俺に責任は無いのか? マスク被って大量失点だった儀間さんには? 青原さんも無失点合ったけどフォアボール2つ出して、流れを作れなかったし。先発で早々に降板した松本、タイムリーエラーやらかした尾木はどうなんだ?」

「そ、それは……」


 敗因を挙げれば、当然いくつも出てくる。負ける時と言うのはいくつもマイナスの要素が重なるもので、敗因を一つだけ挙げろと言われてもなかなか難しい。


「なあ、高橋。お前、勝ちって一人で掴みに行くもんだと思うか?」

「いや、それはチームで……」

「じゃあ負けは一人で背負うもんだと思うか?」

「……」


 返す言葉が無い。


「勝利は皆で掴むものだって言うんなら、敗戦だって皆で背負うものだろ。一人で野球やってる訳じゃねぇんだ、何でも一人で抱え込んでんじゃねぇよ」


 そう言い切ってから、中居はご飯と肉を頬張った。



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