第47話 アック、転送をお願いされる

 どうにもスキュラの具合が気になる。

 だがそれ以上に、老婆に戻っていた彼女に何があったのか。


 ローブを脱がされたバヴァルの姿は、レザンスで出会った時よりも老化が進んでいた。


 白いローブで若返っていたバヴァルだったが、魔石に何を作用させたというのか。

 そのことで、スキュラにどう影響を及ぼしたのかについてもだ。


 レザンスに行けば真相を知ることになるが、そうなると転移ではなく転送を使ってみるのも手か。

 デーモン装備は失ってしまったが、ルティによるお手製の間に合わせ装備で十分だろう。


 それはともかくとして――


「……ルティ」

「はいっっ!」

「これは何だ……?」

「わたしが作りました、特製のパンですっ! それから、特製ミルクです!」

「あまりに黒焦げすぎるんだが、食べても問題ないんだよな?」


 ルティの作る料理には何かしらのが付いていることが多い。

 それだけに中身はもちろん、食べる前の見た目も気になってしまう。


「焼きたてだったのですが~、アック様から熱い愛をこの身に受けた結果がそれなのです!」

「愛じゃなくて、爆発魔法な」

「味はきっと大丈夫ですよ~! さぁさぁ、召し上がってください」


 毎度のようにルティのお手製料理は、何かが起こるわけだが。

 シーニャはミルクだけを飲んでいて、黒焦げパンには手を付けていない。


 黒焦げの原因はおれにあるし、覚悟を決めるしかなさそうだ。

 最悪、無理やりにでもミルクで流し込めば。


「――うっ!? ゲハッ……アッア、アガガ……」

「アック様!! さぁ、グイグイとミルクを流し込んでくださいっ!! さぁ!」

「うぅっ……んっぐ――!?」


 【黒焦げのパン 暗闇耐性 習得】

 【特製ミルク 自然治癒 習得】

 【ルティシア・テクス 進撃のルティ Lv.555】

 

(な、何だこれ……?  黒焦げのパンで暗闇耐性が付いたのか)


 ミルクの効果は何となく理解出来るが、焦げが何故暗闇に変わるのか。

 しかも、何気にルティのレベルも上がっている。


「どうしました~?」

「一応聞くが、パンにはどういう効果があるんだ?」

「いえいえ、何も効果を付けていないですよ? しかしミルクは違います! ミルクには何と! 体力や魔力! おまけにかすり傷程度が回復する効果がありまして~」

「シーニャもか?」

「それはもう……! アック様にテイムされているのなら、相乗効果を生むのです!」


 まさかここまで優れているとは。

 それとも爆発に耐え、ルティ自身が黒焦げになったことによる耐性効果なのか。

 

「ミルク、もっと無いのか? シーニャ、まだ飲むぞ!」

「仕方がないですね~。たくさん飲みまくって、魔力を回復しちゃってください!」

「シーニャ、アックを治す!」

「その意気ですよ~! わたしは魔法は苦手なので……えへへ」


 やはりルティは、回復魔法を使う素質は無いらしい。


 だが回復特化の錬金術に長けているのは違いなく、しかも料理効果で体内に取り込めるという特異なスキルがあるようだ。


 支援だけに特化すればかなり良さそうだが、まぁそれは気にしないでおこう。


「さてと……スキュラの様子を見て来る。二人はここで待ってていいぞ」

「分かりましたっ!」

「ウニャ!」


 すぐ隣にある部屋に入ると、すぐスキュラに出迎えられた。

 どうやら具合が良くなったらしい。


「アックさま、ご心配をおかけしましたわ。あたくしは問題ありません……ですけれど」

「ん? 何か心配事でも?」


 フィーサの表情は浮かないようだが、何かありそうだな。


「あたくしには残念ながら、ルティの怪しげな飲み物や、虎娘の魔法では回復出来そうにありませんわ」

「体力とか、そういうものが?」

「ええ。ですけれど、あそこに戻れば全て元通りになれる予感がありますわ」

「それはどこだ?」

「神殿手前の洞門ですわ。アックさまとなれそめの場所……ですわね」


 なれそめた覚えはもちろん無い。

 しかし元いた場所であれば、回復の見込みがありそうなのは確かだ。


「なれそめてないが……というか、あそこか」

「ええ。ですので、アックさま。あたくしを転送して頂けません? そこに戻れば、あたしはきっと元通りになるどころか、今よりも強くなると思っておりますわ」


 どこかのタイミングで転送を試そうと思っていた。


 それが今なのかもしれないな。

 あの洞門に転送出来るかは分からないが、試すことは出来そうだ。


 唯一スキュラだけ、ガチャで呼んだ彼女ではない。

 しかしこの機会に転送スキルを上げれば、おれのスキルも上げられる。


 そうすれば、今後も行き来が容易に出来るかもしれない。


「よし、転送をしてみよう! ただ、ここにバヴァルを寝かせたままには出来ないし、レザンスを経由することになるけど構わないか?」

「……ええ。アックさまの転送は、これが初めてのはずですわ。街移動とは別の力が必要になるはず……」


 レザンスと言った途端、表情を曇らせたように見えたが気のせいだろうか。


「そうだな。それじゃあ、バヴァルを頼めるか?」

「もちろんですわ」

「おれはルティとシーニャを呼んで来る」

「お待ちしておりますわ」


 街転移ではなく、転送士のスキルを使うことになりそうだ。

 果たして上手くいくかどうかだな。


「あなたは、本当にスキュラなの?」

「……ウフフ。そうですわよ? 宝剣のおチビちゃん……」

「――! スキュラじゃない……!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る