第32話 暗い闇の中で。

その夜。

日が昇る少し前の時間まで、刹花と延々と女子会をさせられた。

でもそれは。

私がただの人間だった頃の、記憶が蘇ってくるようで。

それはとても……。

とても楽しいものだった。


色んな話をした。

冬に包まれた世界の百合話。

常夏の村のひまわり畑の恋物語。

そして、刹花たちの町で起こった話まで。


色々な話をした。

ただ一つ、私が人間だった頃の話を除いて。


そしてまだ町が薄暗闇に包まれ時間。

私と刹花は、町の中をのんびりと歩いていた。

<小さな星>リトル・スターの館に行くために。


歩く事、数十分。

<小さな星>リトル・スターの館に辿り着く。

そして私は刹花に告げる。



「もうここまでで良いよ、刹花は」


「……はぁ……そう言うと思ったよ。でも私もついてくかんね」



刹花は大きくため息をつきながら笑いかけてくる。

私は、刹花を危険に晒したくないのに。

もしまた刹花の願いを<小さな星>リトル・スターが叶えてしまったら。

今の刹花の一番の<夢>が再び奪われてしまう。

それだけはダメだ。

ダメなのに。



「危険があったらとっとと逃げるから。だから、行こう」



刹花はそう告げて、ずんずんと館の中へと入っていってしまった。

……しょうがないな、本当に。

こういうとこ、頑固なんだよな、刹花って。

空で見ていたころと変わらない。

私はため息をつきながら刹花についていく。

やがて、刹花はある部屋の前で止まり、私が隣に立つのを待つと、一つ頷いて。



<小さな星>リトル・スター、お客さんだよっ!!」



そう叫んで扉を勢いよくこじ開けた。


扉の奥を伺うと。

薄暗闇の中。

小さな星のインテリアの瞬く中。

一人の少女がクスクスと微笑んでいる。


紅い洋服を着た少女が。



「あれ……?<小さな星>リトル・スターは?」


「彼女は今、出張中だよ、刹花」


「……あんたは確か……」



刹花は顎に手を当て考えを巡らせる。



<小さな星>リトル・スターの館を教えてくれた人……」



そう。

そうだ。

この紅い服の少女こそ、<小さな星>リトル・スターと刹花を巡り合わせた本人。

様々な人に<小さな星>リトル・スターを紹介して回る謎の人物。

<小さな星>リトル・スターに願いを叶えさせている元凶。

私は刹花を庇うように前に立つと。



「おや、あなた、翼希じゃない。久しぶりだね」



少女は気軽に私に声をかけてきた。

……私はこの少女を知っている。

けれど、この少女は、私の事を知らないはずだ。

出会ったことすらないはずだ。

それが何故。

何故、この少女は私の事を知っているんだろうか?



「あなたは……誰?」



敵意を込めた声で、私は紅い洋服の少女に問い返す。



「ふむ……そうだね。私の名前は<紅き黄昏>カーマイン・サンセット。そう名乗っておくことにするよ」


<紅き黄昏>カーマイン・サンセット……?」



聞いたこともない名前だった。

しかし……私はこの紅い洋服の少女の声に何処か懐かしさを感じていた。

何故なのだろう。

分からない……。

けれどっ。



<小さな星>リトル・スターはどこ?<小さな星>リトル・スターに話があるんだけど」


<小さな星>リトル・スターは今は冬の世界だよ……。<小さな星>リトル・スターに会いたければそこに行けばいい……」


「冬の世界って……まさか……」



まさか……。

ソリスやニクスにまた願いを叶えさせようとしている?

そして<夢>を奪わせようとしているっていうの?

そんなこと……。



「絶対に、そんなことさせない!!」



私は<紅き黄昏>カーマイン・サンセットに対して激昂する。

そう、絶対にそんなことさせちゃいけないんだ。

あの二人は、冬の世界でも幸せに生きていける。

冬の世界ではないと生きていけない。

そのはずだ。

だからっ。



「まぁ……翼希……あなたの好きにすればいいよ…。"運命"は変わらないけれどね……」



<紅き黄昏>カーマイン・サンセットはクスクスと嘲笑いながら、まるで闇に飲まれていくように姿を消していった。



「……なんなんあの子……」



その様子を見つめながら刹花はポツリとそう呟いたかとおもうと頽れた。

怪しい人物だとは思っていたけれど……。

やっぱり"人"ではないみたいだね……。


とりあえず。

私は冬の世界に急がないと、ソリスやニクスが危ない。

そう思い、羽をはためかせようとする。


けれど、私の服の裾を刹花はぎっしりと掴んでいた。

刹花の顔は真っ青に染め上げられていて。

体はガクガクと打ち震えていた。


うーん……。

冬の国に行くのはちょっと落ち着いてからかな。

私は刹花の体を優しく羽で包み込みながら、優しく抱きしめる。



「大丈夫……。大丈夫だよ……。刹花のことは私が守るから……」



そう優しく告げながら。

私は刹花に微笑んでいた。

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