プロローグ3.沢木翔太の場合
突然だが、俺はコイツが嫌いだ。いや、嫌いというのは違うか。気に入らない所が多い、と言った方がいいかも知れない。理由は簡単、コイツはメチャメチャモテるのだ。いや、モテるというのは違うか。やたらとチャンスが多い、と言うべきかも知れない。
今日一日だけでも、美少女転校生・千川原美夜、学園ナンバーワン美女・橘もどか様と、俺からすれば一生分の運を使い切ったとも言い切れる程、可愛い女の子と仲良くなれるチャンスがあった。…にも関わらず、コイツはそのどちらのチャンスも無駄にした。いや、無駄にしたと言うより、わざと避けたと言う方がいいかも知れない。
千川原美夜は、彼女が自己紹介を終え顔を上げた瞬間にコイツの顔を見るなり、「あ!」と声を上げ、休み時間の最中も事あるごとにコイツに話しかけていたが全て無視していた。もどか様に至っては泣かせていた。
うん、俺やっぱりコイツの事嫌いだ。
「お前、女の子に興味ねーの?」
学校からの帰り道、俺は問い掛けた。
「何だよ急に?」
「今日の事だよ、お前なんか避けてるみてーじゃん」
「別に。そんなつもりはないけどな」
いつもこんな感じではぐらかされる。しかし、今日はとことん問い詰めるつもりでいた。
「いーや、何か理由があるね。この前だってお前…」
「そこの少年」
俺の言葉を遮って、後ろから野太い声が聞こえた。驚いて振り返ると、すぐ目の前に大柄な男が立っていた。俺は驚き、思わず飛び上がった。
「な!何だよあんた!?」
夕暮れの暗がりで表情はハッキリと見えなかったが、その男は笑っているようだった。
「失礼、君ではなく、隣の少年に用がある」
その言葉を聞いて、俺は隣にいるソイツを睨んだ。…またかよ、コイツと一緒にいると何かとトラブルに巻き込まれるんだ。不良に絡まれたり、犬に追いかけ回されたりなんかは可愛い方で、乗っていたバスが凶悪犯にバスジャックされた事さえある。本当にロクな事がない。とにかく関わらないのが一番、俺は尻についた砂を払って立ち上がった。
「おっさん、悪いけど俺達帰る所なんだ。じゃあな」
そう言って歩き出そうとすると、そのおっさんは小さな声で呟いた。
「君の運命を知っている」
その言葉に、俺達はもう一度振り返った。その男は、魔法のようにその場から姿を消していた。
「お、おい…あのおっさん…」
俺は怖くなってそう言うと、隣にいるソイツを見た。ソイツは俺が今まで見た事のない、思い詰めたような表情でおっさんが消えた場所を見詰めていた。
「だ、大丈夫か、お前?」
「探したぜ!お二人さん」
突然、背中から大声がした。俺はまた飛び上がって振り返った。そこにいたのは、顔中絆創膏だらけの男と、四〜五人の男達がニヤニヤとしながら立っていた。
…あ!アイツ、この前ゲームセンターで喧嘩を売ってきた隣町の学校のヤツだ!
「この前はよくもやってくれたなぁ…!今日はこの前みたいにはいかないぜ!」
クソ…!このままではコイツまでやられちまう……いや、原因はコイツがヤツらの内の一人の足を間違って踏んだからなんだけど……とにかく、俺はどうなっても構わない。しかしイケ好かないとは言えコイツは友達だ。コイツを守るために俺は盾になる!
「ここは俺に任せて先に行け!」
決まった…!今の俺、多分最高にカッコイイ…!きっとコイツは、「お前を置いて逃げられるか!俺も一緒に戦う!」と言うに違いない。そして俺達の友情は深まるのだ。
俺は拳を構え返事を待つ。すると目の前のヤツらが怪訝な表情、と言うより哀れみの目で俺を見ていた。
「…お前のダチ、もう走って逃げたぜ?」
「へ?」
振り返ると、そこには誰もいなかった。俺達の間を、ヒュウと冷たい風が通り過ぎて行った。
「………ホントに行くんじゃね〜よバッキャロ〜〜〜〜〜〜!!!」
俺の叫び声は虚しく夕暮れに溶けていった。
その後、俺が一週間の入院生活を強いられたのは言うまでもない。
うん、俺やっぱりアイツの事嫌いだ。
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