第16話 学校の怪談ならぬ猥談 その2
第16話 学校の怪談ならぬ猥談 その2
アークこと大魔王アークラッセル・サタンである俺はセントアトレリア女学院の屋上に開いたポータルの前に佇む。
ポータルそのものは空間に空いた真っ黒な真円で直径は5メートルほどある。周囲の空気が流れ込んでいるらしくシューシューと音がしている。
おそらく女学院の女性を丸裸にした犯人はこの中に逃げ込んで行ったのだろう。犯人を追ってその中に飛び込むことは簡単なことだが俺の予感は不吉なシグナルをビンビン出している。
・・・きっとこれは罠に違いないな
元邪竜で俺の冒険者仲間、そして今は俺の秘書兼憑依した花菱ユリカの筆頭メイドでもあるメリダも俺がポータルに飛び込まないようにガッシリと俺を後ろから抱きしめている。やたら大きな胸が背中に当たっているが今はそれどころではない。
「罠ですよ。アーク。これは大魔女マーベラの仕業に違いありません。前にもこの手のポータルゲートに飛び込んで痛い目に遭ったの覚えているでしょ」
思い出した。メリダ達と冒険者をしているときに花街で俺はブローチを奪われてしまった。ひったくりだ。そのブローチはダンジョンの最深部で手に入れたアーティファクトで無限に聖水を生み出す物だった。その聖水でポーションを作ると効果が十倍にもなり金貨一千枚とも言われる貴重品だった。
奪った少女を追いかけて虚空に開いたポータルゲートに飛び込むがそこで意識を失ってしまった。気がつくと路地裏に丸裸で倒れておりブローチはおろか他のアーティファクトも全て奪われていた。
「あの時、一番悔しかったのは大魔女マーベラから騙し取った透明マントだな。堂々と覗きができた代物だったのに」
メリダに頭を叩かれた。
「今回はあなたの命そのものを奪う予定だったのかも。そして大魔女マーベラはいよいよこの世界に直接、干渉してくるつもりなのでしょう。ここは一旦、様子見です」
解っている。が、なんともいかんし難い。すると元ユリカが、
「今は女学院の生徒たちが心配です。今は戻って生徒たちを安心させてください。精神魔法でなんとかできないでしょうか」
集団精神魔法はベルこと大悪魔ベルフェゴールの得意分野だ。メリダには応急でかけてもらっているがあくまで対症療法だ。ここはベルフェゴールの力を使って今日の朝のことは全生徒の記憶から消去してもらった方が良いだろう。
俺はすぐにベルに連絡をとり対処することにした。補助にはメリダをつける。これでなんとかなるだろう。
「ありがとうございますアーク。さすがですね。でも今回の件は悪魔の所業としか思えませんね。あっ、ごめんなさい。アークって悪・・・」
途中で言い淀む元ユリカ。まあ俺が悪魔であることは十分自覚している。が、西洋史観に基づく邪悪な悪魔ではないことは元ユリカも十分承知しているはずだ。
まだポータルが完全に閉じてないため俺は屋上に残りしばらく監視することにした。おそらく今回の犯人は大魔女マーベラの手先であるサキュバスに違いない。
・・・エロいことにかけてはサキュバスの右に出るものはないからな
でもこれだけの大規模な催眠・精神誘導できるのはごく限られる。マーベラに近いサキュバス。
ふと身近にいたサキュバスを思い出した。ララだ。俺の元愛人にしてマーベラのスパイだったサキュバス。
まだポータルは閉じてはいない。完全に閉じるまでは油断はできない。まだ何かを仕掛けてくるかもしれない。いまだにポータルから漏れ出る魔力を感じる。
・・・えっ、この独特の魔力。いやマナか。これには覚えがあるぞ
魔力の根源たるマナは時としてそのマナを有する者の色や香りを纏うことがある。
なんだか懐かしくも思えるマナ。甘く切ない記憶が蘇る。やはり間違いはない。
「いるのだろうララ。おそらくまたマーベラに唆されたのだろう。悪いようにはしないので出てきておくれ。今はこんなか弱い少女になっているが、俺はアークだ。お前なら魔力照合でわかるだろう」
ポータルが一瞬光り抜けるような秋の青空に溶けていった。
そして消えたその下にはアトレリア女学院の制服に身を包んだ美少女が立っていた。金髪碧眼で背は俺と同じくらいか。かなり華奢な体つきだ。が、顔立ちはララに間違いない。
「ごめんなさいアーク。またマナコアをマーベラに取られてしまったの。せっかく取り返してもらったのに。本当にごめんなさい。でも私、これからどうしたら」
サキュバスであるララは大魔女マーベラに魔族である証の体内にある魔石、マナコアをまた取られてしまったのだ。またと言うのは実は俺が元の世界にいた時にもララはマーベラにマナコアを奪われていたのだ。マナコアを取られると魔法で遠隔操作で操られてしまう。以前はそのせいでスパイとして俺の身辺を探っていたというわけだ。前回は大魔王としてマーベラのいる魔女族の安寧を図ることを約束してマナコアを取り返した訳だが今回の一件を尋ねると、
「私の妹たちを人質に取られたの。それでノコノコとマーベラのところに行ったらまたマナコアを取られちゃったの。でも妹たちの人実は嘘で単に旅行に行っていただけ。あーーーん、私騙された。そんでとんでもない馬鹿よね。マーベラの嘘にすぐに引っかかってしまって。ごめんなさいあーく。あーーーん、泣くしかないの。あーーーーくぅーーーー」
ララは大涙を浮かべて俺に抱きついてきた。
