第37話 バースの日記

 大学の3回生の頃だったか、岡山県北のある本屋で、単行本の「バースの日記」を見つけた。

 早速買って、帰りの列車の中で一気に読んだ。


 バースとは、言うまでもなく、史上最強の助っ人名高い外国人選手。

 阪神の21年ぶりリーグ優勝(1リーグを含めて38年ぶりの日本一)に貢献した、あの選手である。

 メジャーでこそチーム事情などもあって出場がかなわなかったが、日本に来て、3年目に大ブレイク。2年連続三冠王も獲得した。

 私も、高校時代に何度か、岡山県営球場でバースの活躍を見た。

 高3の年、在籍していた定時制高校の中間テスト、自分にとっては共通一次に必要ない科目だったので、あえてさぼって、その日行われていた岡山県営球場の阪神対中日戦を試合前の開門からずっと試合終了まで観続けた。

 その日の試合は、阪神の敗け。

 だが、翌日のスポーツ新聞は(報知新聞を除いて)すごかった。


 バース特大9号


 これは確か日刊スポーツの見出しだったっけ。

 そうそう、この日の阪神のスタメンは、すごかった。


 9 真弓

 8 田尾

 5 掛布

 3 バース

 4 岡田

 7 柏原

 6 平田

 2 木戸

 1 キーオ


 1番から6番まで、クリーンアップ、その気になれば4番を打てる打者がずらり。

 代打には、永尾、長崎。これまたビックネームである。

 前年にこの球場で試合を決める3ランを放った永尾選手と、大洋で首位打者を獲得した長崎選手が代打に出たのだが、あえなく凡退した。

 そして、敗けた。

 それでも、バースの本塁打を見ることができた。勢いのある高く上がったフライ性の打球だった。


 翌1988年4月19日にも、岡山県営球場で阪神対中日戦があった。

 このときはすでに、大学生になっていた。

 大検合格者として共通一次を受験し、岡山大学に合格していた。

 この日はまだ、バースは在籍していた。ヒットも打ったはず。

 しかもこの試合では、掛布選手の今季1号本塁打(通算346号だったと思う)を見ることができた。

 すごい勢いというわけでもなかったが、弾丸ライナー的な軌道で、私たち阪神ファンのいるライトスタンドに飛んできた。


 それから間もなく、バース氏は息子さんの病気の件で阪神球団を退団していった。


 バース氏の日記を、それから2年後に買って読んだ。

 なんだか、明治時代のお雇い外国人の文章を読んでいるような気にもなった。


 時がたって、2010年代半ば。

 当時住んでいた西明石に、バース氏が来るという。

 彼は西明石駅のとある食料品店のキャンペーンで来日していた。

 特に握手をしてもらったとかサインをもらったというのはないのだが、お元気そうだった。なんでも現在は、政治家になっておられるそうな。

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