第七章 一輪の花
第30話 青い空から。
朝靄の中。
私は蝶柄の着物を着て。
昔の様にこの場所へとやって来ている。
朝顔が美しかったこの場所へ。
今は。
枯れ果ててしまった朝顔畑。
そこに広がるのは死の静寂。
私はぼんやりとただただ見つめる。
そこにひらひらと蝶々が舞ってきた。
綺麗だな。
そう思いながら見つめていると。
空から女の子が降ってきた。
突然。
なんの前触れもなく。
白い羽を生やした女の子が、降ってきた。
「……は?」
私はその非日常的な光景に呆気にとられる。
「痛ーーーーーーっ」
少女は泣きそうな目でお尻をさすっていた。
「あいたたたた……いやー……失敗失敗……って、うわっ!刹花っ!?」
私の名前を呼んだ少女はしまったといった顔をして、気まずそうな顔をしている。
言うまでもなく、私はこんな羽の生えた知り合いなんて存在しない。
そもそもなんなん?
この状況。
空から少女が降ってくるとか。
しかもその子は私の名前を知っているときたもんだ。
正直、訳わからん。
私と羽の生えた少女の間に気まずい空気が流れる。
そうこうしていると。
「こらーーーっ!!そこっ!!!何やってるの、早朝からっ!!!」
とても。
とても、聞きなれた声が聞こえてきた。
声の主は元マスクのおっちゃん、その人の声だった。
「何?この子は?白い羽なんかつけて?コスプレ?コスプレの許可とったの?ねぇ、コスプレするのに許可いるって知ってる?」
「はいはいはいはい……」
私は元マスクのおっちゃんの声を華麗に聞き流しながら、気まずそうな顔をしている少女の手を取る。
「行こっ」
「う、うんっ」
そう言って私達は手に手を取って、駆けだした。
元マスクのおっちゃんのお小言を完全にスルーして。
「今度から、コスプレする時は、警察の許可をとることーーーっ!!わかったーーー??」
はいはいはいはい……。
わかりました、わかりましたよ。
でもこの子の羽は、コスプレなんかじゃないんだよなぁ。
残念ながら。
私は心の奥で大きくため息をつきながら、自分の家へと駆け戻るのだった。
―――
「それで、その子……翼希だっけ?が空から降って来たと」
私は那直兄に一通りの事情を説明する。
少女の名前は如月翼希。
翼希はなんでも空の上からずっと私達の様子を見ていたらしい。
それで、とりあえず、空の上から降りてくることにしたとかなんとか。
その目的は、
理由はなんか話したくなさそうだったから聞くのはやめておいた。
天使にだってプライベートはあるんだ、うん。
「まぁなんだ……。その羽なんとかならんの?邪魔じゃね?」
「そうだねぇ……」
「しまいたいのはやまやまなんですけど……。無理っぽいです……」
申し訳なさそうに翼希は羽をいじる。
それにしても、
天使でも何かを願いたい事でもあるんだろうか?
ずっと私達の事を覗いてたという位だから、割と何でもできそうなのに。
ほんま、訳わからん。
「とりあえず
「ふむむ……」
その言葉を聞き、翼希はどうしたものかと思案しているようだ。
「まぁ考えててもしゃあないんじゃないんか。とりあえず行ってみれば良いんじゃね」
悩み顔の翼希を励ますように那直兄は声をかける。
まぁそうだよね。
考えてもしょうがないか。
明日の早朝に町はずれの館に翼希を連れて行ってみることにしよう。
そうすることにして、私達は那直兄の作った朝食をとることにする。
「うわ、このご飯おいしいいい」
「そうでしょ、そうでしょ?」
翼希のその様子に私は胸を張って主張する。
「なんで、これはお前が作ったみたいな、感じなんよ……」
「那直兄が作った朝食が認められて嬉しかったの!」
もう……恥ずかしいこと言わせんな、このシスコン兄。
しかし。
天使も朝食食べるんだなぁ……。
空の上には何もなさそうなのに。
「空の上では、何をしてたの?」
率直な疑問を翼希にぶつける。
翼希はご飯をほっぺたに引っ付けながら。
もぐもぐと美味しそうにご飯を咀嚼した後に。
「んー……基本的に一人で空に居るだけだね」
さびしそうな顔をしてそう呟いた。
一人で空に居るだけ……か。
それは……寂しい話だな。
そう思い。
「ね、翼希。私達、友達にならん?」
口が勝手に言葉を紡いでいた。
翼希は私達の事を知っているのだ。
私も翼希の事をもっと知りたい。
「友達……かぁ……」
思案気にそう呟くと。
「すぐいなくなっちゃうかもしれないけど……。それで良いなら」
そう言って申し訳なさそうに微笑んだ。
なんでそんな顔、するかなぁ……。
そんな顔して欲しくないから友達になりたいのに。
うーん……まぁいいか。
「よろしく、翼希」
私は笑顔で手を差し出す。
「うん……。よろしく刹花」
言いながら翼希は持っていたお茶碗を置いて、手を握り返してくれる。
うん。私達は友達だ。
だから、これから私は翼希の事を知っていこう。
ゆっくりと。
時間はたっぷりあるのだから。
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