「心配しなくて良いよ。ララ。マナコアの件は研究してなんとかできるようになったから」
俺はララをグッと抱きしめる。そして異世界にあるマナコアとの接続を魔力で断ち切る。実は断ち切ってしまうと魔力供給が切れララは死んでしまう。が、今は体を密着させることで俺の魔力をララに注ぎそれを防ぐ。そして注いでいる間に俺の魔力をマナの塊である魔石へと変えていく。三分も抱きしめていれば魔石は生命を維持するだけの大きさとなるだろう。あとはほっといても周囲のマナを吸収して大きくなる。
・・・あっ、ララの体。やっぱり華奢になってしまってる。以前はサキュバス独特のでかい胸と尻が主張していたはずなのにな。やはりこの学院に潜入するためにマーベラによって体をいじられたのか。それにしても地球のマナが薄すぎる。ちょっと多めにマナを補充しないとマズいな・・・
俺は意を決してララの唇に俺の唇を接続させる。口移しでマナを注げばもっと大量に注入できる。
・・・って、これは接吻では。元ユリカに許可を取らなくてはいけないのでは・・・
すると、元ユリカの囁きが、
「まあ、女の子同士なのでノーカンってことでいいかしら?」
中身が男の俺としてはちょっと複雑な気持ちとなる。しかも元の世界ではララとは唇だけではなく、あんな所やこんな所まで接吻していた。いや接吻どころか結合か。思い出しただけでも恥ずかしくなる。自分でも血流が上がり全身が真っ赤になっているのがわかる。
と、その時、
「キャーーーーーッ!」
女の子の叫び声。振り返ると屋上に上がる扉のところに複数の女生徒の姿が。手にはお弁当の袋らしきものを持っている。
どうやら時間感覚がおかしくなっていたらしい。もうお昼休みになっているみたいだ。しかも呑気にお弁当とか持っているところを見るとベルフェゴールの記憶消去の魔法はうまく行ったみたいだ。
それにしてもこの状況はちょっとまずいかな。
「あ、あの。ユリカ様ですよね。今見たことを誰にも言いませんから。その、ええっと大丈夫ですから」
「本当に大丈夫ですから」
「なんだかむしろご褒美みたいなものですから」
三人の女生徒が硬直して言い訳のようなものをしている。最後の発言は意味わからないが。
元ユリカがちょっと呆れたような声で、
「仕方ないわね。まあ、女子校ではよくあることなので気にしないわ」
でもここはなんとか誤魔化しておいたほうが良いだろう。そこで俺は脳内をネット接続、高速でネットサーフィン。そしてある回答を得る。そしてララをそっと引き離すと女生徒たちに向かって、
「ああ、ここは日本でしたね。実はララは私の従姉妹に当たるの。私たちの国では親しい家族にはハグしてキスは常識よ」
半分は口から出まかせである。ヨーロッパでも今や昔ほどハグやキスは一般的ではないが、アトレリア公国では未だに盛んであるとネットに情報があった。元ユリカに脳内で聞くと、まあそうらしい。うん、問題なしだ。
それを察してかララが耳元で囁く。
「ええっと、アーク、じゃなかったここではユリカよね。本当に久しぶり。そして私を解放してくれてありがとう。というよりあなたのマナのせいでどうやらあなたの眷属になったみたい。これからもよろしくね」
放課後。
結局、朝の出来事はなかったものとなっていた。いつも通りの学院長の長い演説でみんな居眠りをしたと錯覚しているみたいだ。
ララは大魔女マーベラの手先となりこの女学院に潜り込んでいたようだ。ベルフェゴールへの追加要請で更なる記憶操作をお願いする。サキュバスのララはこの女学院に交換留学生としてアトレリア公国から来たユリカの従姉妹ということにしてもらった。
元ユリカが、
「これでお昼休みの件も大丈夫ね。それよりララはこれからどうするの。元の魔界に帰すことはできないのかしら?」`
「残念ながら元々の自分のマナコアがある魔界に帰るとすでに体内で新たに作られたマナコアが共鳴し、ララはまたマーベラに操られることになる。今は帰すのは無理だ」
元ユリカは納得してくれた。それに今の華奢な体では魔界でサキュバスとしてはやっていけないだろう。私の眷属にもなったことも元ユリカに告げると、
「しばらくは花菱家で面倒を見るしかないわね。これでバンパイアのアリアに龍神メリダ。そしてサキュバスのララ。おまけに剛毅の婚約者の守銭奴の麻衣子も居候してるし。女だらけの世帯になってしまうわね。兄の剛毅がちょっと心配」
・・・守銭奴が魔族と同じ扱いになってるぞ元ユリカ。にしても俺も男なんだが。なんか完全に忘れ去られているな
屋敷では早速ララの部屋も用意され女だらけの世帯がスタートすることになった。
そして次の日。俺は元ユリカから大切な知らせを受ける。
「花菱の研究所から連絡があったわ。アークの精神を憑依させるための新たなクローンボディが完成したって。これであなたも完全な自由な身になれるわね。いえ、自由になれるのは私のほうか」
ようやく元ユリカにこの体を返すことができる。嬉しさと共にちょっと寂しさも感じるが、いよいよ大悪魔にして大魔王アークサタンの復活だ。
その日は近い。
後書き
久しぶりの更新です。Kindleでも執筆していてそれが大好評なもので・・・
こちらも頑張って更新しますね!
「ぼくが読モでツンデレな件」「二度目の転生はハーフエルフでした」もよろしくね!
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