第38話二人の少女
お待たせしました
何処から突っ込んで良いのか困り黙るソリト。
正面ではキョロキョロと左右に視線を何回も移すルティア。
その視線の先でソリト作のウルフの毛布を羽織らせた白と黒の髪に小さな翼を生やす少女がソリトの左隣に、金の装飾がなされた白と青のドレスを纏う金髪少女がソリトの右隣に座っている。
気まずいようでそうでない複雑な沈黙状態が発生している。
それをルティアが破って二人の少女の白黒の髪の少女に尋ねる。
「………えっとあなたは一体何処の子なのかな?」
「ドーラのあるじ様はあるじ様やよールティアお姉ちゃん」
「え?ドーラ…ちゃん…え、でも……」
驚き、困惑しながら、ルティアはドーラと名乗る少女から顔を竜車の方へ移す。
ソリトも視線だけを移して見ると、そこには間違いなくドーラが眠っていた。同姓同名なのか、嘘なのか。
どちらにせよ確かめる必要がある。
「ドーラ起きろ」
ソリトは竜車の側で寝ているドーラに命じた。直後、ドーラは目を開きゆっくりと首と体を少しだけ起こした。
「で?本当はお前は誰だ?」
「あるじ様、ドーラやよー」
「なら仮にお前をドーラとして、あっちのドーラは何だ?」
「あれもドーラやよ。けどドーラじゃないんやよー」
益々分からなくなってしまった。
これではドーラが二人いることになる。生まれた時の姿はまごうことなきドラゴンの姿をしていた。貰った卵も一つ。
意識が二つあるのだろうか?
そもそも、本当にドラゴンなのだろうか。知性のあるドラゴンは以前は存在したという記述があるが、二つの意識があるという物をソリトは聞いたことがない。
それにドラゴンのドーラがドーラではないという言葉に引っ掛かっている。
「じゃああっちのドーラはなんだ?」
「んーーー、起きたらドーラとドーラがいたんやよ。でも本当はあっちのドーラの身体の中がドーラの本当の身体で、今はあっちのドーラはドーラの中の心の奥であるじ様があるじ様って分からせてくれるのがいるんやよー」
それは本能の事を言っているのだろうか。
ソリトは話をまとめてみることにした。
ドラゴンのドーラは肉体であり、現在は本能だけがそこにいる状態で、少女の姿をしたドーラは意識。だが、毛布を羽織らせる事が出来たという事はこちらにも肉体があるだろう事からただの意識ではない。
また、何故人間の姿なのかは不明だが普段のドーラはこの少女だということだ。そして、本能が肉体の中にいるのが分かる事と、意識と肉体が離脱したという事を考えれば、意識と肉体はまだ繋がっている。
もしかするとドーラの本能が仲介しているのかもしれない。
あくまで推測に過ぎないし、言葉を信じるならの話だ。
「ならドーラ、身体に一度戻れ」
「ややよー!」
「仕方ない、命令だ戻れ」
「やー!」
ソリトの命令を拒むとドラゴンのドーラから魔物紋が赤黒く光輝いて使役の呪いがバチバチと発動する。
「ギュアァァ」
「いたい……いたいよあるじ様」
両方のドーラが痛みで苦しみ出す。だが、戻れるかどうかも確かめる必要がある。戻れない場合何か戻る方法を考えなくてはならないからだ。
「言うことを聞けば痛くなくなる」
「………いややよー」
「ソリトさん、無理強いは良くありません」
「戻れ、痛みがもっと増すぞ」
「や、やー!」
ルティアの言葉を無視して命令した次の瞬間、少女のドーラの体が薄く白く輝く。すると、魔物紋が沈黙し浮かんでいた紋様が消えていった。
「え?」
「は?命令だ、身体に戻れドーラ!」
「ややよー!」
今度は魔物紋が発動しなかった。
どうなっているのか、タグでアイコンを確認する。使役のアイコンは消えてはいなかった。次に行動の禁止項目を確認する。
すると、設定していた項目が全て解除されていた。再度設定を試みてみたものの、何度念じても設定できない。
「これじゃ話が違うだろ」
孵化して人間が育てれば魔物は言うことを聞くと魔物商は言っていた。だが今は命令を拒み、更に設定されていない状態。
これでは使役という形を取っただけだ。
「おい聖女どうなってる」
「私も何が起きたのか。あ、でもこれでドーラちゃんは苦しまないんですよね。良かったです」
「良くねぇよ」
「はは………ですよね。でもドーラちゃん何で拒むの?」
「だって……本当の姿だとあるじ様にしがみつけないやよ」
そんな事で命令を拒否され、項目を外され、設定が出来なくなったというのかと、ソリトは頭を手に乗せる。
「はぁ、そんなの後でも出来るだろ。だから少しだけ戻れ」
「わかったやよ」
フッと少女のドーラがソリトの隣から消え、羽織らせていた毛布がパサッとその場に落ちた。肉体の方に戻ったのだろう。
「あるじ様これで良いん?」
ドラゴンの姿でも喋られるらしい。これでドーラの言っていたことは真実という事が本当に証明されたわけだ。
それにしても、ドラゴンとは一体どういう存在なのだろうか。改めて考えてみると何故少女の姿なのだろう。年齢的には十歳前後其処らだ。ソリトの中で謎が深まる。
「ああ、戻って良いぞ」
ドーラは自身の肉体の目の前で再び少女の姿を現してソリトの腕にしがみついた。その体の周りに毛布をもう一度羽織らせる。
そこでふと、精神から肉体の方へ行くのならばその逆はあり得るのかソリトは疑問を抱き尋ねてみた。
「できるんやよ。見ててー」
「おい待て!その前にも…」
ビリ!ビリリリリリ!
