第37話 力の示しと魔石の変化

「シーニャはこう見えて、十七だゾ。ワータイガーの中でも若い、若い! アックは?」

「おれは十九だが……」


 ワータイガーがどれくらい長命なのか、――というか、他にもいるのか。


「人間の数字に優位性なんて無いのだゾ。シーニャ、弱いアックを守る。それだけだゾ!」


 迷い森にいた時までは、魔石を持つおれを魔物と呼んで恐れていたのに。

 何故か今では立場が逆転して、何故か弱い人間としてシーニャに守られている。


 基本的な力は獣人より劣るかもしれないが、彼女の強さは一体どれほどのものなのか。


 そんな獣人とソリが合わないのが、フィーサだ。

 

「わらわのイスティさまが、獣ごときに負けるはずがないもん!!」

「何を言っているのだ?」

「洞窟で足を引っ張ったら、わらわがお前を斬るの! イスティさまの邪魔をしないで欲しいの!!」

「たかが剣ごときに、シーニャが負けるはずがないのだ」


 ワータイガーと宝剣のはずなのに、小さな女の子が騒いでいるようにしか見えない。


「アック、ここ入り口! ここから――ウゥ?」

「ほらほらやっぱり! イスティさま、獣の言うことは信じたら駄目なの! 洞窟なんて無いの」

「ミスリルもどきが何を言うのだ!! 確かにここが入り口なのだ!」


 シーニャの案内どおり、山のふもと付近まで来た。

 そして彼女が案内してくれた所を見たのだが――。


「ここに洞穴が……? しかしこれは……」

「本当なのだ!! 穴があったのだ! 岩で塞がれていても本当なのだ!!」


 洞窟ダンジョンの入り口と思しき場所には、中から塞がれたような大きな岩がすっぽりと挟まっている。


 外からではなく中からという時点で、何者かが意図的にやったと思われるが。


「ただの岩に付き合う暇なんて、イスティさまには無いの! イスティさま、他を探しに――」

「な、何をするのだ?」


 シーニャに力があることを見せるには丁度いい。

 ここは拳で粉砕してしまおう。


「――手っ取り早い解決方法がある。二人とも、そこから離れるんだ!」

「ウゥッ!?」

「イ、イスティさま!?」


 シーニャの鼻のおかげで来られた場所だ。

 さすがに岩一つだけで、すごすごと帰るわけにもいかないだろう。


 力を込めて、岩に向けて思いきり拳を振り下ろす。

 

「フニャッ? 何も起こらない……ゾッ!? ウ、ウウウッ!?」

「こ、これは、あの小娘の力と同じですの~!?」


 ズガッと鈍い音をさせた直後のことだ。

 岩の中心部から線状の亀裂が生じ始め、周りをも巻き込むような震動が起こった。


 そこから破片が飛び散る心配もなく、あっという間に岩は粉々に砕けた。


 ルティの特製ドリンクが効いているにしても、これは想像以上だ。

 岩を粉砕しただけだが、相当強くなったと勘違いしそうになる。

 

 しかしルティとの実力差が不明だ。


「ウ、ウニャ……」

「はわぁぁ~」

 

 岩を粉砕したおれの力に驚いているのか、シーニャとフィーサは驚いて近寄って来ない。


 それなら今のうちに、魔石の状態を確かめておく。

 

 腰袋に入れていた複数の魔石に触れてみた。

 すると一つだけ微かに熱を帯びている魔石があるような、そんな感触が感じられる。


 熱を帯びた魔石は、覚醒時に感じた時とそっくりだ。

 これをとっさに握りしめて、地面に投げつけた。


 投げたのは良かったが、いつもと様子が違う。

 素直にアイテムが現れてくれない。


「変だな。確かに熱を帯びているのに、ガチャが出来ていないなんて」

 首をかしげながら、フィーサたちの方を見るとおれではなく、違う方を見て騒いでいる。


「マスター!! 魔物、大きな魔物~!!」

「ウーウウウー!! アック、でかい、でかい魔物!! シーニャでもムリ、ムリなのだ~!」


 魔物がどうしたんだ。

 ギャアギャアと騒ぎながら、必死になって魔石の方を指しているようだ。

 

 魔石が何だろう。

 そう思ってみてみると、そこにいたのは――。


「グルルルルゥゥ……!!!」


「へっ?」


 おおよそ人間では無さそうな歯軋はぎしりが聞こえる。

 さらには、地面にポタポタと垂れるよだれのような音には、嫌な予感しかしない。


 ワータイガーであるはずのシーニャの怯えようが、異様さを物語っている。

 魔石があるはずの場所にいたのは、見上げるほど大きなトカゲだ。


 本来ガチャをした直後に見える魔法文字ルーンからは、別の名前が示されている。

 

「タ……ルボ……サウルス?」 


 何でこんなもんがいるんだ。

 そいつは魔石そのものなのか、おれをめがけて向かって来ている。


 魔石相手で攻撃が通じるか分からないが、拳で何とかするしか無さそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る