第47話 潮騒

きらきらと輝く水面をぼんやりと眺める。

波が砂浜を侵食していく。

その寝食されていく砂浜の上には様々な<夢>の欠片が輝いていた。

波にさらされるたびに輝きを増した<夢>の欠片はやがて空中に浮きあがり空の彼方へと飛んでいく。



『<夢>はこうやって新しい<夢>になっていくんだね……』


「そうみたいだね。羽衣も見たのは初めてだけど」


『……皆の<夢>は地上に還さないと、だね』


「うん……」



羽衣が心の中の翼希と話をしていると。



「何を一人でぼそぼそ言ってんの。正直、気持ち悪いんだけど」



この海の管理者、夢海がやって来た。



「羽衣は羽衣であって翼希だからね。心の中の翼希とお話してただけだよ」


「それなら別に声に出さなくてもよくない?」


「それはまぁ……声に出さないと会話してる感じがしないというか……。そんなとこだよ」



羽衣は言い訳ぽく頬を掻きながら苦笑いする。



「それで……その<紅き黄昏>カーマイン・サンセット……静空とかいうのは何の目的でこの<夢>を狙っているの?」



夢海は奏の<夢>を懐から取り出して問いかけてくる。



「んー……静空は新しい"魔法使い"の世界を作る為だとか言ってたけど。まー、静空の願いを叶えるのに必要なんだと思う。……たぶんだけど」


「出来れば、早くこの子の<夢>もあるべき場所に還してあげたいのだけどね……」


「そしたら、下界で奏が襲われる可能性があるから駄目だよ」


「はいはい……そうですね。私がしっかり管理させていただきますよ」


「うん、お願い」



羽衣が再び海に視線を移すと、夢海も私の隣に座り海に視線を移す。

そして。



「なんで、この場所で、この海で、戦うつもりなのか聞かせてもらおうかな」


「うん……そうだね。それぐらいは話をしとかないとだね」



羽衣はそう言って、夢海にその理由を説明した。

ここに来た理由を。

そしてこれからこの場所で起こるであろう事。

これからこの場所で起こりうるはずの事を。

それを聞いた夢海は大きくため息をつきながら。



「はぁ……そんな事だろうと思ったわ。でなきゃ、この<夢>が集まって還る世界に来るわけないものね」


「まぁ……そういうこと。だから、羽衣が死んじゃったら、後はよろしく頼めるかな」


<小さな星>リトル・スター……あんたの事は許してないけど、まぁそのお願いなら聞いてあげる。それは私の仕事だからね」


「ありがとう、夢海。恩に着るよ」


「まぁ……あんたの事は嫌いだけど。生きて帰って贖罪しなさい。これは命令」


「あはは……それは努力するよ……」



私達はのんびりと世間話をしながら海原に夕日が沈んでいくのを見つめる。

そろそろ……かな。



「夢海は羽衣の張ったそこの結界に隠れてて。たぶんどんなことがあっても破壊されないはずだから」


「ふーん……ほんと"魔法使い"って便利なのね」


「羽衣が特別、なんだよ」



そう言いながら羽衣は薄い胸を精一杯強調するように胸をはる。



「……これが格差社会か……」



夢海は自分の胸と見比べてそう呟く。



「……何か言った?」


「いえいえ何も。何でもありませんよー……」



そんな和んだ雰囲気も束の間。

世界が一瞬にして闇に包まれる。

黄昏色に輝いていたはずのこの<夢>の世界が闇に包まれる。

その闇の中から紅いローブの黄昏という名の少女がずるりと現れてくる。



「……やっぱりきたね、静空……」



羽衣は暗い闇を纏った静空に声をかける。



「こんな場所まで来たのはどういうつもりか、分からないけれど。奏の<夢>はいただくよ、<小さな星>リトル・スター……」


「ううん。私の名前は……羽衣。……<小さな星>リトル・スターっていう名前はもうその辺で捨ててきた名前だよ」



そう言って私は背中の羽を羽ばたかせる。



「静空……いいえ、しおり。あなたは間違っている。私が、羽衣が、しおりが間違ってるって証明してあげる」


「おや……?しおりが私だって気が付いたのか。私は翼希の良い親友でいたかったのに」



クスクスと嘲笑うように静空は顔をゆがめる。



「心の中の翼希も親友でいたかったって言っている。だから、親友の悪事は止めないといけない!!」


「ははは……"魔法使い"の力を全て私に奪われた羽衣に何ができるっていうのかな?」



静空は一笑に伏すと羽衣に向かって呪文を唱える。



「世界にはびこりし闇の一片よ。我が力となり我が敵を貫けっ!!」


「だから、その為に、皆の<夢>の力を使わせてもらうんだよ。我が<夢>の欠片の一片よ、我が楯となりて全てを拒めっ!!」



静空の呪文に応えて出現した闇の刃を、羽衣は<星>の欠片を利用した魔法を使いバリアをはり弾き返す。

そして私の中から一欠片がさらりと舞い降りていく。



「ふん……そんな付け焼刃の"魔法"で、私の事を止められると思わない事だよ」


「しおり、羽衣は稀代の天才"魔法使い"だよ。だから、そんな闇の力なんかに負けない。この<夢>の力だって使いこなして見せる。乗りこなして見せるっ!!」



私達のその言葉と共に戦いの火ぶたは切って落とされた。

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