毛布を外すようにいう前に変身し、羽織っていた毛布がビリビリに破れていった。
そして一瞬で、竜車の場にいた身体は消え、ドーラは白黒のドラゴンの姿になった。
そんな事よりソリトは「クソトカゲが!」と内心で叫ぶほどにショックを受けていた。
あの毛布は【裁縫師】を獲得する前に繕っていたもので、売り物ではないが愛着があり、野宿用に使っていたものだった。勿論、生地を購入してなのでタダではない。
「俺の、俺の毛布がァァァ」
「ソ、ソリトさん?」
「最初
「あのソリトさんが狼狽えるなんて」
「聖女は俺を何だと思ってるんだ!」
「あるじ様ごめんなさいやよー」
毛布を台無しにしてしまって少々落ち込んでいるソリトを見てドーラが謝る。
ぐるるるるる
この状況でドーラの腹の虫が鳴る。
「あるじ様お腹空いたー」
「お前なぁ……」
「成竜とは言ってもドーラちゃんまだ子どもなんですから仕方ないですよ…………それに、まだ毛布は原型を……」
ドーラの方を見ればまた少女の姿になって、何とか太もも辺りまで隠す程度のマントのような形でドーラの裸を守っている。
「難儀な課題だ」
「そうですね」
毛布の事は諦めるしかないと、ソリトはケリをつけた。
どちらにせよ幽体離脱状態になった際に服を着させるようなものが必要になる。
だが、今そんな方法をソリトは知らないし、無い。中央都市に着いてから探すのが妥当だろう。
「………それでソリトさん。いつの間にかドレスの子が隣にいますけど何処の子ですか?」
「あるじ様あるじ様、その子だーれー?ドーラ遊びたいやよー」
「遊ばない」
「えー何でなんよー!」
漸く口を開いたと思ったらドレスの金髪少女に断られ、ドーラは不満げに理由を聞く。
それにドレスの少女は淡々と応える。
「理由がない、遊ぶ気もない」
「ドーラは遊びたいやよー」
「飯は良いのかよ」
「ご飯もたべたいんやよー!」
「なら大人しくしていなさい」
「ややよー!」
「飯抜きにするぞ」
「やー!」
「ワガママ言うなトカゲ。マスターを困らせるな」
「トカゲじゃないやよー!ドーラはドーラやよー!」
「トカゲモドキ」
「うがあー!ドーラこの子きらいやよー!!」
煽りに乗せられ激情するドーラ。
身体は成竜でもやはり精神はまだまだ子どもだ。ソリトの言う事も悉く拒否する。やはり、どうにかして禁止項目を再設定出来るようにしなければならない。
「つか今更離脱って何故なんだよ!」
「ソリトさん深呼吸しましょう」
そして深呼吸で一度落ち着きを取り戻す。
「とりあえず適当に服を見繕うか」
「あ、下はともかく上の服はもう無いですよ」
「なんだと!?」
こんないつ全裸になっても可笑しくない少女に何も着させられないなど、暫く地獄ではないか。
親しげに全裸な少女を歩き回したていたら周囲から、いやそれこそ衛兵呼び出し捕獲ものだ。面倒事がソリトは目に浮かんだ。
「とりあえず下だけで、上は毛布羽織らせたままにしておくか」
ソリトは竜車にある子ども用の
「あるじ様なんか気持ち悪いやよー」
「我慢してくれ」
「ややよー」
「なら元の身体に戻れ」
「やだー!」
「反抗期ですかね?」
たった数日でそれはないだろう、とソリトも思いたいがあり得なくはないと思える。
「とりあえず飯にするか」
「わーい!ご飯やよー!」
「そうですね。食事しながら話を聞いても良いかな?」
「どっちでも良い」
「そ、そうですか」
無表情過ぎて、ルティアは困惑した表情を出す。
「じゃあ大人しく待っとけよ」
「分かったやよー!」
「あ、運ぶの手伝います」
必要物を取りに竜車に行こうと振り返り歩いている途中で自然と溜息が出た。
「お疲れですね」
「そう思うならあいつに下着をやれ」
「それは絶対嫌です!」
自棄気味に言ってみたソリトの言葉に、断固拒否するルティア。下着を破かれたり、公開されることになるのはやはり駄目らしい。
―――
どうも翔丸です。
ドーラどうでしたか?
子どもらしい幼さありましたかね?
可愛いかったですか?
良ければ感想ください。
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