第92話 ロキュンテへの寄り道

「それでは、アックさん。本当にありがとうございました!」

「オレたちはここから帰ります。薬師のイルジナさんを送れれば良かったのですが、日が昇るまでお話が出来たのでそれでいいことにします。それにあれだけの冒険者がいれば――」

「いや、こちらも楽しかったですよ。道中、気を付けて!」

「はい! アックさんも。ルティちゃんとまた、レイウルムに遊びに来てくださいね!」

「言っておきますよ。セリナも気を付けて! デミリスはジオラスと仲良くな!」

「そ、そうします! では!」


 ◇


 地下洞から砦の広間に戻って休み、朝を迎えた時、そこには大勢の冒険者が姿を見せた。

 これには驚いてしまったが、


『――お出迎えご苦労さま。それでは、ザームへ参りましょう』

 薬師イルジナは淡々と話を始め、こちらに軽い会釈をしてそのまま去ったことも驚いた。


 デミリスたちがイルジナと何を話したかまでは、分からない。

 夜が満ちていた時間から朝までの間、変な感じは受けなかった。


 今はまだ、様子見といったところだろう。

 おれたちは、彼らから少し離れて休んだ。

 

 シーニャだけが眠らずにずっと警戒していたが、向こうもそれに気づいていたのだろう。


 ◇


 薬師イルジナは冒険者たちと砦を去り、デミリスたちはレイウルムへ帰って行く。

 砦は現状維持にするしかなかった。


 現時点で薬師イルジナは、敵ではない。

 そうなると、砦を消すわけにもいかないだろう。


 とにかく、剣士デミリスを見つけて引き合わせた。

 おれたちの目標は、ひとまず落ち着いたと言える。


「アック様、これからどこへ行くのですか?」

「そうだな……ラクルに帰って休もうと思っている。シーニャも眠っているしな」

「そうです!! ずるいです~ずるいですよ~! アック様の背中にくっついていられるなんて! ムキ~」

「そう言うな。シーニャが気を張っていたからこそなんだぞ?」

「あ、あうぅ~ご、ごめんなさいです~」


 フィーサもシーニャ同様に眠っている。

 剣士デミリスと同行していた時に、シーニャに使われ激しく疲れたらしい。


 そういうわけで、結局ルティとおれだけで歩いている。

 砦から離れたはいいが、近くに小屋のようなものは見当たらない。


 おれの転送テレポートスキルが低いというのも、一つの悩み。

 薬師もデミリスたちもいないことだ、ガチャを使うか。


「ルティ、一応聞くが小屋は作れないよな?」

「小屋ですか? むふふ……素材さえあれば作れたりしますよ~! 何か木材がありましたらっ!」

「木材か……。そういや、あったな」


 眠らせた戦士たちも気になるし、戻ってみるか。

 いや、ガチャでも何か出ればその方が早そうだな。


「そういえばそういえば! ロキュンテには行かれないんですか?」

「何だ、ルシナさんに会いたいのか?」

「そうじゃないですよ~そうであるとも言えますけど、アック様はロキュンテを呼び出せるじゃないですか! あそこからなら、自由に移動出来るんじゃないかなぁと」

「……あ、そうだったな」


 ガチャで出した町召喚スキルで、ルティの故郷ロキュンテを呼び出すことが出来る。

 確か残り一回は呼べたはず。


 丁度良く、広大な砂地が広がる大地だ。

 ここでなら、条件的にも不具合は起こらない。


 【Uレア 火山渓谷ロキュンテを召喚する】


 困った時の呼び出しと化している気がするが、問題なくロキュンテを召喚出来た。

 地形的に不安はあったが、何とかなったようだ。


「ほらほらっ! 呼べたじゃないですか~! さすがアック様!」

「ルティのおかげだな。ありがとう」

「いえいえ~そんなそんな~」


 そして相変わらず、熱い町だ。

 まずは、ルティの家に行くとするか。

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