第25話一時(ひととき)の宴

「さあ!会場は移っちまったが今日は大いに騒いで、明日の活力にするぞ!!」

「「「おお!」」」


 ソリト達が村に戻ってから暫くして、プルトの街の住民や冒険者達がぞろぞろとやって来て宴をすると言い出した。

 理由は単純に、今回の主役がいないと盛り上がらないという宴の当てのようなものだった。

 そして、その主役。つまり、ソリトが村に行ったという情報を何処からか聞いた街の者達が材料や器具を持ってやって来たのだ。


 村も被害にあっていてそれどころではないからという建前でソリトは断ったのだが、不幸なことに村長や村民達は大歓迎で、村の中央を会場にするため、魔物の簡単な処理をし、更にセッティングや宴料理の支度などを行い、陽が落ち、夜になった村中央で一人の冒険者が宴の開始を宣言した。


 ちなみに今回、負傷者はいたものの死傷はいなかったそうだ。

 それは【癒しの聖女】であるルティアの貢献あってのことだった。

 が、ソリトに興味はない。

 誰かが一番活躍したとか、手柄がどうとか、そんなものを棚に上げて自己主張するつもりもない。


 鬱憤晴らしに、スキルの獲得、ステータス強化。それだけで十分だった。

 しかし、付け加えるなら、この一件が魔王復活に関係しているか否かには、ソリトは少しだけ興味がある。


 魔物の知能は低い。目の前に獲物がいれば本能的に狩ろうとやってくる。

 しかし、村に向かった群れには指向性があったように感じたのだ。偶然、はぐれものになった感じではなく、村がその方角にあることを知っているように多くの魔物が村を襲いに行った。


 それが魔王復活による影響かは不明。

 復活には長い時間を要するらしいが、それがどれだけの時間かは当代の魔王によって異なるという。


 そして、それを報せる最初の兆しが勇者スキル。

 もし、これが次の兆しとも呼べるものなら、今後も起こり得るものであり、復活が迫る度に強くもなっていくだろう。

 そして、次の場所さえ分かれば早くたどり着き対処できるだろう。

 ソリトの場合はステータス強化に繋がるからに過ぎないが。とソリトは色々と推測しながら隅の方で適当に飲み物を飲む。


「食べないんですか?」


 ルティアがソリトの目の前に現れ、顔は見える辺りまで山盛りで乗せられるだけのせた皿を持って言うと、料理を手に取りもぐもぐと食べ始めた。

 それを見て流石にソリトも動揺した表情を浮かべざるを得ない。


「お前……これを、全部食うのか?」

「ふぁい!………こんなに沢山の料理、普段は食べられませんから!」


 聖女とはいえ、節約でもしているのか。と思えば、普通に宿飯を食べていたことをソリトはこの時思い出した。

 ゆえに、食べられるときに良いものを食べようとしているのだろう。


「太るな」

「うぐっ……でも、取ってしまいましたし」

「最初に考えて量を取れよ」

「うー………」


 半ば呆れ気味にソリトが言うと、ルティアは困った顔で悩み出す。


「食べれるなら食べれば良いだろ」

「………そうです!ソリトさんも食べてください」

「は?」

「何も食べてないですよね。あれだけの戦闘をしたんです。しっかり食べて体力回復です!」

「太りたくないから食ってほしいだけだろ」

「半分そうですけど、言ってること間違ってます?」


 確かに間違ってはいない。賛同もしてやるつもりくらいの一般的正論だ。

 ソリトがそんな事を考えていると、ぐうと音が鳴った。


「わ、私じゃないですよ!」

「…………俺だ」

「ふふ、はい」


 ルティアはフォークを皿をソリトの前に差し出す。反論を述べておいて腹の虫が鳴るなんて、何だが負けた気がするも背に腹は変えられない。ソリトはフォークを受け取り適当に口に運び入れる。

