13.ベッドの上の朝
◆◆
七色の色彩に満ちた、
「ここは……?」
小さく独り言を言った後、クウは辺りを見回した。
「気分はどうだ──人間よ」
クウは声の方向に、素早く顔を向ける。
もう一人の、クウがいた。正確に言えば──クウと全く同じ姿をした何者かが、座るクウを見下ろしている。
「僕と同じ姿? 誰だ……?」
「これは、貴様の姿を借りているに過ぎぬ。私は、貴様ら人間にとっての絶対的な存在──神だ」
「か、神様?」
「そうとも。
「大いに気に入ったぞ、人間よ。貴様はもう、病に絶え果てた迷える
クウの姿をした神は、笑いながらクウに
「今の貴様は文字通り、この世界──イルトの一部だ。その"輪"の力にかけて、貴様の思うがままに、この世界を生きよ。それこそ私が人間に求める──全てなのだから」
神のその言葉の後、クウの身体が急に透き通り始める。
「うわっ──。な、何だ──?」
「人間よ。幸運を祈るぞ」
薄れたクウの身体が、完全に消えた。
◇◇
ゆっくりと、クウは目を開けた。クウにとって見覚えのある、木目の天井が見えた。瞬時にクウは思い出す。この天井は──ナリアの家である。
クウの身体は、上半身に
「うっ、痛っ──!」
クウの背中に、
「あの時に受けた、雷か……。我ながら、よく生きてたなあ……」
クウの脳裏に、あの時の状況がまざまざと浮かぶ。ゴーバの
──フェナは、あの後どうなったのだろう?
「クウ……!」
震える声がした。いつの間にか開いていた扉から──
「ナリア、どうしたの? 目がウルウルしてるけど。花粉症?」
「……無理に、元気そうに見せなくていいです」
ナリアはクウの真横に腰を落とし、籠の中を手で探る。取り出したのは、木の葉の上に乗った、灰色のクリーム状の物体だった。
「背中を、上に向けて下さい」
「えっ、何する気? ──妙なこと考えてないよね?」
「早くして」
「はい、すいません……」
クウは痛みに顔を
ナリアはクウの包帯を
「ソウさんから聞きましたよ、クウ達がした事」
「えっ? 僕達って何か変な事したっけ?」
「変どころか、大変な事をしましたよ。まさか──"十三魔将"の一人を
「あの敵味方の区別がつかない大男、倒したの?」
ナリアは
「"十三魔将"の一人を倒した。──この事実は私達エルフのみならず、イルト全土に影響を
「そうなんだ。でも、僕に言われても困るね。僕はあのゴーバとかいう悪魔の雷を受けて、倒れただけだ。あの悪魔を追い詰めたのは、フェナだよ。倒したのは──あの状況だと、多分ソウだと思うけど」
「──そう言われると、俺が困るな。お前がいなかったら、あの状況で"
急にクウの隣の空間に黒い亜空間が出現し、ソウがその言葉と共に現れた。ナリアが驚いてクウの方に体を寄せる。
「よお、お目覚めかい? 村を救った英雄さんよ」
「びっくりさせないでよ、ソウ。──英雄って何?」
「お前の事に決まってんだろ。──村を襲った黒の騎士団を撃退、連れ去られた村人を牢獄まで
「トドメはやっぱり君か。でも、どの道その称号に僕は
「
ナリアが
「クウ。"ホス・ゴートス"から帰還して来て、どれぐらい時間が
「丸二日だ。今日は、三日目の朝だな」
「じゃあ、僕は二晩も寝てたんだ。──そうだ、フェナは? 彼女はどうしてるの?」
「あの吸血鬼なら──消えちまった」
ソウの言葉に、クウは目を見開く。
「他の連中と一緒にこの村まで連れ帰って、エルフ達に面倒見てもらってたんだ。だが、気が付いたら──消えてたよ。あの吸血鬼が寝てたベッドは、
クウは、フェナの姿を思い出す。
「何か残念そうだな、クウ。だが、お前が気にするべきは隣の
「余計な事を言わないで下さい。クウは私達の恩人ですし、私の同居人でもある。ただ、それだけの事です」
「おっ、余計な事だったかい? 悪かったな」
ナリアはソウを
「──ふむ。クウ君のお見舞いに来たが、先客がおったようだね」
クウとソウ、ナリアの顔が扉に向けられる。
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