第24話 思い出作り

 「ふっふははははっ、ははははは」

本屋の床で四つん這いになりながらも、私は自然と笑みがこぼれてしまっていた。


 何も間違っていなかった、自分は小説家ヘ向けて正しい道を進めている。

そのことを確認できた気がして嬉しかったのだ。


 まがいなりにも売れっ子作家であるあのおばちゃん、宮藤レイヤの心境と、現在の私の抱える悩みがほとんど同じようなものならば、内面的にはもう小説家になったようなものだ。

きっと今抱えている悩みや、次回作へ向けての足踏みも、すぐれた作品を生む上で避けては通れない葛藤なのだ。


 あとはおばちゃんが言っていたように、

ベタで安易な造りの作品であろうと、

単純に人が好みそうな作品にして仕上げればいいだけ。

それが受けるかどうかはもう私のせいではない。


 黙々と創り続けてさえいればあとはもう委ねるのみ、すべては運や巡りあわせ次第で小説の良し悪しは決まると言っていい。

いずれ評価される、すでに私はそのレベルまで達していた。

 

 小説家としての自分の適性を確認できるいい機会になった。

高揚した気分のついでに、私はショッピングモールの店を少し見回ってみることにした。

どうせ変装しているのだから気付かれるわけがないと思い込んでいた。



 何気なくアパレルブランドマッキニーの前を通ると、そこにはまさか彼女の姿が見えた気がした。

ショップでの客トラブルに怯えを感じて辞めたはずの、井藤さんの姿が。


「らっしゃいませー!セールやってまーすどうぞご覧なってくださーい!」

よくよく見ると、やはりそれは井藤さんだった。

しかも以前より明るく、堂々としてすら見える。

少しずつ引き付けられるようにして、彼女に吸い寄せられていった。


「あっあの~店員さん・・・・・・、その服かわいいですね」

他人のフリをして、その美しさを単純に褒めたつもりだったのだが。

「きゃあっ!・・・・あぁあああぁあなっあなたは警備のああきゃああああ!やめて!!もう私のところにこないでよおぉぉ!!」

何故か大きく取り乱した様子の井藤さんは、

その場にうずくまり泣き叫んでしまった。

「いやっちがっ違うんだ。ちょっとうれしかったから、声かけただけなんだよぉ」

 その場にいるのが怖くなり、

私は言い訳を自分に言い聞かせるようにしながら走り去った。


 

 なんで彼女は復帰しているんだろう?

そしてあの言葉は私のことに気付いていたということなんだろうか?

若干の不安感を抱きながらももう一人の気になっていた女性、

スーパー2階衣料品売り場の倉田さんの元へも立ち寄ることにする。


 これが見納めになるかもしれない。

漠然とした不安と危機感から、どうしてもかつて愛した女性の姿を目に焼き付けておきたかった。


 衣料品レジですぐに見つける。

すばらしい清潔感のある制服の着こなしをしている、ふくよかな女性を。

 胸が高鳴った。血流が下半身に集まるのを感じる。

単純にうれしかった。

影ながらでもこうして彼女の姿を確認できただけで満足だった。


 思い出として写真に撮ろうとスマホを取り出す。

すると何故かすぐにこっちを振り返り、私の姿を確認すると、倉田さんは慌てた表情を浮かべ、何やら電話をとって連絡を取り出した。


 すぐに他の店員が数人集まってくる。

彼女を囲むようにして周りを取り囲み、コチラを睨みつけているように感じた。

直感的にこの場にいることのマズさを感じ取った私は写真を撮るのは諦め、身をひるがえして出口の方向へと向かう。


 目の前から無線で連絡を取りながらこちらへ向かってくる、白のポロシャツ姿の男性二人組が見えた。

 間違いない、かつての同僚の警備員連中だ。


 再度逆方向へと引き返し、今度は屋内駐車場の方へと向かう。

後ろから猛ダッシュで警備員が追いかけてくるのを足音で感じていた。


 駐車場へ潜入すると天井は覆われて照明はなく、辺りはとたんに薄暗くなる。

車の陰に隠れながら、密かに脱出ルートとして考案していた道を通り、車が通る隙間を縫って出口へと向かった。

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