第7話 自分をプロデュース

※本編第1章、第15話とリンク


僕は、演奏動画をYoutubeにアップしてピアノ系ユーチューバーを目指すことにした。

一番の目的は、はるか先生に僕の演奏を聴いてもらうこと。

この方法なら、物理的に離れていたとしても、定期的に僕の演奏を聴いてもらうことが可能だ。

次に、少しずつファンを増やして、先生が認めてくれるピアニストになること。


これまでは大きな海外のコンクールで入賞したらピアニストになれるかな、くらいに思っていたけど、今はYoutubeにアップすれば海外の人も聴いてくれたりする。

特にクラシックは言語が関係ないから、海外の有名なピアニストの目に留まるチャンスもゼロではない。


例えば、僕が社会人になっても、ピアノ演奏を発表する場があれば、僕はずっとピアノを弾いていられる。就職しても、ピアノと離れることなく。

将来がどうなるかなんて分からないけど、今、乗れるものに乗っておいて損はないはず。


何より、そうやってピアノ系ユーチューバーとして知られれば、はるか先生との縁が切れることはないだろう。


先生が褒めてくれたバルトークの演奏を何度も撮り直して、一番気に入った演奏を1つめの動画としてアップしてみた。

チャンネル登録がゼロの状態だから、とにかく友人知人にLINEを送りまくって、まずは視聴回数を稼ごう。


もちろん、最初ははるか先生にLINEをする。


「はるか先生、Youtubeチャンネルを開設しました。僕の演奏、これからもたくさん聴いてね」


送った時間はおそらくレッスン中なのだろう。まったく既読になる気配がないため、その間にLINE登録している人ほとんどに、Youtubeチャンネル開設のお知らせを送る。


もちろんタケルくんにも送っておく。

Youtubeコメントが友人からたくさん書かれ始めて、コメント返しに追われていると、タケルくんからLINEが入った。


「いい演奏だね、タオくんらしい。バルトークがこんなにバリっと弾けると思ってなかった」


そっか。春休みにタケル君に聴かせた時には、ここまでバリッと弾けてなかったってことだな。それならはるか先生も、今回の動画の演奏に納得してくれるかも。


続けてタケルくんからLINE


「早速、はるか先生からコメント来てたね」


「え?マジ?見てない!チェックする!!」


え?!本当に?!なかなか既読にならないから、まだ聴いてもらえていないと思っていた。


慌ててYoutubeを確認してコメントを下の方までスクロールすると『Haruka』が目に入った。

きっと、はるか先生だ!



「Taoくんの演奏が動画でもいいから聴けるなんて嬉しい!新曲も楽しみにしています」


心臓がポンと跳ねるように感じて、それからドキドキが止まらなかった。


この口調。はるか先生だ!先生からコメントが来た!

僕の動画、聴いてくれたんだ!!


嬉しい!嬉しい!!


どうしよう、なんて返事したらいいだろうか?


僕はスマホを持ったまま、寮の部屋を右往左往した。

それだけでは落ち着かず、スマホを両手で持ったままベットに身を放り投げ、それでも画面から目が離せなかった。


わぁ、どうしよう。

先生って書くと、身元がバレたり色々面倒になるかもしれないし。

あれこれ書くのも、今後を考えると良くないし。でも、嬉しい気持ちは伝えたいし。


なんて返事したらいいかなぁ。そもそも、Youtubeチャンネルを始めようと思ったのも、はるか先生に演奏を聴いてもらいたいから。

新曲も楽しみ、なんて書いてくれてる。きっと、これからも聴いてくれるってことだよね。


どうしよう、どうしよう。


舞い上がって浮かれた状態でコメント返しをしたら、失言してしまうかも。一度落ち着こう。

落ち着いて、文章をよく考えて…。


あれこれ、ノートにコメントを書き出してみた。いくつかの候補から、これなら違和感なく、先生に気持ちを伝えられるかも、というものを選んで、スマホに打っていく。


注意深く何回か読み直して、よし!とボタンを押した。


時計を見てみると、どうコメントを書こうか30分くらい迷っていたようだ。

でも、それくらいの時間をかけて書いてよかったと思う。

なにしろ、Youtuber TaoとHarukaさんの第1歩になるかもしれないのだから。

これが僕の、今の精一杯の気持ち。


「聴いてくれてありがとう。Harukaさんのために、これからもたくさん演奏をアップします」


第1部 完


最後までお読みいただきありがとうございます。

明日より、本編「ピアノ男子の憂鬱」第2部がスタートします。

ユーチューバー、タオくんのラブコメ(?)とリンクしていますので、よろしければ引き続きお付き合いいただければ幸いです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る