第64話 スキルVSスキル
「……何故ここに?」
「アンタらが情けない戦いしてるからでしょ? そんくらい頭動かせよな」
ジュリアはそう言いながら指をパチンと弾いた。
「え……えっ? うわぁっ!?」
セイヤの着ているローブに青白い炎が着火し、またたく間に体全体を包み込む。
「うわっ!?うわあっ!?」
「知ってると思うけど、アタシの炎はお前のと違うから。アタシの意思以外で消せねーから。早く謝ったほうがいーよ?」
「す……すびばせンッッ!! フガ……不甲斐な……うがあああ!?」
セイヤは青い火だるまとなって、斜面を転がり落ちていった。
「オクト、しつけは済ませておくから。そっちはヨロシク~」
そう言うと、ジュリアは火だるまが転がり落ちていった方に歩いていった。
「自分の部下だろ? あそこまでやる必要ないだろ」
つい数分前まで戦ってた相手に、妙な同情が生まれた。が、オクトはそんな事を意にも介さず答える。
「ああ、俺の部下だよ。だからちゃんと仕事ができない無能には相応のペナルティを課す」
「まるで暴君だな。それが魔王を倒し、民衆を導く勇者様の姿か?」
「わかってねぇなぁ。こうでもしなきゃこの世界を統治する事なんて出来ない」
「統治? 世界中の町や村を滅ぼして何を言……」
「そんなことよりお前、日本語はどうした?」
オクトがオレの言葉を遮った。
「なんでお前の言葉が、耳からじゃなくて頭に直接流れてくるんだ? まさかとは思うけど、お前この世界の言葉話してたりする?」
「ああ、そうだ」
「………プッ」
オクトは真顔で顔で、オレを見つめ、やがて抑えきれなくなったように吹き出した。
「ウハハハハッ!! 嘘だろお前!? 〈自動翻訳〉も持ってねえ無能とは思ってたけど、だからといってわざわざ言葉覚えるか? 無能も一周回ると天才だな!」
横に立つシャリポが、堪えられずに一歩前に踏み出した。
「痴れ者が!! この方は、この世界の叡智を司りし
オクトが爆笑をやめる。
「あーあ出たよ、うるせえのが。だからエルフ族は嫌いなんだよ」
〈自動翻訳〉はギョンボーレのことをエルフと訳しているらしい。確かに、その風貌を見たオレたちの第一印象もそうだった。けど、彼らを正しい言葉で呼ばない所に、転生者たちの傲慢が見て取れる。
「大賢者? そういえば王が紹介してくれたエルフの学者が言ってたな。歴史上数名しかいない、転生者の最高位……だっけ? それをお前が名乗ってるの? じゃあ大したことのない称号ってことだな」
「貴様!!」
「あの学者、転生者にとって大切な事とかいって歴史の授業受けさせられたけど、それがまぁウザくてさ。物語としてはまぁ面白かったけど、やれ見習えとか、やれ正しい心構えはとかうるせーの。事故に見せかけて、ジュリアが塔から突き落としちゃったけど」
「なっ!? ……まさか、フェルマテス殿も貴様らが殺したのか!?」
「そうだよ?」
その返答を聞くと同時に、シャリポはオクトに突っ込んでいった。剣を抜き放ち、炎熱呪文をかけ、巨大な炎の刀身を作り上げて斬りかかる。
「死ねええええええええっ!!」
「嫌に決まってんだろ」
オクトは、右肩の肩章が垂れ下がった片マントを翻す。厚手の布でしか無いはずのそれが、頑強な盾のように炎の剣の一撃を受け止め、さらに刀身を包み込んで炎を消してしまった。
あれは……魔石か!? 精緻な黄金細工があしらわれてる肩章の中央には魔石を加工した石がはめられている。いや肩章だけじゃない。首飾りに胸当て、篭手にすね当て、剣の鞘、至る所に同じ石が付いている。全身
「おらよっ」
「ぐはっ!?」
シャリポの剣を無効化したオクトは、すね当ての魔石を輝かせながら、シャリポのハラに蹴りを加えた。サッカーボールのように、シャリポの身体が放物線を描いて丘の向こうへ飛んでいく。
「オクトォッッ!!」
オレは〈連続攻撃〉スキルを発動させる。魔石だ。身体中の魔石を破壊すれば、コイツの力は激減するはず。魔石は8箇所……同時8連撃。簡単だ、辞書を作るよりも遥かに……
「ほい、ほい、ほい、ほい、ほい、ほい、ほい、ほい」
……嘘だろ? 8連撃が全て防がれた。ちがう。これは〈連続攻撃〉だ。オクトも同じスキルを、オレにぶつけてきたのだ。
辞書に文字を書くときにしか使ってこなかったオレのとは違い、オクトの攻撃は一撃一撃が重い。8撃目を受け止める頃には、オレの身体はボロボロになり、地面に突っ伏してしまった。
「……そんな……なんでそのスキルを」
「あの古城で、軽率にスキルを見せたのが仇になったな」
オクトはオレを見下ろす。
「俺のスキルは〈スキルトレース〉だ。この目で見たスキルを、完璧に再現することが出来る」
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