新たな地へ

第62話 成り代わりの再会

 どうやら成功したみたいだな。

 スキュラの精霊獣である狼が魔石と一体化したことで、上手く行った。


「ウニャニャッ!? アック、狼と怪物が消えたのだ!! どこへ行ったのだ?」

「シーニャ、こっちへ」

「分かったのだ」


 スキュラの体を岩に戻すことが出来たのは、狙い通りだ。

 中身はエドラだが、元々スキュラは神殿の洞窟に生息していた生物。


 本人であったならば、岩に擬態するのも普通のことで、驚きも無かっただろう。

 しかしスキュラの魂はすでに、スキュラの体から剥がされている。


 ここに残っている体は、シーフェル王女そのものだ。

 考えが正しければ、中身は……。


「……あははっ! 思い切りましたわね、アックさま」

「ス、スキュラ……か?」

「スキュラじゃなくて、シーフェルですわ。あなたさまが思っていたとおり、あたしはたかが聖女ごときに乗っ取られてしまいましたわ。それならそれで、王女に姿を変えた体の方に魂ごと移すことにしましたの」

「そ、そうか」

「あたくしも脱皮を考えていましたので、丁度良かったですわ!」


 脱皮って……。

 おれがすることを全て見越して、黙っていたというのか。


「そういうわけですので、あたしはこれよりシーフェル王女として動くことにしますわ!」

「あの狼、精霊獣はいいのか?」

「……そのうち取り換えしますわ。それよりも、壁でもがく女の始末はどうされますの?」

「名を刻んだ魔石ごと神殿の壁となった以上、出られない。放置でもいいと思うが……」

「それこそお甘いことですわね。あたくしも生まれ変わりましたし、ここを崩壊させるのが賢明かと思いますわ」


 海底神殿と半端なダンジョンか。

 ここに生息していた彼女が言うなら、そうするべきなんだろうな。

 

「それはそうとして、王女として生きるということは、今後は一緒に行動することは出来なくなるぞ?」

「それもいい考えがありますわ。まずは、まだ息のあるあちらを黙らせるのが先ですわ」

「……まだ何か出来る力があるのか?」

「ええ。あたしの力もあちらに奪わせてしまいましたので、何かしらのあがきをしてもおかしくありませんわね」


 元スキュラの言葉通り、壁に封じられたエドラは息がある。

 時間を与えてしまうと、魔法詠唱の機会を与えてしまいそうだ。


『ごのっ……怪物めがぁっ!! その体を返せっ、返せっっ――!』


 聖女といえど、どうしてここまでの精神力があるのか。

 壁となった以上、放置でもいいかとは思っていたが、ここで終わらせるのが良さそうだ。 

 

 おれが破壊してもいいのだが、おれよりも容赦の無い彼女に託すことにする。


『ルティシア! こっちへ来ていいぞ』

『は、はいっっ!! 今すぐに!』


 見習い騎士リエンスの護衛と見張りで、おれたちの所から下がらせていた彼女。

 それももう意味が無いので、ルティにやらせることにした。


「アック様っ、来ましたっ!」

「ルティにやって欲しいことがある。出来るか?」

「それはもう、何なりと~」

「よし、この神殿ごと破壊しろ! もちろん、すぐに崩壊しないようにだぞ?」

「えぇ? そ、それは……」

「いいんだろ? スキュラ……」

「ええ、構いませんわ。あたくしも生まれ変わりますもの! あたしに構わずおやりなさいね、ルティ」 

「はわぁっ!? え、スキュラさ……ん? あれぇ?」


 壁と元スキュラを見比べながら、ルティは戸惑っているようだ。

 しかし雰囲気と感じ方ですぐに分かったらしく、気合を入れ始めた。

 

「ルティ。いいな、粉砕だぞ? 遠慮するなよ」

「お任せ下さいっ!」

「……ん、どうした?」

「アック様、でもでもあのぅ……」

「無事に済んだら、たっぷりと可愛が……ではなく、褒美を取らせるから」

「本当ですねっっ! よぉぉぉし、よぉぉぉぉぉし~!!」


 ここでうかつなことを言うのは避けねば。

 それくらい、シーニャやフィーサからの視線が痛い。


『はっ、はあぁっ……お、王女さま!! 王女さまではございませぬか! ご、ご無事で……』


 ルティから遅れること数分後。

 息を切らせたリエンスが王女姿で元スキュラの所に、かけ寄り膝をつく。


 そういえばリエンスの問題があった。

 本物の王女は壁に埋め込まれているが、成り代わりの王女は目の前にいる。


 元スキュラはどうするつもりなのか。


「フフッ、ご心配をおかけしましたね。リエンス」

「――ハッ! で、では、王国へお戻りになられるのですね?」

「王国……ええ、それもいいかもしれませんね」

「そ、それでしたら、ぜひここにいるアックさんをお連れしませんか? 僕の恩人なのです!」

「そう願いますわ」


 リエンスは王女の姿を見るや、周りの環境を気にすることなく話を進め出した。

 成り代わりの再会ではあるが、同船していた時から信頼関係を築いていた様に見える。


「スキュ……シーフェル王女。そういうことなのか?」

「ええ、そのつもりでしたわ。上手く行きましたでしょう?」


 感心することしか出来ないが、ひとまず解決か。

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