第46話 そんなこんなで始まった部活動

 そんなこんなで始まった部活動、私の予想に反して案外うまくいっている。

 長田を除いてはみんなダンスが上手いのだ。スタンダード、ワルツ、タンゴこの辺りの常識的なところから、チャチャチャにルンバなど激しいダンスも一通りこなせてしまうのだ。

 あんたたち初めてでしょ? なんで、ダンスのビデオを数回見ただけでそこまで踊れるようになるのよ。

 でも、こうなるとどんな曲で踊るかが重要になってくる。それぞれ曲の好みもあるみたいだし……。まして、コンクールは社交ダンスじゃなくてピッフホップダンスに近い。

 その考えはアザミ会長も同じだったみたいだ。

 ダンスの練習も一段落ついて、休憩中にコンクールの話で盛り上がるんだけど……。

「基本が出来て来たから、ダンスの構成とか、振り付けを考えないといけないですね」

 私の言葉にアザミ会長が返事を返した。

「ますは選曲ね。それが決まらないと構成も振り付けも決まらないし、曲はやっぱりみんなが知ってる曲がいいと思うの」

「となると、J-POPだよな」

 三好君が言うが、即座に反論が田中君から上がる。

「それなら、アニソンでもオッケーだよな。1.……」

「曲名を出すな。色々問題が発生するんだから!」

真理、ナイスツッコミと叩(はた)きです。真理にも扇子を持たせた方がいいかも。

 

冗談抜きに、田中の選曲は甲子園のアルプススタンドに良く似合う選曲だ。確かにチアダンならよさそうですが社交ダンスに合うか?

 「私に考えが在るの。ここはワールドワイドの選曲が良いと思うの。そうね。スイス人がドイツ語でモンゴルの英雄を書いた曲が日本で流行る。ジンギスカンこそベストな選択よ」

 アザミ会長の言葉に、頭の中に浮かんだ歌詞をなぞると確かになかなかよい。

 高橋さんも同じように考えたようです。

「無双感が良いです。ポップですし、ダンスに合いそうです」

 確かに、あの目立ってる髭の人って、歌手じゃなくてバレエのダンサーらしいし。

 無双感ね、それは確かに欲しいけど、そう思いながら長田君の方を見る。

(悪いけど、無双感から一番遠い人が居るのよね。もちろん顔はわからないけど……。彼に合うとしたらモンキーダンスぐらいじゃない?)

 もっと私たちにふさわしい楽曲があると思うの! 私はおもむろにカバンから易をするために、50本の筮竹(ぜいちく)を取り出した。最近凝り出した手相ともう一つの特技。

 易、または易経、五経の一つで陰陽をそれぞれ六つに分け、世界に起こる出来事の流れを読み、天地人三才の道を知る占いだ。

 私が筮竹の一本を引き抜き、さらに残った49本を右手と左手に分ける。これで、太極と天策と地策が決まり、さらに右手から1本筮竹を抜き取り左手の薬指を小指に挟み人策とする。

 天と地と人を味方につけるには……?

(こんなんでましたけど?!)


「1970? そこにダンスに合う曲があると出た」

 私の手元の仕草に注目していたみんなは、その発言に私の顔の方を見た。

「1970って?」

 一人口を開いたのは声からして薊会長だな。

「数字? きっと選曲にかかわる数字だと思う。天地人の運気が一番勢いがあると思う」

「孟子の天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かずというやつね。天のと時、地の利、人の和を示している。この部活が成功する三条件が1970ってわけね」

「たぶん……。だってダンスコンクールに優勝ことを考えて占ってみたから」

「……」

 全員が訳の分からない数字に沈黙をする。少し抽象的過ぎたかな。私はもう一度、筮竹を持って整えた。

 その時だ。長田君が思い付いたように言ったのは。

「それって、1970年代ってことじゃないかな? 最近、バブリーダンスで優勝した高校が在ったでしょ。あの時、やたら1980年代って当時の曲がもてはやされた」

「なるほど、それは在処(あり)かも!」

 三好君が長田君の意見に納得したように声を上げた。

「70年代ね。ほとんど、演歌じゃない? ダンスが踊れるような曲があるかな?」

 高橋さんがそんなことを言ったようだけど、私は天の時、地の利、人の和って聞いて別のことを考えていた。


 アメリーナ王国が滅んだ時の話ね。バカ頭のケルンが王子だったこと、国防の要、ガルシア領の娘がケルンにベタ惚れだった私だったこと。そして、和が一番大事だっていうのにたったひとりの女、マリアにやられてしまったこと。

 傾国の女マリアは天地人三才すべてにおいて最悪のタイミングで現れたわけだ。

 私は自嘲気味にわらった。

 ハーッ……。ため息交じりに吐いた息が余計に顔を歪ませたのだろう。

「どうしたの? 美晴さんらしくない」

「アンナ、あんたらしくないで」

 私らしくない。どこが? 

 私の心を読んだように三好君が頷いた。

「あれだけいじめを受けても、反発するわけでもなく、萎縮するわけでもなく……」

(だって、顔がカボチャやジャガイモになんかいわれても……)

「山本先生を味方につけて、校長先生を論破しちゃって、ダンス部を作っちゃうし」

(いやあー、それほどでも)

「アザミ会長まで巻き込んで、生徒会まで味方に付けちゃって」

(いや、薊会長が勝手に入部しただけなんですけど。でも、いじめの方は本当になくなりましたね。シカトは続いてますけど)

「「「女帝みたいだ!!」」」

 三好君、田中君、長田! 褒め殺しかと思ったら、最後は落とすんかい!!

 いえ、興奮してしまいました。冷静になって考えてみると、私だけじゃなく、女帝さんはたくさんいますよね。この中に……、アザミ会長に、真理、高橋さんはよくわからないけど。

 男を手玉にとり、頂点に君臨する女。ありますよイメージぴったりな曲が!

 しかも、ラテンのノリ、ちょっとあの時代には珍しいノリですよね。

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