 ルティアも良く噛みながら次々食べていく。


「良く食うな」

「ソリトさんは食べる女の子は好きですか?」


 いきなり何を言っているんだ?とソリトは思った。


「興味ないな」


 そもそも女と言うだけでクソビッチやクソ勇者どもが浮かんでくるのだ。好きという感情など浮かんでこない。

 女という生き物がソリトは生理的に気に入らない。


「そうですか」


 聞いてきた割にはあっさりとした返事をしたルティアはまた山盛り皿に手を伸ばす。


「ん〜〜!美味しい!」

「そりゃ、良かったな」

「…んむ…ふぁい」


 今も宴は馬鹿騒ぎだ。主役と担ぎ上げられたソリトを忘れて。その方がソリトも楽なので、良かったと思っている。


「ありがとうございます」


 いきなりどうしたのか、ルティアは真剣な気配を纏ってソリトにポツリとお礼を言った。


「今こうして、死傷者が出ることなく騒げているのはソリトさんのお陰です。薬に薬草の提供、調合まで」


 ソリトは他人事のように聞きながら料理から手を離し、物を飲み込んでから口を開く。


「それは見当違いだ」

「え?」


 確かにソリトは宿に置いていたリュックの中から自作の薬と薬草と調合をして提供をした。勿論金を払ってもらってだ。お陰で銀貨50枚を得た。

 だが、それだけの人数で済んでおり、その殆どが群れとの一戦にしては軽傷と呼べるものばかりだったのはソリトのお陰ではない。


「あいつらが騒げているのはお前が戦闘中に回復魔法を掛けていたからだろ。そうでなければ今頃軽傷者は死人に変わっていただろうな。だから、今回の貢献者に名をあげるなら、聖女、お前だ」

「…………ありがとう、ございます」

「だから、お前に主役になってもらう」

「へ?」


 ソリトはずっといた場から離れ馬鹿騒いでいる中心に行った。

 男が一人気付くと、ソリトを見て主役が来たと周囲を促して視線が集まる。

 

「勘違いしているようだから、言っておく。俺は助けたつもりは一切ない。そして、本当に貢献したのは俺じゃない。本当に貢献したのはあそこにいる【癒しの聖女】ルティア様だ!」


 ソリトがルティアが見えるように体を移動させて告げた言葉に馬鹿騒いでいた全員がざわっと困惑しだした。

 ルティアに関してはギョッとソリトに視線を向けて呆然としている。


「ルティア様は戦闘中、冒険者や兵士のやつらを癒しながら自身も戦いに身を投じていた。今ここで死人も出ずに、薬だけでの治療で済んだのはルティア様の回復魔法があってのことだ」


 すると、同意するようにソリトの話しに頷く者が大勢現れた。

 勿論嘘ではない。全部真実だ。認めたくはないと思っているソリトだが、心がそう考えており、また冷静に考えての結果でもある。

 それにソリトは宴の中心にされるなど真っ平ごめんなのだ。


「ならば、本当に讃えるべきは俺じゃない。今からでも主役をルティア様に変え感謝しよう!聖女ルティア様、万歳!」


 最後の締めにソリトはルティアを讃える言葉を張り上げた。

 すると、次の瞬間……


「「「聖女ルティア様、万歳!聖女ルティア様、万歳!……」」」

「「「聖女ルティア様、万歳!聖女ルティア様、万歳!……」」」


 輝かしい瞳で雄叫びの如く全員が、聖女ルティアを讃える言葉を復唱し始めた。

 背後から「ソリトさん!どういう事ですー!?」とルティアが叫んでいるが、ソリトは雄叫びでかき消されているという合法的な言い訳を手に入れ無視し、女性陣に中心へと連れていかれるルティアを助けることなく、隅に置いていかれた料理の方へ戻り讃えられながら宴を再開する様を眺めながら料理を適当に食べていった。








どうも、翔丸です。


一つ言っておくことが、絆されてません。

ソリトは冷静に考えた上でちょこっと私情を入れて主役をルティアに変更したにすぎません。


でないと、ルティア様なんて言わないでしょ?

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