第98話 宝剣フィーサ、成長する

 ドワーフ族に気に入られたようだ。

 それはいいとして、樽の中に着の身着のまま入れた彼女を、どうするべきか。


 魔石に触れるよりも先に、そっちの方を何とかしなければならない。

 ほうけているフィーサを目覚めさせるためにも、荒療治を施すことにした。


 さすがに彼女の体に触れて洗うのは、何となく気まずい。

 シーニャにしたように、樽の中にある成分不明の液体を浮かせ、頭上から勢いよく流した。


『ひゃぅぅぅ!?』

 冷水では無いが、頭から何かを浴びれば驚きもするだろう。


「気が付いたか? フィーサ」

「あ、あれ、イスティさま!? ど、どうして……何で……」

「ごめんな。驚かすつもりは無かったんだよ。おれは外に出て待っているから、布服を乾かしたら外に出て来てくれるかい?」

「わ、分かったなの」


 ドワーフの言葉に動揺して思考が停止していたが、元に戻ったようだ。

 フィーサのレベルと年齢は900歳。魔石に付与されたスキルで何が変わるというのか。


 魔石に触れるだけで、剣を磨くのと同じ効果が得られるらしい。

 にわかには信じがたいので、フィーサの魔石に触れてみることにした。


 フィーサブロスと見える魔石を手に取り、表面を手でなぞる。

 手の平の上に置いた魔石からは、特に何の変化も感じられない。


 だが、

『ひゃあぁぁぁん……!? や、やめて、ください~イスティさま、イスティさま~』


 ……な、何だ? 小屋の中からフィーサの悲鳴が聞こえて来る。

 魔石に触れただけで磨かれると言っていたが、まさか……。

 

 小屋の中で彼女の体を洗うことは避けている。

 それなのに、小屋からはフィーサが勢いよく飛び出して来てしまった。


 気のせいか少しだけ身長が伸びた気がする。


「イスティさま! くすぐるなんて、ひどいよ~!」

「そ、そんなつもりじゃ……」

「小屋の中でほったらかし! これも!」

「ご、ごめん……ん?」

「どうかしたの? わたし、何かしたのかな?」


 何かが違う気がする。

 多少見た目が大人びた感じで、何より言葉遣いが変わっているような。


 この流れで、フィーサの魔石を使ってガチャを引いてみる。


「えっ……? わわっ!?」


 魔石をシャッフルさせながらガチャを引く。

 すると、人化のフィーサが剣の姿に戻ってしまった。

 

 そして出たのは、

 【宝剣フィーサブロス 落ち着きのフィーサ:人化時のみ Lv.901】

 【Sレア 魔法カウンタースキル 両手剣時常時発動】

 【Sレア 魔力を溜めることが出来る :主に依存】


 なるほど、やはり身に着けるものは出ない。

 レベルが1つだけ上がっているが、それだけで大人びるものなのか。


 見事にフィーサ固有のものばかり。

 専用の魔石の意味がこれだとすれば、ルティにもちゃんとした装備を用意出来そうだ。


「あれれ、イスティさま。わらわ、何かしたなの?」

「――えっ? あれ?」

「……? あっ、それがわらわだけの魔石だったりするなの?」

「あ、あぁ」


 剣の姿だと以前のままだ。

 人化の時に大人びた上に、言葉も落ち着く……か。


 でも剣のレベルは上がった。

 それでも、全然使いこなしていないということだな。

 

 よく分からないが、人化の時に浴びた謎の液体のせいか。

 それとも……。


「イスティさま、そろそろ戻るなの! 小娘も虎娘もうるさいなの」

「そ、そうだな。そうしよう」


 人化の姿が成長しても、両手剣の形状が変わるわけでもない。

 つまり、そういうことなのだろう。


 専用の魔石、そして宝剣フィーサの成長……どちらも同様に謎ばかりだ。

 両手剣の姿に戻ったフィーサは、人化する気配を見せない。


 またすぐに分かるだろうし、気にしないでおく。

 

 ◇◇


「ルシナさん、戻りました」

「ただいまなの~!」

「お帰りなさい、アックさん。あら?」

「……どうかしましたか?」

「――いいえ、ふふっ。何でも無いですよ。アックさんもお疲れでしょう?」


 気のせいでも無く、フィーサの成長か魔石の影響で疲労感が出ている。

 ここは素直に休むことにするか。


「そうですね」

「別の部屋を用意していますので、そちらで横になっては?」

「お言葉に甘えてそうしときます。ルティたちもまだ眠っていますよね?」

「そうなんですよね。あの子ったら、一度熟睡すると物凄く眠ってしまうんです」

「……どれくらいですか?」

「ドワーフから樽が返って来る頃まで……ですね。あら、そういえばその樽……」

「今すぐ寝ます! 部屋は奥ですか?」

「ふふふっ、慌てなくても大丈夫ですよ。獣人の子も静かに眠っていますから」


 普段はどれくらい樽を貸して、返してもらっているのやら。

 ルシナさんの言葉に甘えて、寝ることにした。


「わらわも一緒に寝てもいいなの?」

「ふふっ、どうぞ」


 フィーサの成長と変化。

 魔石に記憶された彼女たちの成長も、魔石が示してくれるのだろうか。


 とにかくまずは眠ろう。

 寝て、それから……。


 ◇◇


「――よく眠っていますよ。今のうちにお連れしてはいかがですか?」

「……うん。そうする! ルシナちゃん、他の子は無理だけどいい?」

「分かっています。娘のルティシアと彼だけを――」

「はいは~い! 任せてっ!」

「お願いね、姉さま」

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